会話するバービー「スマートトイ」は子どもの「空想」を奪う?
着せ替え人形「バービー」が会話のできる「ハローバービー」に
世界中の女の子に愛されてきた着せ替え人形「バービー」が、持ち主の質問に考えて会話ができる「ハローバービー」として生まれ変わりました。人工知能(AI)による音声機能やインターネット経由のクラウド機能を搭載しており、「ダンスが好き」「自転車に乗るのが好き」など持ち主の趣味や趣向を覚え、その後の会話に反映するなど学習するため、会話を通じて個性を持つようになり、持ち主によって全く違うバービーに成長するといいます。
玩具業界では、このようなハイテク機能を駆使した「スマートトイ」が主流になるといわれています。英国では、すでに「スマートトイ」として、考えて会話をする女の子の人形「ケイラ」が発売されているそうです。SFのレベルにはまだほど遠いですが、ソニーのAIBOに始まり、まず玩具としてロボットが人間と生活をともにする時代がやって来たようです。
「空想の会話にさよなら」。子どもの想像力を奪うという懸念も
夢が膨らむ話ですが、一方では、BBCは「保守的な人からは、人形との空想のお喋りがなくなり、子どもの想像力を奪う、という懸念の声も出ている」と報道しました。英紙デイリー・ミラーは、外部からのハッキングで子どもたちの会話が盗まれる危険性を指摘しています。また、米紙のクリスチャンサイエンスモニターは、「空想の会話にさよなら」との見出しを掲げ、議論を呼んでいます。
想像力に関する問題がどうなるかは、今後、実証的な研究を待たねばなりませんが、ここでは一つの見方を述べます。
子どもたちは、想像力の世界に「スマートトイ」を組み込んでいく
ある実験研究によれば、お人形遊びをする年代の子どもたちに、一定時間、お人形遊びをするのに「バービー人形」と「普通の(無名の)人形」の二つから選ばせたところ、多くの子が「普通の人形」を取ったとのことです。理由は「こっちの方が普通だから」「あれ(バービー)はもう持ってるから」など。
バービー人形は、いわば「オモチャ界の有名人」なので、ごっこ遊びで子どものさまざまな想像上の役割を担わせるには、バービーちゃんはバービーちゃんでしかなく、キャラがはっきりし過ぎているのでしょう。逆にバービーちゃんのファンで「バービーちゃんと遊びたい」子どもはバービー人形を取るはずです。
すなわち、同じ人形遊びでも、子どもたちの中では、すでに「バービーちゃん的なもの」と「普通のキャラのもの」と区別ができているはずなのです。「スマートトイ」がたくさんが出て来ても、そのトイたちはあくまで「特別なキャラ」であり、子どもの広い想像の世界の一部でしかなくなると思うのです。子どもたちは、想像力の世界にうまく「スマートトイ」を組み込んでいくのではないでしょうか。
愛する「もの」に「いのち」を与えたいという欲求は自然に生じる
そして「スマートトイ」が登場した歴史の流れというのは、ちょうど漫画からアニメが生まれたのと同じことだと思います。手塚治虫は、彼の「鉄腕アトム」がアニメキャラとなって飛び回り話をするのをわくわくと想像しながら制作していたことでしょう。
バービーのイメージは、すでに子どもたちの遊びの世界で一定の位置を持ち、愛されているわけですから、バービーのファンの心に「バービーちゃんが本当にお話して遊んでくれたら素晴らしいのに!」という願望が生じてくるのは当然といえましょう。実際、バービーの生みの親である米の玩具会社「マテル」によれば、女の子から届くリウエストの第1位は「バービーと会話したい」だったそうです。愛する「もの」に「いのち」を与えたいという欲求が、人間には自然に生じてくるもの。「ピノキオ」のゼペットじいさんの気持ちにも通ずるかもしれません。
オモチャとは、子どもの夢を運ぶものです。バービーファンの子どもたち一人一人とマテル社の夢が「ハローバービー」として実を結んだのではないでしょうか。
(池上 司/精神科医)
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