ユーザーライクすぎる『電子貸本 Renta! 』 中の人ロングインタビュー
電子書籍元年と言われて久しい2010年も、間もなく年の瀬を迎えようとしています。数々の電子書籍サービスも台頭し、それに伴うかのように今年は様々なハードウェアもリリースされてきました。
まだまだ白熱する電子書籍業界。今回は電子書籍のレンタルサービス『電子貸本Renta!』(以下 Renta! )を運営するパピレスの中の人にインタビューを行いました。
— ブラウザさえあれば大丈夫!?インストール要らずな『Renta!』
ガジェット通信(以下ガジェ):『Renta!』は、パピレスさんの提供する電子書籍のサービスとうかがっています。早速ですが、『Renta!』の特徴から教えていただいていいですか?
『Renta!』広報さん(以下Renta!):『Renta!』の一番の特徴は、とにかく「すぐに読める」という使い勝手ですね! 通常の電子書籍にありがちな“アプリのインストール”や“書籍ファイルのダウンロード”がありません。また、“ダウンロードしたファイルを移動する”などの作業もありません。そういった手間を極力省いて、「すぐに読める」というのが、『Renta!』の特徴と言えます。
ガジェ:専用ビューワーには専用ビューワーのメリットがきっとあると思うんですが、ブラウザでのメリットってどこなんでしょうか。
Renta!:アプリケーションのインストールっていうのは、どうしても手間になると思うんですね。どんなに簡単にしても「インストールの画面が出てくる」のは面倒くさいところじゃないかな、と。
ガジェ:確かに。
Renta!:あとブラウザで読める、ということは、手元にファイルを残しておかなくて良い、ということにもなります。ブラウザで『Renta!』のサイトにアクセスさえできれば、自分の(ログイン用の)IDで借りている本をすぐに、その場で読み始めることができます。
つまりどのパソコンでも、『Renta!』にアクセスできて自分のIDさえ覚えていればすぐに見られる、というわけです。同じ考え方で、パソコンだけではなく、スマートフォンなどいろいろな種類の端末(マルチデバイス)でも同じことができるようになっています。
— 1つのIDだけで、どこからでもアクセス可能
ガジェ:複数端末でも、1つのIDでいいんですか?「複数IDを取らないといけない」というわけじゃないんですよね。
Renta!:ええ、もちろん『Renta!』のID一つで大丈夫ですよ。例えば、家のPCで読んでいた本を、続きは電車の中でiPhoneで読んで、そのあと職場のPCで読む、といった事が可能です。その時も、パソコンでダウンロードしたファイルをスマートフォンに専用のアプリケーションで移動させるような手続きも要りません。家を出て、ログインすればすぐ読み始められます。とても手軽にいろんな端末でも読める、というメリットがあると私たちは考えています。
ガジェ:最近のデジタルコンテンツのサービスは、ハードウェアのメーカーが提供するサービスにひもづけられている事が多いんですよね。メーカー間の垣根を乗り越えて、気兼ねなく利用できるのはありがたいです。
–『Renta!』の始まり
ガジェ:『Renta!』のスタートについて、教えてください。
Renta!:『Renta!』がスタートしたのは2007年なんですが、その当時ですと携帯電話での電子書籍などが盛り上がってきている時期でした。そこで「携帯電話(の電子書籍が)がなぜ盛り上がってきているのかな」というのを考えたんです。
携帯電話の場合はキャリアさんのほうである程度“筋道”が作られていて、「ポン」と押せばすぐ読み始められるようなアプリも用意されていました。コンテンツ課金の仕組みもキャリアさんのほうで用意されていたので、ユーザーさんはもう迷うことなく電子書籍を使い始められたんです。
「携帯電話での使い勝手をパソコンで再現するにはどうしたらいいんだろう」ということを念頭に『Renta!』のサービス開発を進めました。「押せばすぐ読み始められるサービスにしよう」と。
ガジェ:ケータイ電子書籍の使いやすさをパソコンに求めたんですね。
Renta!:これまで弊社(株式会社パピレス)のサービスでは、パソコンや携帯電話で読めるサービス展開をしてきました。
今でこそ『Renta!』では、パソコンでもスマートフォンでも、いろいろな端末に対応しているんですけれども、これまでは「携帯電話でダウンロードしたコンテンツはパソコンで読めないんですか?」というようなお問い合わせをいただいておりました。そういったユーザーさまからのご希望を実現したいと、常々思っていたんです。
— 対応端末について
ガジェ:今、『Renta!』ではどんな端末に対応していますか?
Renta!:現在ではパソコン、Android、iPhone、iPad、あとWindows Mobileの端末やPS3などにも対応しております。まず、パソコンなんですが、パソコンの場合、基本的に『Adobe Flash』に対応していますので、『Flash』が動いているパソコンであればOSを選ばず読めるようになっています。
弊社で動作保証しているのは、Windowsであれば『Internet Explorer』、MacOSであれば『Safari』なんですが、基本的にFlashが動いていれば読めるはずです。ちなみにスマートフォンで最初に対応したのは『iPhone』です。
ガジェ:ケータイも大丈夫なんですか?
Renta!:auさんとソフトバンクさんの、全てではないのですが対応しています。ドコモさん向けに関してはまだ、配信できていません。
ガジェ:対応予定はありますか?
Renta!:できるようになり次第、対応したいと思っています。通信量やシステムの仕様上、快適動作をさせるのが難しい個所があるのです。
ガジェ:なるほど。ガラケーならではの苦悩がありそうですね……。対して、スマートフォンもかなりの機種がリリースされてきていますがこちらはいかがでしょうか。
Renta!:去年出てきている機種はどんどんと対応しました。
ガジェ:対応していない機種はありますか?例えば、Androidのバージョンなどに関してはいかがでしょう。
Renta!:Androidの機種についてはFlash動作ではなく、javascriptなどを用いて、幅広く対応できるようにしているので大丈夫です。ほとんどの機種は対応しているのですが、ごく初期のAndroid携帯(『HT-03A』など)は、申し訳ないのですが公式対応ではありません。今後出てくる機種については、全て対応していきます。
ガジェ:『Renta!』の着想が、携帯電話のサービスのように気軽に使えるようなサービスであってほしい、という事でした。その結果、クラウド化することでいつでもどこでも、雑誌やコミックを楽しめる状況を実現されたんですが、逆に、電波の届かない地下鉄の中や通信のできない場所では不利のような気がします。通信のできない場所では配慮をされていますか?
Renta!:iPhoneやiPadなどでは、(ブラウザで見るだけではなくて)アプリを提供することによって、そのデメリットの解消をしています。アプリに関しましては、より便利に見ていただくための手助けという位置づけで考えてます。もちろん、ブラウザでも見ていただくことはできます。アプリを使っていただきますと、1冊分、全ページを一気に読みこめます。もし途中で通信が途切れても、読んでいただくことが可能になります。
ガジェ:1冊分ってすごいですね…。あらかじめ、通信が途切れるかもしれない、という人はアプリなどで準備しておけばいい、と。
Renta!:とにもかくにも、「なるべく快適に読んでいただきたい」という点を念頭に開発しております。
— 開発で苦労した点
ガジェ:開発で苦労された点などありますか?
Renta!:サービスイン当初は、他社様のビューワーを借りて、サービス提供を行っておりました。ただ、ユーザー様からのご意見を直接頂戴できるような位置におりますと、より細かいカスタマイズのご要望をうかがう機会が増えるんですね。
「より快適に、読みやすいサービスにしよう」という話になってくると結局「ビューワーは自社開発をしたほうがいいのではないか」という結論に至りました。そうすることで、サービス的な“小回り”が利きますし、よりユーザー様からのご要望も反映しやすくなるので。
— 貸本がデジタルで蘇える
ガジェ:僕も『Renta!』使わせてもらってるんですが、本の「貸し出し期間」のところに「無期限」って書いてあるものが結構ありますよね。
Renta!:はい。
ガジェ:これって、事実上、買い取ったのとあまり変わらないイメージですよね。無期限に貸してくれるって。
Renta!:ベースは、「48時間のレンタル」なんです。サービス開始した当初は、「24時間レンタル」だったんですけど、ユーザー様からの声を聞いていたら、「24時間より、もうすこし欲しい」という声が多かったんですよ。
ガジェ:「もう少し」ですか?
Renta!:もちろん長ければ長いほど良い、とはなるんでしょうけど(笑)、……例えば通勤電車の行きの時間に読み始めたコンテンツがあるとしますよね。翌朝の同じ行きの時間にも読めたらうれしいじゃないですか。でも、24時間だと、切れてしまうんですよね。
ガジェ:ああー、なるほど!
Renta!:一泊二日のビデオレンタルの考え方に近いかと思います。それで今は、48時間のレンタルがベースになっています。
で、過去に「1年コース」というのも提供していました。これは借りてから1年間読めるんですけれども、社内でいろいろと検討した結果、いっそのこと「無期限」にしてしまえ、と(笑)。
ガジェ:ユーザーの心情としては、「1年」と「無期限」ではだいぶ違いますね。実際に読む時間がそんなに変わらないとしても、いつでも読める、という安心感は大きいかもしれません。でも、売っているのと変わりなくなっちゃうのにレンタル、って妙な感じですね(笑)。
Renta!:そこは、『Renta!』のサイトにお越しいただいて、読んでもらうという形なのです。『Renta!』の棚の中にあるものを読んでいただいているイメージでしょうか。
— デジタル“貸本”
ガジェ:オンラインのマンガ喫茶に行く感覚ですね。
ちょっと話はそれるんですが、僕の場合自分のマンガ蔵書なんかを処分するときに「マンガ喫茶に行って読めばいいや」と思いながら整理するんです。けれども、実際のところ、マンガ喫茶に改めて足を運ぶというのはなかなか時間が取れなかったりするんですよね。そういう意味では、オンラインで“無期限に借りられる”というのは自分のペースで読めるという意味でも、ありがたいです。
ところで、マンガの黎明期は貸本が主流だった時代があったそうですが、そういったところも意識されておられますか?
Renta!:いえそこまで深く考えてはいませんでした(笑)。ちょっとイメージをかぶらせていた時期もありますが、結果的なところですね。あと、2007年ごろって、実は他社さんやコンビニさんでも貸本サービスが始まるかも、という時期だったんです。法律の改正などがあったんで。そういった流れもあって、今に至りますね。
ガジェ:“販売”ではなく、“レンタル”にすることで版元さんからコンテンツの提供を受けやすくなるなどのメリットはありますか?
Renta!:版元さんによってお考えがいろいろなのですが、レンタルというビジネスモデルにすることで、ご協力を得られたという点もあるかと思っています。『Renta!』は開始当初は200冊からのスタートだったんですが、現在は1万冊に届くところです。
出版社さん的には、コンテンツのファイルが原則、弊社サーバー上に保管されているというところが、ご安心いただきやすいポイントの一つであるとうかがっています。
— 電子書籍を取り巻く空気の変化
ガジェ:以前に比べてコンテンツの獲得はしやすくなりましたか?こうした電子書籍ビジネスを取り巻く雰囲気の変化、といったものがあれば。
Renta!:特に今年とか、世間的には電子書籍がにぎわったおかげで、出版者様のご検討が前向きになったと感じます。もちろん、『Renta!』というサービスが始まったときから今までを振り返ると、コンテンツホルダー様だけでなくユーザー様にもかなりご安心いただいていると感じています。相対して比べられていた以前よりも、「紙媒体との住み分けや共存」という雰囲気を感じていますね。デジタルメディアに対して、以前よりもずっと前向きな取り組みをしていただいてます。
ガジェ:特に今年になってから「流れが変わった」とか、そういうことはありましたか?
Renta!:そうですね……例えば、『東京国際ブックフェア』(毎年7月に東京ビッグサイトで開催される日本最大の本の展示イベント)の併設イベント『国際電子出版EXPO(旧:デジタルパブリッシングフェア)』では、毎年展示出させていただいているんですけど、今年は非常に来場される方が多かったです。
3日分のつもりで用意していたチラシが、1日過ぎたところで無くなってしまいまして。チラシのはけ具合だけ見ても、倍くらいのお客様がいらっしゃったと感じてます。今年の盛り上がりは、これまでとは違うかなあ、と思いました。
ガジェ:電子書籍関連で……ちょっと答えづらいかもしれないんですが、『Kindle』ってどうなんですか?「嫌い!」とかでもいいんですが。
一同:(笑い)
Renta!:今、私たちが出しているサービスの形式だと、『kindle』にそのまま出せるわけではないので、もしやろうとすると何かしらの準備や調整が必要ですね。国内でどんなポジションになるのか、あるいはユーザーさんがどれだけ選ぶのか、というところに関わってもきます。そのうえで、必要であればマルチデバイス対応ということで検討もしていきたいです。
— 他サービスについて
ガジェ:『漫画onWEB』(代表:佐藤秀峰氏)や『Jコミ』(代表:赤松健氏)といった、作家さんがオンラインコミックのコンテンツを始めるといった動きもありますが、こうした他サービスとの連携は考えておられますか?
Renta!:まあ、正直先のことなのでわからないんですけど、弊社の場合にはあくまで「販売店」というスタンスを保っていきたいと思っています。「権利をお持ちの方からコンテンツをお預かりして配信する」というスタンスにのっとり、出版社さんだけではなく正当な権利者の方からコンテンツをお預かりしてやっていければいいな、と。
ガジェ:なるほど。個人的には六田登先生のオリジナルコミックなど、『Renta!』でしか読めないものが興味深いです。
Renta!:そうですね。いろいろやっていきたいとは思っています。実際、出版社さんといろいろ協力させていただいておりましてこうした描き下ろしのコミック(『COMIC CYUTT』など)もほかに10冊以上出ております。
『CYUTT』は1stシーズン(10冊)と2ndシーズン(5冊:進行中)が出ているのですが、1stシーズンは紙媒体にもなっています。
ガジェ:「販売店」としてのスタンスであるとおっしゃってましたが、この先、新人を募集したり作家さんを育てたりというようなことは考えていらっしゃらないんですか?
Renta!:出版社さんのように、作家さんを育てる役割ではない、と考えています。そういった、そこは出版社さんのように編集能力が備わっているところにお任せすべきかと考えています。
— コミックだけじゃない!
ガジェ:ところで、『Renta!』はコミックだけではなく、ジャンルが多岐にわたっていますよね。
Renta!:そうなんですよ!グラビアがね、いい具合に見られるんですよ!(笑)
ガジェ:いきなりですね(笑)。
Renta!:グラビアとか写真集って、本屋さんによってはなかなか見られないようにカバーされちゃってる場合があるじゃないですか。『iPhone』では、以前“グラビアアプリ”って結構あったんですが、ある時期を境に軒並み無くなってしまったんです。けど、『Renta!』なら『iPhone』でもグラビアが見られるんですよ。
さらに『Renta!』全般そうなのですが、かなり試し読みができます。あと、拡大していただければわかるんですが、解像度には自信があるので一度試してみていただきたいです。荒れません!
あ、グラビアの話ばかりしちゃいましたが、雑誌、ビジネス書や実用書も取り揃えています!(笑)
ガジェ:はい(笑)。
Renta!:あと、『Twitter』やってます!(TwitterID @Renta_PR)フォローしていただけると、もれなく!新刊情報を即時ゲットできます。あとは、リアルタイムにtwitter担当者のぼやき、もといつぶやきをお送りいたします。
ガジェ:tweetの内容がときおり、想像以上にざっくばらんですね。ユーザーとの間合いが近いというか、担当の方(土屋さん)の人柄がにじみ出ているかのようです(笑)。
『Renta!』の作品についてみんなが語る、ソーシャルリーディングみたいな流れに『twitter』が活用されると面白いかもしれませんね。
Renta!:将来的にそういうのもできたら面白いですよね。
ガジェ:今後、「もっとこうしたい」「こうなるといいな」、というユーザー目線での希望などはありますか?つけたい機能とか?
Renta!:言うと、作らないといけなくなっちゃいませんか?(笑) ええと、iPhoneやiPadでは、フリック(めくり動作)で閲覧できますよね。これがほかの端末でできたらいいな、というのは思っていました。
あと、iPadですと、横にした場合、“見開き”になるんですよね。こういうのも快適な閲覧に結び付くと思っています。iPadの画面の広さならでは、ではあるんですけれどもね。
「どのデバイスを選んでいただいても安心して見られる安心感」は目指していきたいと思っています。
— 目指す電子書籍の未来とは
ガジェ:電子書籍の未来について、お考えのことはありますか?
Renta!:電子書籍全体の未来、なんて話になってしまうと我々は一販売、サービスですので大それたことは言えないんですけれども、……ユーザーさんが、電子書籍を普通に使えるようなサービスをこれからも提供し続けていきたいです。
“電子書籍”っていうとなんか新しくてちょっと変わったことのように聞こえますけど、電子書籍で買っても「普通のこと」であるように、なってくれればなあと思っています。
ガジェ:ありがとうございます。
『電子貸本 Renta!』
http://renta.papy.co.jp/renta/
聞き手:ガジェット通信
受け手:パピレス / 土屋さん、佐藤さん、柴田さん
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