エラソーなのは相手を怖がっているから? 中国が怖れる3つの国

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エラソーなのは相手を怖がっているから? 中国が怖れる3つの国

 中国の輸入額は2015年9月まで11カ月連続で前年水準を下回り、今年1〜9月の累計では前年同期比で15.3%減少。中国経済は低迷の一途をたどっている。
 今や多くの日系企業にとって中国は重要な生産拠点であるだけでなく、日本国内には中国人観光客があふれていることを考えても、中国経済の落ち込みが日本経済に与えるインパクトは大きい。
 今回取り上げる『大班 世界最大のマフィア・中国共産党を手玉にとった日本人』(集英社/刊)は、中国で現地のマフィアたちと交渉し、ことごとくビジネスを成功させていく、ある日本人を主人公に据えたノンフィクション・ノベル。実在する人物への綿密な取材にもとづき執筆された本作は、中国社会の実態を照らし出している。
 本作の執筆経緯、また長期にわたる取材で見えてきた中国社会について、著者の加藤鉱さんに話をうかがった。今回はその後編である。

――元々、加藤さんは中国に興味を持ったきっかけがあったのですか? もしあったとすれば、きっかけは何ですか?

加藤:大袈裟に言えば運命だったと思っています。務めていた会社でたまたま香港勤務になったのがすべての始まりでした。香港支局の立ち上げを自ら行ったため、さまざまな香港人と接触し、刺激を受けました。香港赴任とほぼ同時に、北京であの天安門事件が起きた。北京から逃げてきた学生を香港の学生は地下ルートでどんどん受け入れていました。私の住居のすぐそばにあるハッピーバレーの競馬場に歌手のテレサ・テンが突然現れ、北京の学生の民主化要求を支持する発言をした姿は、いまでもこの目に焼き付いています。そのときだったと思います。返還を見届けてやろうと決めたのは。

――本作を書き終えて、書き始める前に抱いていた中国と今の印象は変わりましたか? もし変化していれば、どのように変化しましたか?

加藤:先代の胡錦濤体制までは改革開放の設計者・?小平が敷いた「韜光養晦」路線、つまり、能あるタカは爪を隠す姿勢を濃淡の差こそあれ維持してきました。それが、習近平が国家主席の座に就いてからはガラリと変わりました。いまのところアメリカは相手にしていないようですが、米中で世界を牛耳ろうと露骨に強面を見せるようになっています。
けれども、一般の中国人はなんら変わっていません。いかに自分の利益を追求するかだけを考えて行動しています。極端な話、会社の利益などどうでもいいと思っている。リーダーが替わったぐらいで、4000年続く中国人のメンタリティが変わるはずがありません。

――取材中、多くの中国人に接するなかで、加藤さんが実感した、日本人と中国人の「交渉の場」におけるコミュニケーションの取り方に関しての違いとはどのようなものがあるでしょうか。

加藤:本書にも交渉の場面が出てきますが、基本的に中国側はトップダウンなので、たいていは総経理(社長)や董事長(会長)が出てきます。ところが、日本側は現場担当者レベルで、日本本社のトップはなかなか出てこないことが多い。困るのは、交渉がこじれた場合です。日本人担当者は大きな決断をする権限がありません。「本社に持ち帰って、結論を出します」となりがちで、みすみすチャンスを逃すことになります。本来は相手がトップならば、こちらもトップを差し向けて、サシで話をつければいいのです。ビジネスは結果ですから、どちらがいいとは言えませんが、スピード感の点で大きな隔たりがあるといつも思います。
それと日本の場合は交渉を幾度も重ねて折り合いをつけていくスタイルが好まれるようですが、中国式はその逆で、トップが一気呵成に決めてしまうケースが圧倒的に多いのです。

――四半世紀にわたって中国を見てこられたなかで、中国のどのような部分に最も変化を感じますか。

加藤:経済的に豊かになりました。もちろん深刻な格差という問題はありますが、ここでは敢えて言及しません。
1992年に中国の縫製工場を取材したときに聞いた女工の月給は400元で、そのうちの9割を田舎で暮らす両親に仕送りしていました。当時の彼女たちが欲しがっていたものはラジカセでした。いまでは出来高払いで働けば2500〜4000元稼げるまでになりましたが、彼女たちはその大半を自分のために使うようになっています。

――また、四半世紀にわたって中国と関わってきたご経験から、「日本にしか住んだことのない日本人が抱く中国人像」や「日本メディアの中国報道の仕方」について、何か思われることがあれば教えてください。

加藤:中国で苦労しているのは日系企業だけではありません。中国の地場企業を含めて、台湾系も欧米系もすべての企業が辛酸を舐めさせながら今日に至っているのです。
評論家のなかには現実を無視して、中国なしでも日本はやっていけるという暴論を吐く人が結構おられますが、中国に対する冷静な認識を完全に失っている方も多いかと思います。いまや日本の対中貿易額は対米の約2倍に達しているのですから。
実際には、中国なしには日本の企業は成り立たなくなってしまっているのです。もっとも大きな要因は、多くの産業分野で日本から中国へのクラスター(関連産業集積)移転が完了してしまったことでしょう。その代表は電気・電子部品。もはや日本には電気・電子部品をつくりたくとも、関連企業が根こそぎ中国(主に広東省)に出てしまい、もう何もつくれないのが現状です。クラスターの移転完了は中国への技術移転完了を意味します。
完成品にしても、たとえば私たちが取材でつかうボイスレコーダーにはメイドインジャパンがひとつもありません。産業界はいまになって慌てているようですが、生き残りのためにラストリゾートを中国に定めたのは、日本企業の意志でした。残念ながらこれが現実なのです。

最近の日本メディアの論調、政治家の発言などをみると、余裕を失っているなと感じます。2010年に日本がGDPで中国に抜かれたことが原因なのかもしれません。2014年には中国のGDPは日本の2倍になってしまいました。
しかし、13億の人口をもつ中国がGDPで日本を抜くのは、1990年に冷戦構造が崩壊した時点で約束されていました。なぜなら、急速に経済のグローバル化が進むなかで、世界一豊富で廉価な労働力を提供できるのは中国だけだったからです。こうした経緯を冷静に見つめてみれば、なんの不思議もないことなのです。
日本は先進国として、成熟国として、もっと余裕をもって、冷静な視座で中国に接していくべきでしょう。かつてある大物共産党員が「中国人が怖いと思っている国が3つあるのだ」と私に言ってきました。それはアメリカとロシアと日本でした。中国は日本を脅威と認めているからこそ、不遜な態度に終始する。そう捉えるべきです。

――加藤さんが今後、中国について新たに作品を執筆なさるとして、手がけたいテーマなどありましたら教えてください。

加藤:『大班II』の構想を練っている最中です。今回の主人公・千住はメーカーの人間でしたが、次は中国のサービス業を舞台にした物語を書きたいと思っています。

――最後に読者の皆様へメッセージをお願いします。

加藤:魅力のある人に人は集まっていく。それは世界のどこでも同じだと思います。
「人生でもっとも大切なのは『食うこと』と『笑うこと』ではないでしょうか。旨い食い物と笑いが絶えないところに人は自然と集まってくるものなのです。これは万国共通の方程式で、会社をうまく運営するための二大要素なのだと考えています」
主人公の千住の言葉に改めて思いを馳せていただければ幸いです。

(了)


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