まさしくキリンビールの“中の人” 『グランドキリン』を作ったスゴ腕醸造家の蒲生徹さんに直接聞いた「ビールのはなし」
全国で販売中の『グランドキリン』、そしてセブンイレブン限定で販売している『グランドキリン ジ・アロマ』、それぞれがリニューアルされて4月7日(火)から販売開始となります。
“クリエイティブビール”と銘打たれた『グランドキリン』シリーズがどのような創意、工夫で作られたのか――キリンビールの商品開発研究所に所属の醸造家、蒲生徹(がもう とおる)さんにお話を伺いました。
登場した蒲生さんは、非常に落ち着いた印象の方。実際にも、言葉を選びながらかみしめるようにお話をしてくれました。まず、蒲生さんのご担当を改めて聞いてみます。
蒲生:僕は中味開発グループというところに所属しているのですが、担当は主に商品開発、“中味”づくり。試験醸造のレシピを書いたり、研究所でできた技術を評価したりしています。
なるほど、レシピということは本当に設計図にあたる部分ですよね……。そもそも、“ビールの味の設計”というものはどのように進めるものなんでしょう。
コミュニケーションで味を作る
蒲生:「こういうものを作りたい」というお客様の価値になるようなコンセプトが、通常の流れで言うとマーケター(※市場調査に基づいて商品開発や販売促進をする人)から出てきまして、それをもとに「どういう味を作ろうか」ということを考え出すところから始まっています。
どんな麦芽を使ったりだとか、どんなホップを使ったり、どんな酵母と発酵方法にしようか……最初はレシピを書いてラボ試験や試験醸造します。
試験醸造品ができあがったところで、官能評価と化学分析値を見て、レシピを修正していきます。そして、またできたものを飲んで「イメージどうですか」みたいな話でコンセプトとの差を詰めていく感じです。
コミュニケーションとトライアンドエラーの繰り返し……。ところでさっき、通常はマーケターさんからの提案がある、ということを蒲生さんおっしゃってましたが、今回の『グランドキリン』も、そういった従来の方法論が踏襲(とうしゅう)されているのか聞いてみました。
技術陣からの提案
蒲生:「クラフト系」(クリエイティブビール)って言ってるんですけれどもそういう「他にないビールを作ろう」という気持ちから始まっています。
つまり、技術陣から「こういう方法もあるよ」という提案をしたということです。「こんな方向性のビールってあるよ!」と。
2012年に最初の『グランドキリン』が出ているんですけれど、今回のリニューアルについては「周りに結構香りの強いビールが増えている」という環境を踏まえました。クラフトビールブームもあり「もっと主張していってもいいんじゃないか」と思っています。
さて、肝心の味はどのように変わったのか、という核心に迫ってみます。
『グランドキリン』リニューアルで味がどう変わったか?
蒲生:今回のリニューアルのポイントは3点あります。「香りを華やかにした」「“ボディ感”を全体に大きくした」「味と香りのバランスが取れるようにした」です。
『グランドキリン』では“「ディップホップ」製法”という、ひと手間かけたホップを発酵中に漬け込む作業を行っています。香りを華やかにするためには“「ディップホップ」製法”の際にホップの量をこれまでの約1.5倍に増加させています。対応している工場ではもう「これ以上入れられない」というレベルです。
そう、この“「ディップホップ」製法”という言葉は『グランドキリン』を語る上で外せないキーワードです。蒲生さんの説明にもあったように“「ディップホップ」製法”はひと手間かけたホップを発酵中に漬け込むという、通常工程にはない作業なのです。今回はその量をさらに増やす、というかなりぜいたくな仕上げになっています。
そしてさらに“ボディ感”という聞きなれない言葉も出てきました。これ、「味の厚みがある」ということを意味しているそうです。この“ボディ感”を出すためには蒲生さん、一体どんな工夫をしたのでしょうか?
蒲生:まず、香りを上げたことが香味印象を強くすることに寄与しています。加えて、苦みや酸味を低減し、甘みを感じやすくすることでシャープな印象を弱めるような工夫をしています。
実は香りが強くなると、通常は味が強くなるんですね。原材料をいっぱい入れると味が強くなっていく。それって「荒い」というところにつながっていくので、そういうのを避ける工夫が必要です。
美味しくなるなら入れればいい、というわけではないというわけです(当たり前ですが)。
さて、この時点でもうすでにお分かりの方はお分かりかとおもうのですが、蒲生さん、本当にビールのことだけを考え続けているプロなのです。ここからさらに加速して、ホップと苦みと美味さ、そして蒲生さんたちの作るビールの特徴について解説してくれました。
他とは違う「バランス」
蒲生:ホップは苦味につながっていくので、入れれば入れるほど苦くなっていきます。ですので、たいていのビールは「香りが強いものは苦くて飲みづらい」というところがあるんです。
けれど我々のビールは、香りは楽しめるんですが、苦さはそこまで強くなくて味が調和しているという。そのバランスが他とは違うところなのかなと。
もし『グランドキリン』と同じくらいの香りをつけようと思うと、すごく苦いものができると思うんです。そこを麦芽との組み合わせであったりとか、「ディップホップ」製法を築き上げることであったり、という点で工夫しました。
「個性はあるけど味が調和していて飲みやすい」というところが他にはなかなかないところかな、と思います。
グランドキリンの楽しみ方
『グランドキリン』ならではの楽しみ方、っていかがでしょう。醸造した蒲生さんだからこそ知っていることを教えてもらいました。
蒲生:できれば温度の違いで味が変わるというところを楽しんでいただければと思っています。最初は割に冷たいところから飲むとひきしまった味とかストレートな味、苦味などが楽しめるかなと思います。
だんだん温度が上がってくるとホップの“華やか”な感じに変化が出てきたり、モルト(麦芽)の感じが出てきたりとかするので、そこも併せて楽しむのが、おススメですね!
通常のホップがあまり入っていないようなビールは、ぬるくなるとモルトがすごく“立って”しまって飲みにくくなってきます。これ(グランドキリン)は「ディップホップ」製法由来の複雑な味わいによって、常温に近くなっても美味しく飲めると思います。
心なしか、蒲生さんのテンションが上がってきたように感じます。
蒲生:あと、家で飲むときに最近よくやっているのですが、グラスを変えて飲んだりしています。
泡の立つ、立たないで味が違う
え? 同じビールでもグラスを変えることによって味が変わるんでしょうか……。
蒲生:全然違います! 味も香りも!
いろんなグラスに注いでみてください。結構違うんで面白いと思いますよ。『グランドキリン』のビンも美味しく飲めるように設計されていますが、いろいろなグラスに入れるのもアリです。
また、グラスに入れたときの泡を立てるのか立てないかでも味が全然違ってきます。泡を立てると、泡の方に苦味が“行っちゃう”んで、液体の方は最初苦みが少ない状態で、マイルドな味になります。
泡を注いだときは、泡を食べてみてください。ホップの苦みも香りも泡に付くので、色々なビールで泡を比べると全然違うんですよ!
このまま飲んでいただけるのもすごくおすすめなんですけど、その辺の感じを楽しんでいただけると楽しいと思います。
ビールって面白い!
「泡を食べる」という表現は実に興味深いところ。絶対試してみたいポイントです。さて現在少なからず起きている“クラフトビールブーム”、蒲生さん自身はこのブームについてどう思っているんでしょう。そのあたりも聞いてみました。
蒲生:すごくいいことだなと思っています。ビールってこんなに幅があって、こんなに楽しいんだなって。
ワインとかはなんとなく敷居は高いですけれども広がりがありそうなイメージがあって、選ぶ楽しみとかゆっくり飲む楽しみとかありますよね。
ビールは今のところ、そこまで行けていない。まだ大部分は「ノドの渇きを潤す飲み物」みたいな感じの位置づけになっちゃってると思ってました。それがいろんなものが出てくることで「時間的な楽しみ方」ですとか「好きなものを選ぶ楽しみ」が広がると思います。
「ビールって面白いね」「こんな面白いんだ」っていうのを広めていくっていうのが我々の役割、目的かと思っています。個人的な思いも含めて。
蒲生さん、口調は穏やかですが、ビールに対する情熱やビール愛がひしひしと伝わってくるインタビューでした。ところで蒲生さん、普段はどんな風に過ごされてるんですか?
蒲生:昨日も行ってきたんですけど、クラフトビールの特集しているムック本を見て、一軒づつ、お店をチェックして回ってます、いま(笑)。趣味ですね!
無礼を承知で言いたい。蒲生さんは「素晴らしきビール馬鹿」です。そんな蒲生さんのビール愛に満ちた『グランドキリン』、『グランドキリン ジ・アロマ』は2015年4月7日(火)から発売します。
ビール好きは、家でグラスをたくさん用意して待つべし! ですよ。
グランドキリン|ビール・発泡酒・新ジャンル|商品情報|キリン
http://www.kirin.co.jp/products/beer/grandkirin/商品名:『グランドキリン』『グランドキリン ジ・アロマ』
販売地域:全国のコンビニエンスストア
発売日:2015年4月7日(火)
容量・容器:330mlびん
価格:オープン価格
アルコール分:『グランドキリン』6%、『グランドキリン ジ・アロマ』5.5%
製造工場:キリンビール滋賀工場
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