「知らなければ」不問、政治資金規正法が「ザル法」たる所以
補助金を受けていた企業と「知らなかった」場合、違法にならない
国から補助金を得ていた企業や団体から、国会議員が代表の政党支部への献金をめぐり、西川農水相が辞任に追い込まれました(もっとも、野党の追及も、民主党の岡田代表にまで波及した途端、一気に沈静化した感があります)。
政治資金規正法では、寄付をする企業などの側は、補助金を交付されることが決まったと通知を受けてから1年間は、原則として、国会議員に寄付をするだけで「違法」となります。議員の側も、この規定に違反する寄付と知りながら受け取ると罪を問われます。
すなわち、これが、同法が「ザル法」と批判される典型的な場面ですが、議員は、寄付を受け取った企業などが補助金を受けていたと「知らなかった」場合には、「違法」にはならないのです。
政治不信という点では、政治家の献金に関する認識は関係ないはず
しかし、そもそも同法が、補助金を受けた企業からの献金を原則禁止とする趣旨は「国民の支払った税金を原資とする補助金が『寄付』という形で政治家に還流することは、国民の政治不信を招くおそれがある」という点にあります。そして、国民の政治不信という点では、政治家が献金について、どのような認識を持っていたかは関係がないと言わざるを得ないように思います。
にもかかわらず、「知っていたのではないか」「知らなかった」といったような政治家同士の不毛なやりとりが行われている状況です。これを一掃するために、見返りを求めれば賄賂性を帯び、求めなければその目的を株主らから問われるという矛盾をはらんだ企業・団体による政治献金を一切廃止しようではないか、という提案が一部の野党からなされています。
企業・団体による献金廃止の機運が高まっているとは言えない
そもそも企業・団体による献金については、平成6年に政治改革関連法が成立し、国民一人当たり250円の税金で政党を支える「政党交付金」の仕組みが導入された際、代わりに将来的に廃止することが決定しました。しかし、今年も政党交付金は共産党を除く10政党に配分されるのに対し、企業・団体による政治献金は、いまだに廃止されていません。
前述の政治改革関連法の成立に伴って、政治家個人の政治団体ではなく、政治家が自身の所属する政党の支部を作れば、そこを企業・団体による献金の受け皿とすることができるような「抜け道」が設けられたからです。そして、その後も、政党側に党運営を政党交付金のみに頼ることへの抵抗感は消えず、企業・団体による献金廃止の機運が高まっているとは言えないのが現状です。
企業献金は、憲法上、構成員の思想・信条の自由を侵害する問題も
ちなみに、企業による献金は、憲法上、企業・団体の構成員の思想・信条の自由を侵害するのではないかという問題もあります。この点については、株式会社の場合、(1)営利が目的であること、(2)構成員(株主)の思想・信条に反する行為をする場合、株主は株式譲渡により会社から離脱する自由があること、(3)所有と経営の分離が徹底されており、会社財産から政治献金がなされても、株主の思想・信条の自由の侵害は間接的なものにとどまることから、企業の「目的の範囲内」(民法第43条)であるというのが判例(八幡製鉄政治献金事件)・通説です。
これに対し、税理士会のような強制加入団体が献金を行う場合は、判例でも(1)公益法人であり、法定の公益目的に沿う行動が求められること、(2)強制加入団体で、構成員(税理士)は自由に脱退できないこと、(3)特別会費を徴収する場合は、会の支出目的との関連性が要求され、株式会社の場合よりも、構成員(税理士)の思想・信条の自由の侵害に直結することから、「目的の範囲」外であると認定すべき要請が強いと判断されています(南九州税理士会政治献金事件)。
(名畑 淳/弁護士)
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