経産省が隠蔽(いんぺい)した文書の全文

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ごまめの歯ぎしり

今回は河野太郎さんのブログ『ごまめの歯ぎしり』からご寄稿いただきました。

経産省が隠蔽(いんぺい)した文書の全文
土曜日の朝日新聞の夕刊に、経済産業省(以下、経産省)が古賀茂明氏の出張報告の一部を隠蔽(いんぺい)したという記事が出ていた。

極めて悪質な情報の隠蔽(いんぺい)だと思われる。

この“所感”について先週、経産省に問い合わせたところ、原課は全くこの報告書に関して関知しておらず、大臣官房秘書課に聞いてほしいとのことだった。

秘書課は、この部分は個人的な感想であり、報告書の一部ではないとの説明を繰り返す。

個人的な感想であり、これが流出しても海上保安庁のビデオと違って全く問題がないとのことなので、全文を掲げる。なるべく原文通りの文字づかい、句読点にしたが、ミスがあれば私の責任である。お許しいただきたい。

*****
別紙5

所感

・今回は急な出張だったため、経産局と打ち合わせる時間が殆どなく、調査対象の選定についても具体的な基準はなかった。

・出張命令を受けた地域は、北海道、東北、九州、四国というだけだったが、これらの地域に限定した理由が不明である。中国、近畿、中部、関東、沖縄等は対象に入っていない。また、対象となった4ブロックのうちでも実際に訪れたのは、時間の関係で北海道、岩手、宮城、福岡、佐賀、愛媛だけなので、4ブロックの調査とも言えない。

・従って、今回の出張報告は、あくまでたまたま訪れた企業で聞いたエピソードを集めたという性格が強い。

・そうした限界を十分に踏まえた上で、調査者として意味があると感じた点を列記すれば以下のとおりである。

・なお、これらの所感の多くは調査対象企業の意見そのものであるが、当初からそうした意見が表明された場合もあれば、当初は表明されていなかったが、調査者との議論の結果表明された意見の双方が含まれている。後者の意見は今回の出張の一つの成果だと言える。

1.経済産業局調査では、製造業のウェイトが高すぎるきらいがある。円高等の影響が強く出過ぎる。ウェイトづけの根拠を聞いたが、はっきりした根拠を持っているところはなかった。統計的に意味のない調査をしてそれを政策のベースとすることは科学的ではない。

2.定型的な質問をするだけでは本質的な問題まで行きつかないことが多いのではないか。局の話では素晴らしい企業と言われていても、実は倒産寸前ではないかとみられるところもあった。

3.製造業などでは海外展開を国内事業と一体的にとらえて戦略を考えているが(当たり前のこと)、局には海外事業に関するノウハウや土地勘が殆どなく、戦略的なアドバイスができない状況にある。円高対応等では、経営者に対して円高でもやっていくためにどうしたらよいか問題を掘り下げて議論していく過程で、新たな挑戦の軸につながるような展開もあった。こうしたノウハウを培うためには、局も少なくとも県の国際部門並の国際感覚を持った人材を持つ必要があるが、非現実的。四国では今年も昨年も海外出張がゼロとのこと。徳島ではジェトロ上海事務所にずっと職員を派遣しており、帰国してから企業の相談に乗っている。高知県も上海事務所がある。本当の相談は県に行ってしまうとのこと。局の存在意義はあまりなくなっている。

4.優良企業の発掘も県に頼る場面が多いとのこと。やはり、国の機関が中小企業政策を担うことの限界ではないか。中小企業政策は予算と権限ごと県に移管することが効率的だと思われる。

5.どこでも農業政策に対する不満の声が大きかった。特に北海道では、ホクレンや農業委員会等が農業に進出する新規参入者や意欲ある農家の発展を阻害しているとの指摘が多かった。農業政策が自立できない農業温存政策になっている疑いが極めて強い。もっと競争原理を取り入れた、伸びる生産者「だけ」を後押しする政策に転換するべき。農業だから保護というのはおかしいという声が圧倒的に強かった。

6.中小企業政策には儲かっていると補助金が出ないというおかしな仕組みが多い。儲かっていないということは仕事がないということ、そんなところを補助しても意味ない。仕事があって伸びるところに出すべき。また、受注生産のところでは売り上げが落ちたら受注残はゼロというような場合もあり、タイムラグに対応する政策を今まで全く考えていなかったとすれば怠慢と言われても仕方ない。

7.弱者保護の補助を止めて強いところに雇用を集中すべき。「補助金がなければやっていけないのは事業ではない。ゾンビみたいに生き残って強いところにダンピングで足を引っ張る。これでは政策の意味は全くない。」という声が意外に強かった。日本の産業政策の根本問題で、中小企業でさえこの点を良く認識している。弱者保護の対策は直ちに止めて労働異動の円滑化対策だけに絞るべき。

8.高齢者の経験に頼るような経営はもう限界である。若手経営者の方がはるかに環境変化への対応力があるとみられる例が多い。経営支援する場合、経営者の能力を厳しく査定して能力が低い経営者の企業には助成しないようにした方が良い。

9.自動車メーカー等の下請けに甘んじていたところで2極化の動きがある。技術が高いというだけに安住していた企業には将来がない。経営力が最大の問題。既に多くの企業がそれに気づいており、円高でも価格交渉をできる交渉力を持ち始めている。円高だから助けようという姿勢は誤ったメッセージを与えている可能性がある。自分達は被害者だという意識を持つと先がなくなる。

10.大手メーカーのこだわりとそれに応える擦り合わせ力を美化することが過剰になっていたきらいがある。各メーカーごとに異なる仕様にしてそれに応えるために無用な努力が払われその結果親企業の価格競争力が失われてコスト削減要請を受けるという悪循環に陥っている。

11.擦り合わせを美化する風潮が過剰な残業を生んだり、利益率の低下の遠因となっている。早晩適正化が図られると思われるが、少なくとも政策的にコスト評価をしないまま擦り合わせ文化を美化し、促進するような政策はとるべきではない。

12.FTA交渉の遅れに対する不満も極めて強い。それとの関係で上述した農業保護政策への批判が極めて強かった。農業のために日本の強い産業が負担を強いられることは、日本経済を弱体化することになるので極めて問題。ばら撒きは止めて、兼業農家からは土地を大規模経営体に移す政策を採るべき。あとは生活保護なり失業対策の問題として解決すればよい。工場労働者はハローワークに行くしかないのだから、農家だけ特別に保護する必要はない。そもそもずっと赤字の農家なら所得補償は必要ないのではないか。

13.EUや中国の規制について意見が出ていた。EUとのFTA交渉等で細かい規制項目についてSMEの意見を聞いてアジェンダに載せる努力をしてはどうか。

14.補助金政策については、使い勝手が悪いという批判とともに、そもそもそんなものは当てにするべきではないという意見も多かった。これだけ財政状況が悪いのだから、思い切ってモデル事業的なものは全廃して、ベンチャー支援の税制とミドルリスクミドルリターンの企業金融だけに絞ることにしてはどうか。あとはセーフティネットで雇用対策、とりわけ職業訓練の強化などで対応した方が効率的ではないか。また、淘汰を促進するという明確な意思を持った政策に転換して行くことが必要。

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執筆: この記事は河野太郎さんのブログ『ごまめの歯ぎしり』からご寄稿いただきました。
なお、河野様のご意向により、別紙以下は原文のまま掲載いたしました。

文責: ガジェット通信

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