GMOインターネット株式会社熊谷正寿会長のブログに掲載された記事へのコメント
今回は東田幸樹さんからご寄稿いただきました。
この記事は、GMOインターネット(以下GMO)熊谷正寿会長の公開質問(2010年10月30日)への、日本レジストリサービス(以下JPRS)東田幸樹社長の返答コメントです。(2010年11月1日)
熊谷正寿会長の質問はこちら。
「株式会社日本レジストリサービスさんへの公開質問です 」
https://getnews.jp/archives/83424
GMOインターネット株式会社熊谷正寿会長のブログに掲載された記事へのコメント
JPRSの東田です。
熊谷会長のJPRSに対するご意見は、会社経営者としてだけでなく、日本におけるドメイン名最大手事業者、JPRS株主企業という枠も超えた、日本のインターネット社会の将来を真剣に考えたものであると感じました。
私も、JPRS設立からの10年間、同じように、インターネット社会の将来のことをだれよりもという意気込みで取り組んできました。熊谷会長がご懸念されている点などに対して、私としての考えを述べさせていただきます。
▼JPRSという企業と.jpのレジストリ業務について
JPRSは、純粋な民間企業です。時々、省庁からの天下りを受け入れているのではないかという誤解を受けることがあるのですが、そのようなことはありません。また、政府の保護を受けているという誤解もありますが、JPRSは政府に監視される立場であり、一切の特別な保護は受けていません。
JPRSの株主は、日本のインターネット基盤を支えるという趣旨に賛同いただいた、日本を代表する企業の方々になっていただきました。 GMOさんもその1社です。
JPRSの利益が利用者に還元されず、役員をはじめとする株主にばかり還元されているというご意見は正しくありません。株主への配当は、株式会社の経営としては当然の行為ですが、配当額は一般的な水準の域を出るものではないと考えています。 JPRSの株主は、株式配当を目的に株主となっていただいているのではなく、JPRSという企業を支えることの意義をご理解いただいているものと思っております。また、後述するように、.jpの料金値下げという形で利用者への利益の還元努力を続けています。
社長である私をはじめ、役員が株主となっていることも事実ですが、役員が自社の株式を保有することは一般的に行われていることであると考えています。
独占事業を営んでいると言われることも多くあります。確かに、.jpのレジストリは当社1社ですが、トップレベルドメインのレジストリがドメイン名の一意性を保証するためには一元管理を行う必要があり、レジストリは必然的に1社となります。
しかし、このことはいわゆる“市場の独占”とはまったく別のことです。
日本のドメイン名市場は.jpだけで成り立っているわけではなく、gTLDも含めた他のトップレベルドメインとの共存と競争の中にあります。日本のドメイン名市場には、それぞれ特徴のあるトップレベルドメインが提供され、利用者の皆さまはそこからそれぞれのニーズに合うドメイン名を選んでいただくことができます。日本で登録されているドメイン名のうちで、.jpが占める割合は半数を下回ると推測しています。
現に、GMOさんにおいても多くの種類のトップレベルドメインを登録することができます。
その中で、他のトップレベルドメインとは違う、独自の価値を提供することが、.jpに求められている存在意義であると考えています。
毎年行われているマカフィー社によるトップレベルドメインの安全性調査で、.jpが2年連続で最も安全な国別トップレベルドメインと評価されたことは、 JPRSの取り組みだけでなく、事業者、利用者の皆さまの協力があってのものですが、.jpのこのような評価も、.jpの価値であると考えています。
JPRSが.jpのレジストリとしての基本的な柱としている考え方は、
– 技術力とシステム整備によるDNS運用の信頼性
– 障害、事故、災害に強い持続性のあるサービスの安定性
– 常に改善し続けるサービスの利便性
– 利用しやすい料金で提供する経済性
の4点であり、これらの取り組みのバランスを保つことが大切と考えています。
とかく料金ばかりが注目されがちですが、ドメイン名登録管理のサービスが継続して提供されなければならないこと、ドメイン名を利用するためのDNSが安定して運用されなければならないことなどを考えれば、安いことだけを追及することは、非常に危険だと思います。
ドメイン名の登録管理には原資がかからないはずというご意見をいただくこともありますが、レジストリ業務ではDNSをはじめとする継続的なシステム投資が必要です。もしDNSに障害が発生すれば、.jpを利用したウェブへのアクセスや、メールの送受信などができなくなり、社会への影響は計り知れません。このことの重要性については皆さまもよくご理解いただいているものと思います。
もちろん投資が必要だから料金が高くてよい、というわけではありません。汎用(はんよう)JPドメイン名の指定事業者向け卸値は、2001年のサービス開始当初は3500円でした。これまで段階的に値下げを行い、2010年11月現在は2250円としています。
これでもまだ、他国との比較では高めの料金水準にあることは事実です。料金を数百円引き下げることはその都度、数億円単位での減収となりますが、値下げについて継続して検討していく姿勢はこれまで同様変わりません。
また、現在.jpの登録数が少ないことが日本のインターネット上の情報量に大きなマイナスとなっているというご意見ですが、日本では、大規模なブログサービスやショッピングモールサイトなどの、独自ドメイン名を利用しないポータルサイトがいち早く整備されており、ドメイン名の数が少ないからと言って、ウェブの数やインターネット上の情報量が少ないということはないと考えます。
▼gTLDの指定事業者への取次ぎについて
JPRSがgTLDを指定事業者の皆さまに取次ぐことを検討していることについては、10月14日と19日に開催した、指定事業者の皆さまを対象としたパートナーズミーティングの場で、ご相談させていただきました。
これについては、ご懸念の声もいただくことがありましたが、ぜひ取り組んで欲しいという強いご要望もいただきました。
JPRSにgTLDを取次いで欲しいという指定事業者の要望の理由としては、国内のレジストラの多くはホスティング事業などで競合関係にあるため、やむなく海外のレジストラを使うことになるが、商習慣や為替リスク、言語の問題など、取引のハードルが高いというものでした。
なお、3月5日にGMOさんを私が訪問した際に、熊谷会長から「JPRSがgTLDを販売しないことをこの場で約束して欲しい」と要請されましたが、「gTLDの取次ぎについては確定していない状況であり、そのお約束はできない」と私はお答えしました。
その後、検討を重ね、現在はgTLDの取次ぎを開始する方向で準備を進めています。 JPRSが、指定事業者の皆さまのgTLD仕入先の選択肢の一つとなって、それが日本のドメイン名市場の発展と、それを通したインターネット社会の発展につながるものとなれば、と考えています。
もちろん、gTLDのレジストラであるGMOさんはじめ国内数社の方々とは競争関係となりますが、これは日本のインターネットの健全な発展のためにもよいことであり、お互いのサービスの特徴を出していくことができればと思っています。
JPRSがgTLDを取次ぐことは.jpの普及促進に相反するというご意見もあるようですが、先にも述べたとおり、さまざまなドメイン名がそれぞれの特徴をもって共存し、インターネット社会を支えています。.jpのレジストリであるJPRSがgTLDの存在を否定することはなく、それぞれ特徴のあるドメイン名を、それぞれのニーズを持つ利用者に提供することが大切と考えます。
JPRSの企業理念は“ネットワークの基盤を支える企業として、インターネットの発展に寄与し、人と社会の豊かな未来を築くことに貢献”することであり、この理念に基づく活動であれば積極的に取り組んでいきたいと思っています。
今回、熊谷会長からいただいたご意見は、GMOの経営者としてはもっともなものであり、日本のインターネットのために、という視点では同じ方向を向いているものと思います。JPRSが十分に説明できていない部分も多く、また誤解されているところもあり、その点は今回ご説明の機会をいただいたものと感謝しています。
今後も同じインターネット関連事業者として、よりよいインターネット社会の実現のために刺激し合い、協力していければと思います。
執筆: この記事は東田幸樹さんからご寄稿いただきました。
文責: ガジェット通信
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