Jan Shotaro Stigter and Riki Eric Hidaka 『Double Happiness In Lonesome China』インタビュー(後編)
甘いピロー・トークや笑いが飛び交う、夜明け前の大都会に潜むこぼれ話しと夢枕が出発点となっているような、気持ちのいいサイケデリック・ドリーム・ポップ・ミュージックがここにある。
そう連想させるJan Shotaro Stigter and Riki Eric Hidakaによる共同作アルバム『DoubleHappiness In LonesomeChina』が完成した。大きな音楽ムーブメント無き時代に、突然変異のように、突如現れた美意識と、その先にあるサイケデリックかつ内観的なダイヤの原石のような名曲の数々を集めた、全12曲収録のアルバムがStereo Recordsからリリースとなった。
まるでニール・ヤングのアルバム『Tonight’s The Night』のように、アコースティック・ギターとエレクトリック・ギターが上手く自然と混ざり合ったりするフィーリングや、とろける虹色のアイスキャンディーのようなサイケデリックで甘いメロディーが、ジミー・ヘンドリックスのアルバム『Electric Ladyland』のようにスタジオ機材のエフェクトを通じて飛び交ったりするムードも、ニック・ドレイクのアルバム『Pink Moon』みたいにアコギ一本でのしっとりとした弾き語り楽曲までもが、バランス良くいっぱい詰まっている、聴きごたえのある内容のオリジナル・アルバムとなっている。
いい音楽には多少毒も必要だ。この『Double Happiness In Lonesome China』を聴いてみさえすればわかるだろう。この脳が気持ち良く揺れる音楽にきっと酔いしれるはずだからね。
実際に、ぼくも詞の朗読や12弦のアコースティック・ギターで参加させてもらっている収録曲の「Alain The Thinker Dub」や「Seven Gods of Tokyo」、そして、Jan Shotaro Stigterの弾き語りの「The Boy With Some Heroin In His Eyes」、Riki Eric Hidakaによる「天国への階段」へのオマージュにまでも少し聞こえて来る「ぶらぶらしていたい」などといった楽曲にどっぷりハマってしまっているくらいなのだから。
それでは、アルバム『Double Happiness In Lonesome China』の全貌を語ってくれたJan Shotaro StigterとRiki Eric Hidakaとのインタビューを、どうぞお楽しみ下さい。
(前編より続き)
―この前ゴールデン街で見せてくれたプロモーションビデオもふたり一緒にパリで撮っていたりもしたみたいだけど、MVでは作った曲を意識して全然違う目線で見たり、感じたりとかした?
RIKI「なんかとりあえず撮っとこうって言ったやつをJanが上手に作ってくれた。でも最終的にぴったりだし、すごい昔の映像とかも混ざっているから、あんまり目線とか関係ない。その歌のために作るとか、撮るとかじゃなかった気がする」
Jan「場所は、地球上のどこであろうと同じ匂いを感じ合っていると多分作った時の音と自然とリンクするというか。俺も編集しはじめて、お墓の映像があまりにも音に合っているから驚いたくらい」
RIKI「同じ人が作って演奏して録っているから同じ匂いになるんだと思う」
Jan「なんかやっぱり2人ともマジックの起こり方みたいなのも変化していくし。その時彼女いるいない、何買ってる、何飲んでるとか。そういうのってうちらの気づいてないところで変化しているんだと思う」
―リミックスのエイドリアン・シャーウッド的な感じでやっていたようなやつは、もう少し聴きたい。そういうの結構入っているじゃない?
Jan「よくわからない機械で録った」
RIKI「8トラックのMTRなんだけど」
Jan「その録ってくれたやつももちろん使いこなせるんだけど」
―家で録ってたんでしょ? エフェクトは色んな違うのにかけているのをもう一度いじり直すみたいな、そのバランスをとっているのかな。
Jan「みんな、おかしなことをやっているからね。そうじゃなくて、ちゃんとライヴ的なミックスもできたのは超よかったと思う。それ、いいよね。それ以外やり方がなかったし、そうした方がかっこいいっていう」
―聴きどころだよね。結構遊んでいたりしていてさ。
Jan「ドラムの音が最初と最後でボリューム違うとかさ。そういうところはすごい。でも音楽ってそういうものなわけだし」
RIKI「色んな音楽があるから俺は音楽がこうだっていうのはないけど、でも俺が好きなのはそう。それだけ。みんな、どうやってやるのかは知らないけど、自分の納得した音楽を、そのままのカタチでヴァイナルに出来るっていうこと。俺の、俺たちの納得は、あんな感じっていう」
Jan「俺の中では音楽はこうだというのは結構あって、自分の細胞の動きだったり心臓の動きだったり関節の潤滑油みたいなスムースさだったり、そういう全ての人間の細かい命を録り終わるまでにちゃんと聴こえさせたい、音で。骨の音とかそういう音ではなく細胞の破裂する音でもないけど、ちゃんと出して、それをちゃんと自分の美意識の中で調整して、それが一番美しい。赤ちゃん作るのもそうだしね」
―愛の結晶みたいな?
Jan「そういうこと」
―元々音楽ってレコードが先じゃなかったからね。普通にみんな、生でね。
RIKI「ものを叩いて音を出して音が大きくて最高だねっていう」
―それで集まって踊ったりしてさ、今日ちょっとマイナー入って泣かされそうになったよ、とかさ。一個の作品としてまとめているけども、本来集まった人たちと自然とやっていることと、そこで正直にみんな向き合って作ることが自然とあって。
RIKI「たしかに誰と集まってもあれが作れるわけじゃないから、それはもちろんそうだけど」
―多分あそこにまた違う人も参加していたら、何か違う感じもあっただろうからね。
Jan「結果的に集まってくれて音を出してくれたのは、俺たちと同じ理想郷に向かっている人達だったなって思う。一緒の舟に乗っている感じがする」
―波にものまれてないからね。飛んでいる。
Jan「うん、飛んでる」
―RIKIが思う理理想の聴き方はどういうものなのかな。
RIKI「俺は、誰かにこう聴いてほしいっていうのはない。本当に自分が嫌だと思ったら嫌だし、自分がいいじゃんと思ったらいいじゃんって、それ以外にない。例えば、それを誰かが褒めてくれたりしても、そんなの知らないし、俺は音楽で食おうと思って音楽を作っているわけじゃないから。そういう人たちはそういう人たちでそういうところで頑張ればいい。そういうのは嫌だ」
Jan「俺は、あの音を聴いて、支配されて人生狂っちゃうような人が出てくればいいと思う。それしかないんで。そういうあのアルバムから生まれた美しいエピソードが出てきたら、それは作っている時に思い描けなかった部分を引き出してくれていることになる」
―色んな人がそれぞれ見つけ出す話はあるだろうし。聴く方が勝手につけるものだと思うんだよね。俺も、多分、初期パン(初期パンク)に触発されて……(笑)。
Jan「初期パン(笑)」
RIKI「久しぶりに聞いた」
―でもあれで救われているから、その恩返しもあって。アメリカ時代、俺もそこで出会ってなかったらダメになっていたと思うからね。同じように、このアルバムでも、遊べていない子とか、自分が出せてない人とかが、こういう感じいいんだけど周りにいないなとか、ちょっと人のあたたかみを感じたり、もう少し自分の発想がぶっ飛んでいていいんだって思えるような人もいるだろうし。遊び心も入っているけど、さっき言ったインティメートな親密さ、それがなかったら成り立たないから、自由さと、ピュアな感じは。
Jan「聴いて、それよりもっと純粋なものを作ってくれる人がいたら、俺はすごく嬉しい」
―それがムーブメントみたいになって、みんなもう少し正直な感覚を重視すればいいね。振付どうこうとかこういう感じにしてとかじゃなくて、普通に好きなもの追求して、その中で生まれる曲を純粋さで収めて。それはそれでいいよね。
Jan「俺の場合は、ムーブメントが起こることが嬉しいんじゃなくて、俺もHIDAKAも音楽を聴くのが大好きだから、自分の聴きたい音楽がいっぱい溢れてきたらすごい幸せ」
―そういう感じの曲の海に、このアルバムも川として流れ込んでいく。
Jan「他の川からも流れてきて、ここに魚もいる、みたいな」
―やりたいことをやって聴いてもらうというのが本来の姿だと思う。今ってそういうのが出来てない人多いからすごく贅沢だし、これがきっかけになって本当にやりたいことやろうとか、そういうことになったらいい。
RIKI「俺はさっきも言ったけど、Janとは違ってこれを聴いて人にどう思ってほしいというのはマジでない。なんか、本当にそんなことは知らないし、頭がまともなやつらは勝手にそうするだろうし、なんか、人にどうこうしてほしいとか、人に何かを伝えたいとか、そういうのがすごい嫌だ。俺は。なんか、わかんないけど(笑)、嫌だ」
―じゃあ、作品を生み出すことへの責任とかはまったく感じなかった?
RIKI「作品を生み出すことに責任なんて誰も生じないし、それに責任を生じさせるのは作った本人じゃなくてそれを見た奴らだから。作りたいなら作ればいいし、そのために例えば勉強が必要だったり何か必要なスキルがあったらそれを勝手にやればいいし、人にこうすればとか、どうしろとか、そういうの全部嫌だ。俺は」
―表現というものにまとわりつくそういうものが全て嫌?
RIKI「今は。数年後どうなっているかわからないけど」
―否が応なしに出したらそうだもんね。
RIKI「わかんない。話がずれすぎかも」
―でも、作品を生み出す根底の話としては全然ずれてないけどね。
Jan「嫌だと思っていいってことも伝えているから」
―なんなら、インタビューすらしたくないんじゃないかと思うけど。
RIKI「言いたいことは色々あるんだけど、上手に伝えられないし」
―普通に言えたらわざわざレコーディングしないと思うけど(笑)。だからそれはそれでそういう次元だと思う。でも昨日このインタビューをやろうよって言って来た時に、言いたいことはあるって言っていて、その言いたいことが何なのかなってすごく気にはなっている。
RIKI「それは……あまりにもつまらないことに、みんないちいちはしゃぎすぎだと思う。なんか、わかんない。超難しいけど、俺は音楽が好きで、音楽を始めただけで、別にロックンローラーになりたいわけでも、ヒッピーになりたいわけでも、芸能人になりたいわけでもなんでもなくて、ただ変わらずに俺が正しいと思っていることをやっていて……。俺はJanといるのが好きだし、大好きな人達と作れたことが嬉しいだけ。わかんない、上手に言えないよ。わかんなくなってきちゃった。酔っぱらっているとかじゃなくて」
―でも、それも言いたいことでしょ。とても嬉しいだけ、という。
RIKI「めっちゃ嬉しい。それはとても大切……Jan、何か喋ってよ」
Jan「かっこいい音楽を思いっきりかっこつけてやることが素敵だなと思う」
―そうだね。さっき二人が生み出すマジックって言っていたけど、二人でやっている時、そういうマジックは、普通にセッションとかして生まれるものなの?
RIKI「セッションしている人達にしかわからない、素敵な心地がある。Janがどう思っているか知らねえけど、俺はJanとはすごい楽しい」
Jan「もう、イカレてるって感じ。言葉にならないものがやってくる。それって最高じゃないですか。別にその音楽に限らず。デートしている時とかも『この人こんなこと言っているよ、やばくね?』って、ロケット爆発みたいな(笑)」
―うん。最高だね!あ、そういえば、ふたりはどうやって仲良くなったの?
RIKI「二子玉で一緒にね」
Jan「そう。俺の方が最初にやっていたバンドがあって。始めた時に、ガレージでやっていて、その時の大学の同級生の女の子の地元の友達みたいな感じでMIRROR MOVESとかいて、never young beachの前の、夢見ているとかあって」
RIKI「あ、俺それ言いたかったな。俺、世の中のシティみたいなの、本当にクソだと思う。本当につまらないことを一生やっていると思うし、こんなこと普通に載せなくていいただの会話だけど、本当にクソだと思う。『何を考えて生きているの?』って、俺はすげー思っちゃう。日本の人達は悪口言わなすぎ。特に日本のバンド。評論家や批評家も。誰もが誰もをいいじゃんって思っているわけないと思うんだけど、良くないと思うものを言えよと俺は思う。俺も言われたいし。俺は名前を言うし名前を出して教えてほしいけど、Yogee New Wavesとか、never young beachとか、なんだっけ。ああいうお前ら一回下津くん(光史/踊ってばかりの国)とタイマン張れって感じ」
Jan「いやでもね、俺は悪の根源は山下達郎だと思っている」
―通ってないな、そこは。
RIKI「俺も聴いたことない」
Jan「シティポップの、色気のないソウルをやったことの。俺は本当に悪の根源だと思う」
RIKI「ユーミンもめっちゃ嫌いじゃん」
Jan「嫌いっていうか、曲がひどいとかじゃなくて、サウンドが存在する上で、人の色気だったりを拭いさってしまうことが悲しいなと思うだけ。Yogeeにしろ山下達郎にしろ、嫌いなものというより、何が好きで何が嫌いかっていうのが、やっぱりはっきりと自分の音楽が好きな人は持ってくことがすごいあったらいいなと思う」
―嫌いというよりは、そういうものが溢れていて居場所がないやつが居場所作って楽しめればいいと思うんだよね。
RIKI「だからあいつらも勝手にやっていることだから俺らがわざわざあなたたちのところに入っていって嫌いですよとか言う必要はないんだけど」
Jan「みんながイエスとノーを意識として持っているのは大事だと思う。誰もががなんとなくいいって言っているからいいっていう曖昧な潮風みたいになってくると、なんかね……。音楽をやることについて、それに強い意志をもって接することができるようになったら俺はすごくいいなと思う」
―そういう人の中で居場所が感じれなくて、とりあえず嫌とはいってないけど、何かひそめて持っている人もいるだろうし。でも自分の感性に正直であるべきというのが普通であるべきなのだと思う。逆に、グレーな人達の聴き方がよくわからない。
RIKI「俺はわからないままでいい」
―わかったらその対処法があるのかなとも思うんだけど。
Jan「対処法になるかもしれないよ、俺たちの音楽は」
RIKI「そんなこと考えなくてもいいんだよ」
Jan「でもそれって人のためになるからね。生まれてから死ぬまで一番楽しんで素晴らしい快楽を得て死んでいく人が増えたらいいと思う。それをみんなできればみんな幸せになれると思うんだけど」
―音楽は動物的な快楽だけど、カバーが厚すぎてそこに届いてない感がある。
Jan「それが届くようになれば政治に対する意見なんかも正直に意志として表れてくると思うから」
―うん、人とのコミュニケーション自体も色々変わると思う。
RIKI「でも甘いと思うよ」
―日本の場合、まあ海外は海外であるけど、タレントないやつがなんでタレントって呼ばれるのって。ちゃんとアーティストが評価される社会になっていないんだよ。だから商業的に見てもそうやってお金あって、嘘であってもどれだけまわせるかで決まったり。
Jan「その嘘がすごく分厚く積み重なってきちゃった時代だからさ」
―その反動、絶対揺り戻しはある。だからそこを期待して、仕掛けたり、面白くしたいとは思っているよ。
Jan「ここにいる人みんなが、根源の問題も見据えつつ、未来に対してどういう意思を持って行けるのかみたいなのを考えているのは最高だなと思います。人間全部の人が生きて死ぬまでに美しい形の感動をしてほしい。それをしないままに死んじゃう人がいると思うから。そういう爆発を死ぬまでにしていける世界になったら本当に最高な地球になるし」
RIKI「俺は全然、マジで興味ないもん」
Jan「俺はキリストになりたい。キリストになりたいというか、人の中の愛を爆発させたいっていう意志はある」
―最後に、二人ともミドルネームを入れた名前で出したのも本気だからって言っていたけど、それは本当?
RIKI「俺はそう」
―Janは?
Jan「わかんない(笑)。ダメだ、笑っちゃって」
—朝の4時の会話にまたなってきたね(笑)。
写真 依田純子/photo Junko Yoda
文 アラン・ボスハート/text Alain Bosshart
Jan Shotaro Stigter and Riki Eric Hidaka
『DoubleHappiness In LonesomeChina』
(STEREO RECORDS)
2015年4月18日RECORDSTOREDAY2015オフィシャルアイテム
https://soundcloud.com/stereo-records/alain-the-thinker-dub
https://soundcloud.com/stereo-records/superjockey
ヤンによるレコード全曲PVも公開!
A面全曲のPV:
https://www.youtube.com/watch?v=IiCmfvM8MfA
B面全曲のPV:
https://www.youtube.com/watch?v=q6cpMIg6sPw
★Jan
http://janphilomela.tumblr.com/
1990年5月4日・東京都出身
GREAT3、jan and naomi、The Silenceなどのグループで活動中。
演奏、歌唱、作詞、作曲はもちろん、映像制作やアートワークも手掛けるミュージシャン。
jan and naomiはこれまで7inchシングル「A portrait of the artist as young man/time」、EP「jan,naomi are」を発表し、最新作にINO hidefumiと配信ライブアルバム「Crescente Shades (24bit/48kHz)」がある。米DRAG CITYレーベル よりThe silence 1st album 「THE SILENCE」が3月25日に全世界リリース。Stereo RecordsよりRiki Eric Hidakaとの共作 「DOUBLEHAPPINESS IN LONESOMECHINA」を4月18日にリリース。
★Riki Hidaka
http://www.stereo-records.com/label/rikihidaka/
91年生まれ、ギタリスト。自主制作のアルバムを今までに3枚発表(いずれも非売品)。14年レコードストアデイにセカンド・アルバム「POETRACKS」の12インチを広島のStereo Recordsからリリース。2015年4月18日にはJan Shotaro Stigterとの共作アルバム「Double Happiness In Lonesome China」をStereo Recordsからリリース。
都市で暮らす女性のためのカルチャーWebマガジン。最新ファッションや映画、音楽、 占いなど、創作を刺激する情報を発信。アーティスト連載も多数。
ウェブサイト: http://www.neol.jp/
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