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「未曾有の津波」は東京電力を免責するのか―土木学会指針と電力業界の関係―

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※この原稿は環境エネルギー政策研究所 客員研究員田中信一郎氏よりご寄稿いただきました。
※文中に登場するURLについては、ガジェット通信本サイトにてリンクつきでまとめてありますので、そちらもご参照ください。

●「未曾有の津波」は東京電力を免責するのか―土木学会指針と電力業界の関係―

環境エネルギー政策研究所 客員研究員
博士(政治学) 田中信一郎
(2011年3月22日、2011年3月23日付記)

東京電力の武藤栄副社長(原子力・立地本部長)は3月21日、福島第一原発への津波が少なくとも高さ14メートルに及び、「未曾有の津波」だったとの見解を示した。(「14メートル、未曾有の津波」『東京新聞』3月22日付朝刊)

東京電力では、原発への津波について、第一原発で最大で 5.4~5.7 メートルの想定が前提だったという。そして、この想定は土木学会の指針に基づくもので、そこから「未曾有の津波」との表現が出てきたようだ。(「福島原発の津波は高さ14mか」『共同通信』3月21日配信)ちなみに、原子力損害の賠償に関する法律では、「原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によって生じたものであるときは、この限りでない。」(第3条)と定めている。

つまり、土木学会指針に基づいて適切に対策していたものの、土木学会指針に基づく想定を3倍近く上回る津波(=異常に巨大な天災地変)によって原発事故が引き起こされたとの見解を、武藤副社長は示したのである。

この会見は、21日夕方に枝野幸男官房長官が記者会見で「(生産者への補償について)まずは東京電力に責任を持っていただく」と発言した直後のものであり、農家への補償などについては「明言を避けた」(前掲『東京新聞』)とのことから、間接的に東京電力に責任がないことを示したものと思われる。

この東京電力の見解を支えているのは、土木学会指針という一点である。土木学会という言葉は、「第三者性」と「学術性」を聞く者(記者及び市民)にイメージさせる。すなわち、電力事業者の利害と無縁の専門家(=第三者性)が、純粋に科学的視点に基づいて策定した(=学術性)指針のように思わせるのだ。

しかし、土木学会指針は、本当に「第三者性」と「学術性」を備えているのであろうか。この土木学会指針とは、同学会のホームページによると、同学会原子力土木委員会津波評価部会が2001年に取りまとめた報告書「原子力発電所の津波評価技術」と考えられる。その後、この報告書は改定をされていない。この部会は、どのようなメンバーなのか。

ホームページで公表されている委員名簿によると、25 名の委員と 10 名の幹事で構成されている(1委員が幹事長を兼務)。

〈委員構成〉
大学研究者 7名
電力事業者 11 名(沖電を除く全電力会社+日本原子力発電+電源開発)
国・独法 6名(国交省2・保安院・原子力安全機構・港湾空港研・産総研)
公益法人 1名(財団法人電力中央研究所)

〈幹事構成〉
公益法人 4名(すべて電中研)
電力事業者 1名(東電)
事業者 5名(東電設計2・ユニック・三菱総研・シーマス)

一見して明らかなとおり、「電力事業者の利害と無縁」どころか、当事者が多数含まれている。東京電力に至っては、委員だけでなく実務を担う幹事にもメンバーを送り込み、子会社からも送り込んでいる。

要するに、土木学会指針は「第三者性」が強く疑われるものといえる。

そもそも、土木学会には一つの特徴が伺える。それは「発注者が主役」ということである。会員数を見ると、建設業が4分の1、コンサルタントが4分の1で、受注者側が半数を占めている。発注者側は国の官庁や独立行政法人、自治体、鉄道、道路、電力などを合わせて4分の1である。電力はそのなかでも少なく、ガスと合わせて 2.92%に過ぎない。それにもかかわらず、32 名の役員(理事+監事)のうち、大学研究者が 13名(内1名は元国交省工事事務所長)、行政関係者(国・独法・自治体・公益法人)が7名、発注事業者(鉄道・道路・電力)が7名(内1名は元国交省東北地方整備局長)、受注事業者(ゼネコン・コンサルタント)が5名である。

行政機関も発注側であることから、発注事業者が多くの理事を出していることが分かる。ちなみに電力事業者は、東京電力、東北電力(元国交省東北地方整備局長)、関西電力からそれぞれ理事が出ている。会員構成から見ると、電力事業者の出身理事が多いことは明白である。

この「発注者が主役」という傾向は、歴代会長を見るとさらに顕著である。

戦前に設立されて以来、官僚出身の会長が多く、1990年以降に就任した会長(21名)に限ってみても、9名が幹部官僚OB(事務次官・技監・局長・審議官などの経験者)で、東京電力OBも2名いる(2名とも原子力建設部長経験者)。国鉄幹部OBも含めると、発注者側出身の会長が12名と多数であった。

また、近藤徹前会長は建設省OB(元建設技監)であると同時に東北電力常任顧問も務めていた。なお、大学研究者は8名である。逆に、会員数のもっとも多い受注者側のゼネコン・コンサルタントは1名(コンサルタント)しかいない。

このように「発注者が主役」という環境下で策定された指針には、「学術性」について大きな疑念が生じる。それは、科学的視点だけでなく、「対策コスト」という視点も加味されて策定されたのではないかという疑念である。

「土木学会指針=科学的視点×対策コスト」という式は、発注事業者(電力事業者)の許容する範囲内で、指針が評価・策定されることを意味する。当然、科学的な基準などを弱める方向で作用するものだ。

以上のとおり、利害当事者が策定に関与し、発注事業者の影響力が強い学会で策定されたという事実は、指針が「お手盛り」なのではないかと疑わせるに十分である。

よって、土木学会指針を根拠として、東京電力が福島第一原発の事故における補償を免責されるということは、決して認められるべきではない。

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【付記】(2011 年3月23日)
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本稿に用いた土木学会原子力土木委員会津波評価部会名簿は、2011年3月22日に閲覧した2007年8月現在のものである。同名簿は、閲覧翌日の3月23日に更新され、現在は2011年3月現在の名簿に置き換えられている。現在の構成は、委員26名、幹事15名、オブザーバー1名となっている(1委員が幹事を兼務)。

これから明らかなとおり、名簿の更新は直ちに本論旨への影響を及ぼすものではないが、念のため付記するものである。

〈委員構成〉
大学研究者 8名
電力事業者 11 名(沖電を除く全電力会社+日本原子力発電+電源開発)
国・独法 6名(国交省2[1名は気象庁]・経産省・防衛省・原子力安全機構・港湾空港研)
公益法人 1名(財団法人電力中央研究所)

〈幹事構成〉
公益法人 4名(すべて電中研)
電力事業者 2名(東電)
事業者 9名(東電設計4・ユニック・三菱総研2・シーマス・エングローブコンサルタント)
〈オブザーバー〉 1名(日本原子力技術協会)

土木学会原子力土木委員会津波評価部会名簿
http://www.jsce.or.jp/committee/ceofnp/Tsunami/tnmlist.html


〈参考ホームページ〉
【土木学会】
http://www.jsce.or.jp/
【同概要】
http://www.jsce.or.jp/outline/index.shtml
【土木学会原子力土木委員会】
http://www.jsce.or.jp/committee/ceofnp/index.html
【土木学会原子力土木委員会津波評価部会名簿】
http://www.jsce.or.jp/committee/ceofnp/Tsunami/tnmlist.html

この原稿は環境エネルギー政策研究所 客員研究員田中信一郎氏よりご寄稿いただきました。

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