狂った面白さに映画ファンは虜! 『ナイトクローラー』監督インタビュー「終わりないバイオレンスを撮りにいく」
まだハリウッドが取り上げたことのないテーマを、センセーショナルかつリアルに描き、全米で大ヒット。ジェイク・ギレンホールの恐るべき怪演に注目が集まっている映画『ナイトクローラー』が8月22日より全国公開中。「恐ろしいほど面白い!」と映画ファンの間で話題となっています。
【独占】映画『ナイトクローラー』本編映像解禁! 間髪入れずにペラペラ……主人公“ルイス”はあなたの周りにもいるかも?
https://getnews.jp/archives/1092246 [リンク]
我々の隣にもいるごく普通の男に潜む底なしの狂気に満ちた怪演により日本で早くも絶賛の声が相次ぎ、ロバート・デ・ニーロが演じた『タクシードライバー』のトラヴィスの再来とも言われている。アカデミー賞ノミネート、米国レビューサイトRotten Tomatoesで驚異の満足度95%といった高い評価を得た本作。
この緻密かつスリリングな脚本を書きあげたのが、ダン・ギルロイ監督。『落下の王国』(06)、『リアル・スティール』(11)などの脚本を担当。この『ナイトクローラー』ではアカデミー脚本賞にノミネートされています。今回はダン・ギルロイ監督に電話インタビューを敢行。映画について色々とお話を伺ってきました。
映画ファンが唸った! 見事な脚本について
―『ナイトクローラー』は見た人全てが唸ってしまう見事な脚本だと感じました。ズバリ、優れた脚本を書く為に一番大事な事とはどんな事だと思いますか?
ダン・ギルロイ監督:いい質問だ。大事なのはまず他の人が聞いたことのないアイディアをみつけることだ。そしてキャラクター、記憶に残るような。その登場人物がすきだろうと嫌いだろうとその人間と一緒にすごしたいと思うような人間だ。いい人、悪い人ではなく、目が離せなくなるような。悪いのに引き込まれる人っているよね。実際に書くことについては、何かに優れるようになるにはなんだって時間がかかるんだ。今回のような脚本を書けるようになるには僕においては何年もかかった。最初のころだったらこういうふうに物語を語ることができなかったと思う。このアイディアで観客とコミュニケーションとる能力がなかった。なにごとにも優れるには努力も必要なんだ。
―ルーには共感できないまでも彼の心情は理解できました。むしろ恐ろしかったのはニーナの方です。本来、公正であるべきはずの報道番組のディレクターが、自分が組み立てたストーリー通りの映像をルーに撮影させ、ニュースで流そうとする。すでに“情報操作”が始まっている。日本でも“やらせ”や虚偽報道などがしばしば問題になっていますが、こうしたメディアの質の低下に対する警鐘を鳴らす意図もあったのでしょうか。
ダン・ギルロイ監督:ひとつの側面だね。ニーナのような人はどの国にもいるだろう。ニュース部門の責任者。数週に一度視聴率があがってくる。ボスから電話がかかってきて視聴率あげないと仕事失うぞと怒鳴られる。テレビのディレクターとして視聴者が経済的なことや政治的なことを延々みてられないことを知っている。短くて暴力的で「あれテレビでみた?」といわれるようなものが求められているんだ。
ニーナは、いまや競合となったインターネットに負けないようすごいプレッシャーにさらされている。今のニュース番組の競争はより激化していてもっと刺激的なものを求められている。物語をつくりあげろ。でっち上げろ、という圧力。ニーナとはそんなキャラクターだと捉えている。ニーナはとにかく切羽詰まった女性だ。昔はいい悪いを判断してたが、今は自分に保険をかけないといけない年になってるんだ。一生遊ぶ金はなく、生きるために働く必要がある。仕事を失うことを何よりも恐れているんだ。そういう切羽つまって、今夜流すネタを必死で探しているような人は、世界中のニュースの現場にはたくさんいると思う。
―『ボーン・レガシー』もそうですが、本作は日常に潜むスリルやサスペンスをリアルに描いています。監督が普段の生活で、そういった恐怖を感じる事があるのでしょうか?
ダン・ギルロイ監督:ルーを意図的に人間らしく撮ったんだ。人と同じように認められたい、仕事を高めたい、となりにいる普通の人と変わらない。観客に「あいつはこんなことをしてるのは、あいつが狂ったサイコパスだからだ」と思われて、だから自分とは関係ないと線をひかれてしまったらそこで終わってしまう。自分やあなたもルーになりうる、日常に潜んでいることを伝えたかったんだ。
ルーのようなやり方で、成功のためには倫理をおかし、部下から搾取しても罰を受けず成功できてしまうのがハイパー資本主義の現代だと思っていて、そんな今の世界を憂いて警鐘を鳴らしているんだ。
―アカデミー賞脚本賞にノミネートされたときの気持ちと、ノミネートがあなたにもたらしたものを教えてください。
ダン・ギルロイ監督:すごく変な気持ちだった。他の賞にもいろいろノミネートされて、いろんな受賞式にみんなで出席したりした。賞のために映画をつくったわけでないから驚いたよ。感謝している。そしてアカデミー賞ノミネーションで自分の名前が呼ばれたときはただ驚いた。オーマイゴッド。素晴らしいことなんだけど、なんというか非現実的で実感が沸かないというか、変な感じだった。自分ではない誰か他人に起こってることのように思ったよ。
―これまで様々な作品の脚本を執筆なさっていますが、今回自ら映像化しようと思った決定的理由を教えてください。
ダン・ギルロイ監督:監督はやりたいと思っていた。ここ数年自分が書いた脚本と違う解釈で撮られる作品をみたりして自分の意図通りにとってみたいと思っていた。本作は自分にとってパーソナルな作品でほかの監督には映像化できない、してほしくないと思ったんだ。予算が800万ドルで撮影は26日間しかない、という中での仕事はギャンブルだったと思うが、自分はプレッシャーや制約に強いほうだから。ナイトクローラーには強い思いが詰まっていたんだ。この世界への警鐘を鳴らしたいと思ったんだ。
自分にとってパーソナルな脚本ができたらまた監督やってみたいと思っている。
報道の闇、“ナイトクローラー”という仕事
―本作は、ルーやニーナだけが悪いのでは無く、より刺激的な写真や映像を観たいと求めてしまう私たち視聴者にも罪があると思いました。監督はそういった現代社会についてどうお考えでしょうか?
ダン・ギルロイ監督:まさに狙いだった。人が、待てよ、もしかして問題はルーやニーナじゃなくてそれをみてる私たちだったのでは?と立ち止まってくれることが。でもそれが罪かというとそれも違うと思う。みずにはいられないのが人間だから。道路で事故がおこって3人死んだら大変な渋滞になる。みんな現場がみたいから見物するんだ。そしてそれはみんなそうなんだ。ただそれを自覚することが大事だと思う。毎日PCの前で何をみるか。酷い映像をみるかどうか自分で選択する。映像は影響を与えるものだから、何をみるかは自分で気をつけなくてはいけない。
―実際に何人かのナイトクローラーにお会いされたようですが、彼らのリアルな現場の話を聞いて、ダン監督が一番驚いたエピソードがありましたら教えてください。
ダン・ギルロイ監督:ジェイクと撮影のロバートと何晩かナイトクローラーたちと出かけたんだ。彼らがどれだけ暴力的な現場をみてるかを知って驚いたんだ。何時間か一緒にいる間に車の事故があって車が橋の下に落ちて重傷者がでた。車から出て橋の下の血だらけの様子を撮影してるんだ。プロとして冷静に撮影して5分で編集して2000ドルになるんだ。彼らの仕事の見学だったわけだけど、まるで戦争だと思った。それで火事とかギャングの撃ち合いとか、終わりないバイオレンスを撮りにいくんだ。
驚いたことがあってね。彼らにルーのようなことをするかと聞いたら、「いや俺らはやらないよ、法律は守るよ」といったんだ。でも次に出かけたとき、深夜3時くらいでLAの大きな高速を走ってて、一人が指差して「何日か前ここでいい事故があったんだ」という。何?と聞いたら「トラックが止まっちゃったんだと。だから俺は車を寄せてカメラをかまえて待ったんだ。15分待ったら3台車が玉突き事故を起こしたんだ」と。つまり彼は警察を呼んでいないんだ。彼は車の事故を待ってたんだ。それって間違っていないか?と聞いたら「僕が事故を起こしたわけではない、事故を防ぐのは自分の仕事じゃない」と。彼のモラルは興味深いよ。
狂気の主人公“ルー”と、彼を演じきったジェイク・ギレンホール
―ダン監督は初監督作でジェイク・ギレンホールを主演に起用されてますが、どの段階で配役を決めていましたか?また彼が関わることで、作品にどんな効果が生まれることを期待しましたか?
ダン・ギルロイ監督:まずジェイクは素晴らしい俳優であること。5年くらい前何かのインタビューで商業的な作品より、挑戦できる役をやりたいと公言してたんだ。この作品はまさに彼にぴったりだと思った。『プリズナーズ』の撮影中に会ったんだけど、いきなり5時間くらい話が止まらなかった。彼はプロデューサーとしても入ったけど、それは彼がとにかく作品に入りこんで一緒に作品をつくるという意識が高かったからなんだ。一緒に作った作品だ。彼の演技への入りこみ方はすごかった。素晴らしい俳優だよ。
―ルーが、薄暗いマンションで観葉植物に水をやり、アイロンをかけながら中世の時代劇(?)ドラマを見ながら笑う。しかもその笑いがワンテンポずれている。この描写が強く印象に残っています。ギルロイ監督はこのシーンをどのような思いで書いたのでしょう。
ダン・ギルロイ監督:彼は孤独な人で狭い部屋に一人で暮らしている。植物は彼がケアしなくてはいけない唯一のものだ。当初脚本には、彼がシャツにアイロンをかけててテレビをみてる、と書いて、笑うとは書いてない。彼は一人でテレビをみるくらいしかすることがないと示したシーンだった。このシーンの撮影の数日前にジェイクが40年代の俳優ダニー・ケイの大ファンだといってたんだ。だからダニー・ケイの映画をテレビにうつして、さらにその中からコミカルな笑えるシーンを編集してうつしたんだ。ジェイクの反応がみたくてね。テレビにシーンをうつして、アイロンかけながらみてて、映像をみて笑っちゃったんだ。で、カメラの後ろの僕らのほうをみて信じられないって顔をしたんだよね。
―ルイスが鏡を割るシーンは、ギレンホールさんの即興だったそうですが、それを見たときのあなたの反応を教えてください。ほかにギレンホールさんの演技で驚かされたシーンがあればそれを教えてください。
ダン・ギルロイ監督:アパートでの撮影は半日で全部撮らなくてはいけなくて時間がなかった。すでに16~17時間撮影しててもう朝の5時くらいにあの鏡のシーンになった。みんな疲れてストレスが溜まってて、ジェイクが鏡を強くたたいたんだ。最初ジェイクは大丈夫だと思ったけど、出てきたら実は血だらけで、親指みせてくれたらパックリきれてて。縦4cmくらいでさらに幅3cmくらい平面でパックリ。とにかく凄い量の血が出たよ。それで朝6時くらいにジェイクのアシスタントと僕の3人で車のってビバリーヒルズの病院にいって、4時間かけてジェイクが42針縫われてるのをみまもったよ。その8時間後にはまた撮影開始したよ。ちゃんと撮れてるか心配だったけど編集の兄とみてていい箇所があったからよかったよ。
ジェイクは俳優としていつも驚かされるよ。小さいことだと、アシスタントのリックがパニックになったときに、ジェイクはリック役のリズの肩に手をやるんだ、慰めるように。ルーはそんなことやらないんじゃないかと思ったけど実際はすごくよく成立してたよ。
―ジェイクはハリウッドスターなので、むしろパパラッチされる側にいると思いますが、この役について最初彼は何と言っていましたか?
ダン・ギルロイ監督:LAで撮影してるとパパラッチに撮影されるんだ。すごい邪魔なんだよ、仕事しようとしてるのに。ナイトクローラーについて撮影してるときに他の人に撮影されてるってことはあったね。変だよね。
あとは別に何もいってなかったな。
ロサンゼルスの描写、映像について
―本作は脚本やギレンホールの怪演など見所がたくさんありますが、緊張感のある撮影も一つだと思います。撮影で気をつけた事、本作で新たに取り入れた機材やガジェットがありましたら教えてください。
ダン・ギルロイ監督:大きいこととして、まずルーを偏見したり見下さないということを決めたんだ。彼を悪者という描き方は一切しなかった。例えば音楽、明るい音楽をつかったんだ。彼の頭に流れてる音楽をイメージした。ルーのサウンドトラックだと考えた。自己肯定するような。映画的に彼を危険にフィルムノワール的に彼が現れると音楽がなって影が近づいてきて、といった描き方はしなかった。別の見せ方をしたんだ。ルーを人間らしく。笑みを浮かべて。ルーへの偏見を避けることで一定の緊張感をつくった。それで観客をひきつける。怖い映画だったら悪者がわかりやすくて、ここからくるぞと身構えるけど、そういう示唆はしなかった。観客はルーが普通の人にみえて彼を追っているという緊張感が宿る。なぜこの男に魅力を感じるんだろう? 次どうなるんだろう? と思わせる。狂人ではなく日常にいる人なのにルーのような一線を越えてしまうというのが大事だった。
あとルーは地を這うコヨーテのような動物的な役柄だと思っていたから最初から空撮はしないときめたんだ。ネイチャードキュメンタリーのような撮り方をしたんだ。またテクニックとして店で容疑者と警察が撃ち合うシーンの映像はすべてルーのカメラの画面を通してルーの視点でみせたりもしたよ。
―この映画では、ロサンゼルスの夜の街がとても重要なポイントになっており、昼間と違って夜は何が潜んでいるかが分からない恐怖を感じました。監督はニューヨークや他都市とは異なる、ロサンゼルスならではの恐怖は何だと思いますか?
ダン・ギルロイ監督:LAが描かれるときだいたい高速とダウンタウン。なんかグレーな都市という描かれ方するけど、実際すむと全然違うと思うんだ。自然があって山と海があって、タランチュラが歩いてたり、コヨーテが横切ったり。僕が捉えるLAは実はもっと野生的で手におえない場所なんだ。だからそんなところを撮りたいと思った。撮影のロバートは近くに住んでてルーが手に入れるダッジ・チャレンジャーを借りて撮影の3ヶ月前から夜中にLA中を走りまくったよ。明け方に夕飯食べてみたり。普段みれないLAの顔をみてまわったんだ。夜は恐ろしくて美しい。ニューヨーク出身だからニューヨークのほうがよっぽど四角く整理されている印象だよ。
【ダン・ギルロイ監督プロフィール】
1959年6月24日アメリカ、カリフォルニア州サンタモニカ生まれ。本作が初監督作品となる。脚本家として『トゥー・フォー・ザ・マネー』(05)、『落下の王国』(06)、『リアル・スティール』(11)などを担当、また兄トニー・ギルロイが脚本・監督を務めた『ボーン・レガシー』(12)の共同脚本も手掛けている。芸術一家の生まれで、父フランク・D・ギルロイはトニー賞およびピューリッツァー賞受賞戯曲家、双子の兄ジョン・ギルロイは『フィクサー』(07)、『ソルト』(10)、『ボーン・レガシー』(12)、『パシフィック・リム』(13)などを手がけた映画編集者。妻であるレネ・ルッソは、ルイスが撮影した映像を売り込むTV局のディレクター、ニーナ役で出演。
(C)2013 BOLD FILMS PRODUCITONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。