「性同一性障害」ってなんだ?性別という曖昧なグラデーション
自分のおっぱいに違和感がある、生理がくるのが嫌だ。あるいは、女性の服で生活したい、女性の体になりたい――。性同一性障害は「心の性別と体の性別が一致しないこと」と説明され、具体的にはこういった違和感を当事者に抱かせ、悩ませる。
今年12月4日、性同一性障害の男子児童(11)が来春、女子生徒として中学に入学するという記事がニコニコニュースに掲載された。これに対して読者から、疑問や共感や同情のTwitterコメントが約200件寄せられ、読者の関心の高さがうかがえた。そこで、ニコニコニュースでは、2010年12月27日に、性同一性障害当事者で世田谷区議会議員の上川あや氏、医師の針間克己氏、フリーライターの藤井誠二氏の3名によるニコニコ生放送「ニコニコニュース+α 『性同一性障害』ってなんだ?」を企画した。番組では、この男子児童のような、これから思春期を迎える性同一性障害の子どもたちに、周囲の大人はどう接したらいいのかを中心に、性同一性障害とそれを取り巻く日本社会について出演者が意見を交わし、視聴者のコメントでの議論も盛り上がった。
■そもそも「性同一性障害」って?
そもそも「性同一性障害」という言葉が世間で知られるようになったのは1995年頃のこと。この頃から性別適合手術が行われるようになり、体の性別を外見上は変えることが可能になった。ただ、体の性別が変わっても戸籍上の性別を変えることはできなかったため、2003年には、一定の条件を満たせば戸籍上の性別を変更できるとする法律(「性同一性障害者の性別の取り扱いの特例に関する法律」)ができる。こうした動きと合わせて、2001年にはドラマ「3年B組金八先生」で女優・上戸彩さんが性同一性障害の生徒役を演じて話題になったり、最近ではタレント・椿姫彩菜さんが人気を集めたりしたこともあり、性同一性障害に対する認識は徐々に広まっている。
■性別は”曖昧なもの”
しかし、性同一性障害についての社会的認識は広まっても、理解が深まっているとは必ずしも言えないようだ。男か女かの二者択一に慣れてきっている多くの人には、男性と女性の間にも、性同一性障害かそうじゃないかの間にも、無数の中間地点が存在していることは理解しにくい。たとえば、子どもの頃に性同一性障害と診断されたり、性別違和を感じていたりする子が、成長とともに違和感が消えていくことは多いという。そうであれば、思春期には性自認が男性と女性の間で揺れ動くこともある。上川氏は、その「曖昧さ」に目を向けずに、性同一性障害を単純化することに危機感を示し、次のように話した。
「幼い頃に性同一性障害と診断されれば、大人になるまでずっとその違和感を持ち続け、性別適合手術をするものだ、とまっすぐ直線を引いて、そこに行き着くものだとする予定調和は、みんながみんな成り立つものではない(成長と共に違和感がなくなる人もいれば、違和感があっても手術を望まない人もいる)」「AじゃなかったらBでしょ、という単純化はすごくこわい。AとBの間を迷いながら、その時々に応じて大人も柔軟に対応できるような敏感さも重要だけど、過剰に反応したためにギアを真逆に切り替えてしまって元に戻せなくなるようなことでは困るので、大人がどう伴走するかということがとても重要」
針間氏も、性同一性障害の子どもの苦痛を和らげるための有効な手段として、「多くの場合、周りにカミングアウトして、自分らしく生活できる空間を広げて行くことがいい方向に向かうことが多い」と言いながらも、あくまでも「状況はそれぞれ違うので、それぞれの最適なゴールを目指すことが大切」と、明快な一つの答えを示すことを避けて、曖昧さを残した。
■当事者にはつらい中高時代
性同一性障害の10代にとっては、修学旅行やプールの授業がある中高時代はとくにつらいらしく、当事者と思われる視聴者からも「みじめだった」「男の子を演じるしかなかったし」「学生時代はスカート着たかったな」などのコメントがあった。また、性別の曖昧さについても、「男と女以外にあと三つぐらい性別がほしい」「性別は二元では語れんよ。グラデーションだ!」「なんで男か女かでしかないんだろうね」「男と女0か10だからおかしくなる」などの理解を示すコメントが多かった。
結局、性同一性障害の子どもたちとどう向き合うかについて、きれいな答えを出すことはできず、出演者からも、視聴者からも「難しい」というコメントが相次いだ。しかし、当事者は内に閉じこもり、周囲の人は本人の苦悩に気づけないことが多いテーマについて、こうしてオープンな場で自由に意見を言い合えたことは貴重な時間だったといえるだろう。
ニコニコニュース+α 「性同一性障害」ってなんだ?
http://live.nicovideo.jp/watch/lv35365204
(番組はタイムシフト機能で2010年1月4日まで視聴できる)
(村井七緒子)
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ウェブサイト: http://news.nicovideo.jp/
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