今週の永田町(2015.3.18~24)

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【政府、暫定予算案の編成着手へ】

先週16日、一般会計総額96.34兆円(前年度当初予算比0.5%増)の来年度予算案が、参議院予算委員会で実質審議入りとなった。委員会採決の前提となる中央公聴会をめぐっては、18日の参議院予算委員会理事懇談会で、26日に行うことで与野党が合意した。また、27日に安倍総理と関係閣僚が出席して集中審議を開催することも決まった。テーマなど詳細については、改めて協議するという。

*衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。

  衆議院インターネット審議中継参議院インターネット審議中継

来年度予算は、参議院で採決に至らなかった場合でも、衆議院の優越を定めた憲法規定により4月12日に自然成立する。与党が年度内成立を事実上、断念していることから、政府は、国民生活に影響が及ばないよう、地方交付税交付金や社会保障関係費など、来年度4月1日から11日間分の必要最小限の諸経費を盛り込んだ暫定予算案の編成に着手する。政府・与党は、5.7兆円規模とする方向で調整している。27日までに暫定予算案を編成のうえ閣議決定・国会提出する見通しで、今年度末までの成立をめざす。

 

 一方、民主党・維新の党など野党6党は、20日、各事業年度最終日の資本金額が100億円超の国内に本店などのある企業法人(約1000社)に対し、確定申告書等に記載されている所得金額や法人税額などを公表するよう政府に義務付ける「法人税法の一部を改正する法律案」を参議院に共同提出した。法人税法改正案は、参議院財政金融委員会に付託された。

高額納税者(個人・法人)の公示制度は個人情報保護などを理由に2006年に廃止されていたが、民主党は「法人の公示制度の廃止は隠ぺいを助長」しかねないなどと反対してきた。高額納税者の公示制度の廃止にあたっての附帯決議に「今後の税制改革に資するため、税務に関する統計情報の在り方について検討すること」とある点を根拠に、主要企業に限って法人税額などの公表を義務付ける法案を議員立法で提出したという。

 

 

【与党、安全保障法制の骨格を正式合意】

 自民党と公明党は、20日に開催された安全保障法制整備に関する与党協議会(座長:高村・自民党副総裁、座長代理:北側・公明党副代表)で、集団的自衛権行使の限定容認を含む新たな安全保障関連法案の骨格をとりまとめ、共同文書「安全保障法制整備の具体的な方向性について」として正式に合意した。それに先立って、自民党と公明党は、19日、それぞれ党内手続きを経て、合意文書案への了承を取り付けた。23日には、与党協議の高村座長と北側座長代理が、安倍総理らと会談し、与党合意の報告を行ったうえで、4月中旬までに条文案を策定するよう政府に要請した。

 

 共同文書では、公明党が自衛隊海外活動の3原則として求めた「国際法上の正当性」「国民の理解と民主的統制」「自衛隊員の安全確保」を、法整備の前提として冒頭に明記した。そのうえで、自衛隊があらゆる事態に切れ目なく対応できるよう、以下の法整備の方向性について示している。

 
<安全保障関連法案の方向性(要旨)>

武力攻撃に至らない「グレーゾーン事態」への対処<自衛隊法改正>

警戒監視など日本の防衛に資する活動をしている米軍の艦船・武器などの防護日本の防衛に資する活動に限り、米軍以外の他国軍防護も検討

日本の平和と安全に資する活動を行う他国軍隊に対する支援活動<周辺事態法改正>

事実上、地理的制約している周辺事態を「日本の平和と安全に重要な影響を与える事態(重要影響事態)」と再定義日米安保条約の効果的な運用に寄与し、重要影響事態に対応して活動する米軍および米軍以外の他国軍に、給油や輸送などの後方支援を随時可能に原則、国会の事前承認

国際社会の平和と安全への一層の貢献

 国際社会の平和と安全のために活動を行う他国軍隊に対する支援活動<恒久法制定>

法整備にあたって、他国の武力行使と一体化しない枠組みで設定自衛隊の海外派遣は国際連合決議にもとづくもの、または関連する国連決議等があることが前提弾薬提供などは可能だが、武器提供は禁止国会の事前承認を基本隊員の安全確保に必要な措置
 国際的な平和協力活動<国連平和維持活動(PKO)協力法改正>

有志国による人道復興支援や治安維持など、国連が統括しない国際平和協力活動は、PKO5原則と同様の厳格な新5原則のもとで自衛隊参加を可能に。自衛隊の海外派遣は、国連決議にもとづくか、関連する国際決議等があることが前提国会の事前承認を基本隊員の安全確保に必要な措置停戦監視や領域国の警察権の代行といった治安維持任務治安任務などPKOで実施できる業務の拡大。これまで正当防衛などに限定されていた武器使用権限は任務遂行の武器使用も可能に
憲法9条の下で許容される自衛の措置:集団的自衛権行使の限定容認<自衛隊法、武力攻撃事態法の改正>

日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される事態などの「武力行使の新3条件」(昨年7月の閣議決定)、その後の国会質疑で示された政府の考え方を過不足なく条文化武力攻撃事態法に、集団的自衛権を行使できる新3要件を満たした「新事態」の名称や定義を明記新事態に対応して自衛隊の防衛出動も可能に。防衛出動は原則、国会の事前承認
その他関連する法改正事項

 自衛隊による在外邦人の救出<自衛隊法改正>

領域国の受け入れ同意があり、その権力が維持されている範囲で、武器使用を伴う在外邦人の救出も可能に自衛隊の海外派遣手続きには総理大臣の承認が必要
 船舶検査の拡大<船舶検査活動法改正>

日本周辺有事に限定していた任意の船舶検査に係る地理的制約を外し、「国際社会の平和と安全に必要な場合」にも実施可能に

 日米の情報収集や警戒監視での物品提供などの検討

 

【残された課題、4月中旬にも再開の与党協議で検討】

 与党合意に至ったとはいえ、曖昧な点も多く残っている。周辺事態法改正により再定義される重要影響事態をめぐっては、公明党が概念を明確にするよう求めたが、共同文書にはその説明が盛り込まれなかった。政府・自民党は、周辺事態から重要影響事態に再定義にすることで、これまでの地理的制約が事実上の撤廃となるとの認識だが、公明党は、周辺事態法改正でも一定の地理的制約が維持されると主張している。

また、重要影響事態に対応して活動する米軍以外の他国軍への支援をめぐっても、対象を米軍に限定したい公明党と、なるべく限定を回避したい政府・自民党とで主張が食い違っていた。このことから、共同文書では「日米安保条約の効果的な運用」に寄与するかどうかを判断基準とし、拡大対象を豪州軍に絞ることで大筋合意している。ただ、判断基準を条文にどう書き込むかが曖昧で、今後の焦点になっている。

 

新たな恒久法で定める自衛隊海外派遣の国会関与のあり方については、自衛隊の海外派遣への歯止めを厳格にしたい公明党が「例外なく国会事前承認」の義務づけを主張しているのに対し、政府・自民党は強い制約を設けることを避けたいと主張している。このことから、衆議院解散中や国会閉会中以外は事前承認が必要とする方向で調整されているが、合意文書では「事前承認を基本」との曖昧な表現にとどめた。

PKO以外での人道復興支援活動について、政府・自民党は、国連以外の国際機関や地域機関、国連主要機関の要請・支持などでも自衛隊の海外派遣を可能にしたい考えだ。しかし、国際法上の正当性を明確にするよう求める公明党が「範囲が不明確」と難色を示したため、合意文書では派遣要件を「国連決議等」との表記にとどまった。また、国連決議も法的拘束力を持つ安保理決議のほかに、総会決議や報道声明などさまざまな意思表示の形態があり、何が該当するのかは曖昧なままだ。今後、自衛隊派遣の要件としてどこまで認めるのか、具体的に議論していくこととなるようだ。

 

 集団的自衛権行使の限定容認をめぐっては、公明党が、昨年7月の閣議決定で定めた武力行使の新3要件のうち「他に適当な手段がない」ことを明記するよう求めていた。結論は先送りとなり、共同文書では新3要件を「条文に過不足なく盛り込む」とするにとどまった。一方、物品役務相互提供協定(ACSA)の締結に伴う自衛隊法改正を省略する政府案は採用を見送った。自衛隊員の安全確保については、公明党が政府案の「防衛大臣は自衛隊の安全確保に配慮」では弱いと主張したが、「隊員の安全確保のための必要な措置を定める」として、具体的な措置内容については事実上の先送りとなった。

 

こうした論点は、4月中旬以降にも再開される与党協議での課題となる。公明党は「論点はまだたくさんある。法案の一つひとつの文言についても審査を経ることになる」(山口代表)、「残された課題は実際の条文案をみて議論しなければならない」(北側副代表)、「法案審査が最後の関門」(漆原中央幹事会長)などと述べており、政府・自民党を牽制している。いずれの課題も、政府・自民党と公明党の間で主張に隔たりがあるだけに、与党間調整は難航する可能性もありそうだ。

 

 

【訪米前に関連法案を固める方針】

政府は、合意文書にもとづいて具体的な法案化作業を進める。与党は、政府の法案原案および要綱の提示に伴い、4月中旬にも協議を再開して与党審査に入る。大型連休前にも与党の了承を取り付け、5月中旬に関連法案を一括で通常国会へ提出することをめざす。政府・与党は、安倍総理の4月26日からの訪米を前に、関連法案を固める方針だ。

また、4月下旬にとりまとめる日米防衛協力の指針(ガイドライン)にも反映する。日米両政府は、米国内で外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)を開催してガイドライン改定について最終合意する段取りを描く。その後、安倍総理とオバマ大統領が会談し(28日)、日米同盟の深化について確認する方針だ。

 

安全保障関連法案を通常国会中に成立させるため、自民党内では、国会対応についても検討が進められている。関連法案の審議にあたっては、曜日に縛られずに審議できる特別委員会を衆参両院それぞれに設置する方針でいる。民主党の岡田代表が「安全保障政策の大転換を行おうとしている。一会期の国会における拙速な議論で行おうとすることは、国民軽視、国会軽視だ」とする談話を発表して、通常国会での成立に反対する考えを表明している。自民党は、こうした野党の反発に加え、慎重姿勢の公明党への配慮も欠かせないことから、十分な審議時間の確保が必要とみているようだ。

 ただ、通常国会の中盤以降、労働者派遣法改正案など与野党の対決法案の審議・採決が立て込む見込みだ。安全保障関連法案に十分な審議時間を確保するとしても、窮屈な日程とならざるをえない。このことから、自民党は、通常国会の会期(6月24日まで)を延長する方向で調整に入った。延長幅は、お盆前の8月10日までの47日間とする案が浮上している。通常国会での会期延長は1回限りであるため、他の法案審議に影響が出ないよう、余裕をもって延長幅を確保しておきたいようだ。

 

 

【自民党、農協法改正案骨子を了承】

 自民党の農協改革に関するプロジェクトチーム(吉川貴盛座長)は、19日、全国農業協同組合中央会(JA全中)の中央会制度を廃止や地域農協の経営状態などを監査してきた監査・指導権限を撤廃し、法施行から3年半後にはJA全中を特別認可法人から一般社団法人に完全移行することなどを柱とした農協法改正案の骨子を了承した。

法案骨子では、農協について「農業所得増大に最大限の配慮をしなければならない」と規定するほか、政府にはJA全中から分離する監査法人の業務運営や、地域農協の監査コストの増加などに「適切な配慮」をすることなどが盛り込まれている。

 

JA全中の一般社団法人への移行期限について、2月10日に決定した政府・与党の改革案では2016年4月1日の法施行から3年後の2019年3月末となっていたが、2019年9月末とすることになった。これに伴い、地域農協への公認会計士監査の導入、下部組織の都道府県中央会を地域農協への指導権限を持たない連合会への移行についても期限延期となる。

JA全中は、地域農協への監査導入に時間がかかることなどを理由に、与党に半年間延期するよう要求していた。公明党は、組織改編に伴う痛みを和らげるよう、2年間の先延ばしを提案した。自民党は、党内に「改革後退につながりかねない」との慎重意見があったものの、最終的にJA全中や公明党に一定の配慮を示して、移行期限を半年間先延ばすことで折り合った。 

 

政府は、4月3日までに農協法改正案を閣議決定のうえ、通常国会に提出する方針だ。こうした政府案に、野党は「現場を知らない組織いじりだけの的外れな内容」(民主党)、「とても改革とは呼べない。農協の金融部門がメガバンク、メガ生命保険になっている」(維新の党の江田代表)などと批判している。

 民主党は20日、政府・与党の農協法改正案に対する基本的考え方をとりまとめ、農林水産部門会議で大筋了承した。農協に「不断の自己改革」を求めつつ、「地域に根差した協同組合として、持続可能な農業を実現する」との規定を農協法に盛り込むことなどを提言している。また、戸別所得補償制度を復活させる法案やふるさと維持3法案を、26日にも通常国会に提出するようだ。

 維新の党も18日、減反の廃止や専業農家への直接支払などを柱とした農政改革の基本方針を発表して、抜本的な農協改革と農業委員会改革、農業生産法人の要件緩和などを盛り込んだ対案を通常国会に提出する意向を示している。

 

 

【暫定予算案などが優先審議・採決へ】

 来週にかけて年度末の最終週となることから、国会では、年度内に成立しないと国民生活に影響が出る日切れ法案や、政府が今週27日までに国会へ提出する暫定予算案などを優先的に審議・採決していくこととなる。水面下での与野党攻防も含め、予算案・関連法案の処理をめぐる動向をウォッチすることが大切だ。

 また、来年度予算の成立メドがつきつつあるなか、政府は、順次、法案を国会提出していくこととなる。野党側も、対案を国会提出するべく、立法作業を加速させるだろう。予算成立後、どのような与野党対決法案が審議され、どのような論戦が繰りひろげられていくのかを見極めていくためにも、まずは与野党それぞれの政策対応について抑えておきたい。
 

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霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

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