若者の○○離れ 傾向と対策(最終防衛ライン3)
今回はlastlineさんのブログ『最終防衛ライン3』からご寄稿いただきました。
※すべての画像が表示されない場合は、https://getnews.jp/archives/862837をごらんください。
若者の○○離れ 傾向と対策(最終防衛ライン3)
【1】 若者の○○離れの4つの傾向
「『若者の○○離れ』という「天狗の仕業」」 2013年01月16日 『空気を読まない中杜カズサ』
http://nakamorikzs.net/entry/20130116/1358344959
「若者の○○離れ」と言われて久しいですが、その多くは で上記で紹介したブログの記事タイトルそのままに “『若者の○○離れ』という「天狗の仕業」” にしたもので、分析ににすらなっていないものばかりです。
碌でもない「若者の○○離れ」の傾向と対策は以下の4つに分類できます。
1. 過去と比較しない
2. 若者の人口減少を考慮しない
3. 他の年齢層の減少を無視する
4. 印象で語る
それぞれについて、具体例を示しながら説明していきます。
4つの傾向と対策を述べたら、若者の○○離れがいつ頃から使われるようになったのかを分析します。
【1-1】1. 過去と比較しない
若年層の比率や絶対数が他の年齢層と比較して少なかったので「若者の○○離れ」と結論づける場合。
30代以上もかつては20代だったのだから、20代での割合が低いのは若者が離れたからだ、という考察は正しいでしょうか。調査した内容が年齢上昇に伴い増える項目の可能性があるため、過去と比較しなければ若者が離れたとは言えません。
例えば、持ち家率や結婚率、そして離婚数などは年齢が上なほど増えるはずです。本当に若者が離れているのか見極めるには過去のデータと比較しなければなりません。
「若者のクレジットカード離れが顕著に?20代男性のカード所有率は73.8%と、一般平均の86.8%を大きく下回る結果に(JCBの統計結果)!」 2015年02月21日 『クレジットカードの読みもの』
http://cards.hateblo.jp/entry/wakamono-no-cardbanare/
最近では「若者のクレジットカード離れ」がまさに「1. 過去と比較しない」例です。過去と比較せずに、他の年齢層と比較しただけで若者のクレジットカード離れと述べています。クレジットカードの読みものというブログタイトルなのだから、クレジットカードのことくらいまともな内容を書いていただきたいものです。
JCBが行った過去の調査結果と比較して、本当に若者のクレジットカード離れなのかを考察します。2005年度から2014年度の20代の男性と女性、および全年齢のクレジットカード保有率を抜粋します。2011年度は調査をしたようなのですが、データが見つけられませんでした。もし見つけた方がいましたらお知らせしてくれると助かります。
|年度|男性|女性|全年齢の平均|URL|
|2005年度|77.0|77.0|85.9|http://www.jcbcorporate.com/news/pdf/dr-469.pdf|
|2006年度|68.5|78.1|83.8|http://www.jcbcorporate.com/news/pdf/report2006.pdf|
|2007年度|72.5|78.3|84.9|http://www.jcbcorporate.com/news/pdf/report2007.pdf|
|2008年度|68.8|78.5|85.1|http://www.jcbcorporate.com/news/pdf/report2008.pdf|
|2009年度|71.5|74.1|82.8|http://www.jcbcorporate.com/news/pdf/report2009.pdf|
|2010年度|80.9|81.9|90.4|http://www.jcbcorporate.com/news/pdf/report2010.pdf|
|2011年度*1|―|―|88.1*2|
|2012年度|74.1|77.2|87.4|http://www.jcbcorporate.com/news/pdf/report20112.pdf|
|2013年度|72.2|77.2|86.6|http://www.jcbcorporate.com/news/channelfile/file/report2013.pdf|
|2014年度|73.8|79.3|86.8|http://www.jcbcorporate.com/news/channelfile/file/report2013.pdf|
*1: 調査はしたようだが結果が見つけられず
*2: 2012年から2014年度の報告書より
(画像が見られない方は下記URLからご覧ください)
https://px1img.getnews.jp/img/archives/2015/03/wa.jpg
傾向として見て取れるのは、20代男性よりも女性の方が保有率が高いこと。年度毎だと、女性は77%前後で横ばいですが、男性の割合はかなりのばらつきがあります。2005年は77.0%だったのが、翌年には68.5%と10%近く減少。その後2009年まで70%前後だったのが、2010年では80.9%と10%以上も増加しています。2011年の調査結果はありませんが、2012年には74.1%に減少し、その後は横ばいです。
たった一年で10%も増減するのはおかしな話です。平均を見ても2010年が突出して高い結果となっています。20代男性と全年齢の平均の変動は一致しているような、一致してないような。どちらにせよ、この調査結果から、若者のクレジット離れと結論付けるのは難しいと考えます。
また、全年度で20代の保有率は一般平均よりも下回っています。この点は “若者のクレジットカード離れはミスリーディング。突っ込みどころが3点程” *3にも書かれているように、若者ほどクレジットカードの審査に通らないからでしょう。
*3: 「若者のクレジットカード離れはミスリーディング。突っ込みどころが3点程」 2015年02月22日 『なまけるのに飽きるまで』
http://namakeru.hatenablog.com/entry/2015/02/22/083124
【1-2】2. 若者の人口減少を考慮しない
過去とは比較しているものの、絶対数が減少しているから若者の○○離れと結論づけている場合。
日本は高齢化社会です。出生率も減少傾向にあります。若年層の人口は年々減り続けています。それを考慮せず、絶対数のみで比較するのは愚の骨頂です。年度別での若者の絶対数や全人口における割合を考慮しなければなりません。
「1 未(ひつじ)年生まれの人口は1007万人」 『統計局ホームページ』
http://www.stat.go.jp/data/jinsui/topics/topi851.htm
2015年の干支は未年ですが、統計局のデータによると年男、年女である未年生まれの人口は1007万人です。最も多いのは1967年生まれの48歳で188万人、次いで1943生まれの72歳が164万人。3番目に多いのが1979年生まれの36歳で160万人。158万人と僅差で1955年生まれの60歳が続きます。5番目はぐっと減り1991年の24歳が124万人、2003年生まれの12歳は111万人で、90万人いる1931年生まれの84歳よりもわずかに20万人多い程度です。
年代別の比率を考えずに絶対数のみで比較し、若者の○○離れと結論づけるのは実に愚かなことです。
「2. 若者の人口減少を考慮しない」例として、なぜ若い人たちは海外に行かなくなったのか 危機意識を募らせる国と旅行会社 (幻冬舎plus)*4を挙げます。
*4:「(cache) なぜ若い人たちは海外に行かなくなったのか 危機意識を募らせる国と旅行会社」 『Yahoo!ニュース』
http://megalodon.jp/2015-0127-1930-21/zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150123-00003090-gentosha-ent
やまもといちろんさんが、”渋谷和宏さんが「若い人たちは海外に行かなくなった」と微妙な説を披露した件で”*5 でも解説されてますが、若者の海外旅行者数が減っているのは、若者の人口減少が原因です。
海外へ行ったことのある若者の割合を考慮した分析はトリップアドバイザーが “若者の海外旅行離れって本当?” *6 でまとめていますが、海外旅行へ行った若者の割合は18%でほぼ横ばいです。つまり、若者の海外旅行離れとは言えません。
*5: 「渋谷和宏さんが「若い人たちは海外に行かなくなった」と微妙な説を披露した件で」 『Yahoo!ニュース(個人)』
http://bylines.news.yahoo.co.jp/yamamotoichiro/20150125-00042530/
*6: 「若者の海外旅行離れって本当?」 2013年03月15日『トリップアドバイザー』
http://tg.tripadvisor.jp/young/
【1-3】3. 他の年齢層の減少を無視する
過去のデータは参照しているけれども、他の年齢層と比較しないで若者の○○離れと結論づける場合。
全体が減少傾向にあれば、若者の割合が減るのもあたり前。それなのに、他の年齢層と比較せず若者の○○離れと分析するのはおかしな話です。
「3. 他の年齢層の減少を無視する」に分類されるのは、車離れ、アルコール離れ、音楽離れでしょうか。どれも、若者に限らず市場自体が減少傾向にあります。
「成人喫煙率(JT全国喫煙者率調査)」 『厚生労働省の最新たばこ情報』
http://www.health-net.or.jp/tobacco/product/pd090000.html
例えば、喫煙率は減少傾向にあります。全体が減少しているのに、若者にだけスポットを当てるのは視野狭窄です。
流石に、若者のたばこ離れを見出しとしているのは見出しをロンダリングした2ちゃんねるのスレや *7、知恵袋での釣り *8 くらいしか見つかりませんでした。
*7: 「【煙草】「若者のタバコ離れ」 5月のたばこ販売8.9%減 2ヶ月連続のマイナス」 2014年06月18日 『watch@2ちゃんねる』
http://www.watch2chan.com/archives/39416153.html
*8: 「今の若者のタバコ離れについて私は40代の愛煙家です。」 2014年02月11日 『Yahoo!知恵袋』
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q14120882164
【1-4】4. 印象で語る
「3. 他の年齢層の減少を無視する」はしばしば「4. 印象で語る」も併発します。「4. 印象で語る」はデータすら示さないので論外です。例えば「Business Media 誠」の記事である “酒類市場の縮小止まらず、若者のアルコール離れなどで” *9 においては若者に関するデータが全く示されていません。
*9: 「酒類市場の縮小止まらず、若者のアルコール離れなどで」 2009年02月12日 『Business Media 誠』
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/0902/12/news071.html
アルコール離れに関しては、20代に限らず30代、40代の飲酒習慣が減少傾向にある調査結果があります。*10 アルコール離れは、若者に限った話ではありません。
他の年齢層の減少傾向を無視し、印象論で「若者の○○離れ」とする例がもっとも多い気がきます。
*10: 「お酒を飲まない男性が増えている?」 『健康Salad』
http://www.k-salad.com/toukei/003.shtml
関連リンク:
「「若者の○○離れ」ってもうやめませんか」 2009年08月20日 『最終防衛ライン3』
http://lastline.hatenablog.com/entry/20090820/1250697150
【2】若者の○○離れはいつ頃から頻繁に叫ばれるようになったのか
若者の○○離れはいつ頃から使われるようになったのでしょうか。
「○○離れ」といえば「活字離れ」が思い起こされます。年齢層は限定されませんが「活字離れ」と言えば、子ども、学生、つまり若者を指すことが多かったのではないでしょうか。ただその実際はWikipediaの”活字離れ”の項 *11 にまとめられていますが、データを見ると活字離れ、特に若者の活字離れも「4. 印象で語る」場合が多々あります。
最近だと本当の意味で「活字」を読んでる人の割合は減っているのは間違いないでしょうが。
*11: 「活字離れ」 『Wikipedia』
http://ja.wikipedia.org/wiki/活字離れ
「活字離れ」は暗に若者を指すため、わざわざ「若者の」を文頭に付ける必要がなかった側面もあります。また、2002年8月の月刊基礎知識において、”〈ブーム〉の反対語=〈××離れ〉〈脱××〉〈失われた××〉の用語集” *12 なる特集が組まれています。種々の「○○離れ」が挙げられていますが、ここでも「若者の○○離れ」とわざわざ若者に焦点を当てた記事は多くありません。もちろん、暗に若者が離れたことを示唆している記事もありますが、現在のように「若者の○○離れ」なる用例があふれてはいません。
*12: 「〈ブーム〉の反対語=〈××離れ〉〈脱××〉〈失われた××〉の用語集」 『月刊 基礎知識』
http://www.jiyu.co.jp/GN/cdv/backnumber/200209/topics01/index.html
それでは「若者の○○離れ」と、特に若者にスポットを当てるようになったのはいつ頃なのでしょうか。
【2-1】若者の理科離れ
平成5年版科学技術白書[第1部 第1章 第1節 1
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpaa199301/hpaa199301_2_005.html
1993年(平成5年)の科学技術白書では「若者の科学技術離れ」についてまとめられています。
確かに、1981年と1991年とを比較すると20代のみが科学技術への興味を持つ人の割合が減少しています。また、理工学部の入学志願者の割合や、その卒業生が製造業へ就職する割合も年々減っています。
理工系への入学志願者の割合が低下したのは、人文系や国際、経営学などの学部が多様化し始めた頃だと思われ、単純に選択肢が増えただけの可能性があります。また、製造業への就職率低下は、業態変化などもあり大卒の人が就職するにはミスマッチになり人気が低下したとも考えられます。
科学技術白書の分析に疑問はありますが、80年代から90年代にかけて科学技術に興味を持つ20代の割合が減ったのは事実でしょう。
その後「科学技術離れ」は「理科離れ」として広まっていきます。1996年2月28日に朝日新聞出版より “理科離れの真相” *13 が発売されています。時期的に、先の科学技術白書などを受けて書かれた本でしょう。また、1998年9月17日には秋季第59回応用物理学会学術講演会 *14 においてシンポジウム “若者の理科離れ調査(物理教育小委員会活動報告)”が開催されています。
*13: 「書籍:理科離れの真相」 『朝日新聞出版』
http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=4273
*14: 「1998年秋季第59回応用物理学会学術講演会のお知らせ」
http://annex.jsap.or.jp/edu/dape/s980917.html
90年代後半より「若者の理科離れ」を受けて「若者の○○離れ」というジャーゴンが徐々に広まっていったようです。例えば、1999年11月10にFNS系列で放送された “米と酒 ~夏田冬蔵の世界~” *15 は「若者の日本酒離れ」を追ったドキュメンタリーです。
また、2000年7月13日付けで若者に関する記事 *16 が書かれています。
*15: 「第8回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『米と酒 ~夏田冬蔵の世界~』」 『フジテレビ』
http://www.fujitv.co.jp/b_hp/fnsaward/backnumber/back/99-365.html
*16: 「若者の保険離れ」 『ほけんのねっと』
http://www.hokenno.net/relate/oneself/no_contract.htm
【3】2007年 若者の○○離れブーム到来
2000年代前半より、じわじわと浸透した「若者の○○離れ」ですが、この時点では現在ほど頻繁に目にしたり耳にしたりするほどは広まってはいません。
メディアで目にするようになったのは、2000年代後半からでしょうか。2005年9月5日には琉球新報で “若者の政治離れ・あきらめてはいけない” *17 と叫ばれています。若者の政治離れは、これより以前からも言われたいたような気がしますが。
*17: 「若者の政治離れ・あきらめてはいけない」 2005年09月05日 『琉球新報』
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-6169-storytopic-11.html
現在のように、ビジネスやマーケティングの分析として「若者の○○離れ」がもてはやされるようになったのは2007年からです。以下に示すように、2007年から「若者の○○離れ」を見出しとする記事が顕著に増えています。以下のその例をまとてみました。
1. 「乳飲料やコーヒーなどの人気上昇、若者のお茶離れ顕著に」 2006年04月14日 『nikkei BPnet』
http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/china/market/060414_3rd/index.html
2. 「NHK、“若者離れ”にメス」 2007年08月07日 『日経ビジネスオンライン』
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20070807/131887/
3. 「“クルマ離れ”の若者にアピールする自動車ビジネスとは?」 2007年08月24日 『Business Media 誠』
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/0708/24/news077.html
4. 2007年09月14日: 「日本酒が嫌われる3つの理由」 2007年09月14日 『Business Media 誠』
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/0709/14/news010.html
【3-1】Googleトレンドから「若者の○○離れ」を見る
Googleトレンドで調べてみると、2007年から2008年にかけて「若者の○○離れ」が頻繁に使われるようになったと考えられます。かれこれ、7,8年前で、その頃から「若者○○離れ」を叫びながら一向に解消されないのは、まるで成長していない。
「トレンド – ウェブ検索の人気度: 若者離れ – 日本, 2004年 – 現在」 『Google』
http://www.google.com/trends/explore#q=若者 離れ&geo=JP&cmpt=q&tz=
(画像が見られない方は下記URLからご覧ください)
https://px1img.getnews.jp/img/archives/2015/03/wa01.jpg
「トレンド – ウェブ検索の人気度: 若者の離れ – 日本, 2004年 – 現在」 『Google』
http://www.google.com/trends/explore#q=若者の 離れ&geo=JP&cmpt=q&tz=
(画像が見られない方は下記URLからご覧ください)
https://px1img.getnews.jp/img/archives/2015/03/wa02.jpg
「トレンド – ウェブ検索の人気度: 若者車離れ – 日本, 2004年 – 現在」 『Google』
http://www.google.com/trends/explore#q=若者 車 離れ&geo=JP&cmpt=q&tz=
(画像が見られない方は下記URLからご覧ください)
https://px1img.getnews.jp/img/archives/2015/03/wa03.jpg
【4】まるで成長していない
2000年代以前から「○○離れ」なる言葉は使われていました。しばし暗に「若者」が離れていることを指しましたが、わざわざ「若者の」と付けられることはありませんでした。2007年頃からマーケティングにおいて、しばし「若者の○○離れ」がもてはやされるようになり現在に至ります。8年前からと考えると、まるで成長していないってことですね。
その理由としては、「若者の○○離れ」を論じる分析が以下の4つの傾向にあるため。
1. 過去と比較しない
2. 若者の人口減少を考慮しない
3. 他の年齢層の減少を無視する
4. 印象で語る
データをきちんと分析できなければ、有効な対策を打てるはずがありません。
過去と比較しないのは、そもそも若者に人気があるのか、若者に購買力があるのかを考慮していません。単に年齢と相関関係のあるデータに過ぎない場合もあります。
若者の人口減少を考慮しないのは、購買者数の減少を直視していません。
他の年齢層の減少を無視するのは、業界全体の斜陽に目を向けるべきです。もちろん、若者に人気がでなければ将来もないのは確かですが。
印象論は論外ですね。
皆さんも「若者の○○離れ」に踊らされないように気をつけましょう。
執筆: この記事はlastlineさんのブログ『最終防衛ライン3』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2015年03月13日時点のものです。
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