父親を超えられない社会(武蔵野大学,杏林大学兼任講師 舞田敏彦)
今回は舞田敏彦さんのブログ『データえっせい』からご寄稿いただきました。
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父親を超えられない社会(武蔵野大学,杏林大学兼任講師 舞田敏彦)
「国勢社会調査プログラム」(ISSP)という組織が毎年、特定の主題を据えて国際意識調査をしているのですが、2009年の「社会的不平等」第4回調査と2012年の「家族とジェンダー」第4回調査のローデータを入手しました。
『ISSP』
http://www.issp.org/index.php
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https://px1img.getnews.jp/img/archives/2015/10/d01.jpg
上記のISSPサイトにて、ローデータが公開されています。氏名、メアド、使用目的を入力するだけで、誰でもダウンロードできます。SASとSPSSのファイルでアップされています。私はSPSSを持ちませんで、昨日大学でDLし、エクセルに変換しました。
私の場合、SPSSよりエクセルのほうが使い勝手がいいのですよね。いろいろ小回りも利くし・・・。このとおり完全に自己流ですので、どっかの研究所の調査員に雇われても、お役に立てそうにありません。
ともあれ自分のパソコンに移しましたので、自由自在にデータを分析できます。2009年の「社会的不平等」第4回調査のファイルには、41か国・55238人の回答データが未加工のまま詰まっています(上の画面)。
興味ある設問が満載で、どこから分析しようかと迷うのですが、私はQ11の設問に興味を持ちました。「今の(最後にしていた)仕事の地位レベルは、14~16歳の頃の父と比べてどうか?」という問いです。仕事に就いている者、もしくは仕事に就いたことがある者に尋ねています。
今の日本のように、発展の山を越えてしまった社会では、「子は親を超えることはできない」とよく言われます。それは本当か?他国ではどうか? 私は、自分の世代(30代男性)の回答を集計してみました。下の図は、主要7か国の帯グラフです。
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https://px1img.getnews.jp/img/archives/2015/10/d02.jpg
日本の特異性が際立っています。今の仕事の地位レベルが父よりも低いと考えているのは、他の6か国では2割ほどですが、日本では6割にも達しています。
正直、日本の結果はこうだろうな、という予測はしていました。われわれはロスジェネでもありますし。しかし、他国はそうでないことに驚いています。日本の対象者は、お決まりの「謙虚」な回答をしたのでしょうか。それを差し引いても、この図の模様には唖然とします。
ISSP「社会的不平等」第4回調査の対象は41か国ですが、これら全体の中でみたらどうでしょう。高い(はるかに高い+高い)と、低い(低い+はるかに低い)の回答比率をとってみました。朝日新聞流に、中抜きのグラフにしてみましょう。
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https://px1img.getnews.jp/img/archives/2015/10/d03.jpg
ほとんどの国で、青色のバーが緑色より長くなっています。子が父を超えている社会が多い中、その逆の社会は3国だけです(日本、フィンランド、トルコ)。しかし、対象者の6割が「父よりも低い」と答えているのは、まぎれもなくわが国だけ。
日本の対極にあるのが中国です、30代の7割が「父を超えている」と思っています。勢いありますものね、この国は。
日本の状況が、90年代以降の「失われた20年」の産物であるのは明らか。若者に過重な期待をしてはいけない、自分たちと同じ人生行路を彼らが歩めると思ってはいけない。上の世代は、この点を自覚すべきでしょう。
戸梶圭太さんの『西東京市白光団地の最凶じいちゃん・イワオ74』第3巻の最後に、こんなくだりが出てきます(391ページ)。いつまでも一人前になれない孫の直人を、イワオが小馬鹿にしたところ、直人は反論。それに対しイワオは・・・
「舞田敏彦@tmaita77」 2015年9月16日 『Twitter』
https://twitter.com/tmaita77/status/644104347366785024
直人「じいちゃんの時代と俺の時代はぜんぜん違うんだよ、就職して彼女作って結婚して子ども作るとか、もう不可能なんだよ、それが現実んなんだよ」
イワオ「なにもそのコースだけが一人前になるってことじゃない。勘違いするな。じゃあ半人前でもいい」。
一人前の見方の変更、場合によっては「半人前」でもいい・・・。上の世代に求められるのは、うざったい説教ではなく、時代状況を見越した、こうした大らかな構えです。それがないと、若者との溝は深まるばかり。自分たちが歩んだコースを、後続世代が子羊のように大人しくついてくると思ってはいけない。
戸梶さんは、今回データで示したような日本の状況を見越していたのでしょう。それへの処方箋を、登場人物の口に語らせるています。この人の慧眼には、感服させられるばかりです。
執筆: この記事は舞田敏彦さんのブログ『データえっせい』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2015年10月11日時点のものです。
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