『アメリカン・スナイパー』脚本家インタビュー 「(この映画が)戦争へのブレーキになるかもしれないね」

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クリント・イーストウッド監督ブラッドリー・クーパーを主演に迎えて描く、伝説のスナイパーの真実とその半生の物語『アメリカン・スナイパー』。2月21日(土)の日本公開に先駆け、先月より全米3555館で封切られた本作は、全米興行収入2億5000万ドル(300億円)を突破して社会現象級の大ヒットを記録。さらに、今年度のアカデミー賞では作品賞や主演男優賞(ブラッドリー・クーパー)など計6部門にノミネートされています。

原作は13週に渡りニューヨーク・タイムズ紙のベストセラー1位を獲得したクリス・カイルの著書。彼が米海軍特殊部隊ネイビー・シールズに入隊し、イラク戦争でどのような戦いを繰り広げたのか、そして彼の活躍を家族はどのように見守ったのかが鮮明に記されています。

今回ガジェット通信では、本作で製作総指揮を務め脚本も担当したジェイソン・ホールに電話インタビューを実施。原作の自伝を見事な映画的ストーリーに練り上げた立役者に、全米で大ヒット中の映画の魅力をたっぷりと語っていただきました!

<ストーリー>
舞台は9.11以降のイラク戦争。米海軍特殊部隊ネイビー・シールズに入隊を果たしたクリスが命じられた任務は「どんなに過酷な状況でも仲間を必ず守る」こと。その狙撃の精度で多くの仲間を救ったクリスの腕前は敵の知るところとなり、“悪魔”と恐れられるほどに。その首には18万ドルの賞金を掛けられ、反乱兵たちの標的となってしまう。

一方、クリスの無事を願い続ける家族。平穏な家族との生活と想像を絶する極限状況の戦地……過酷なイラク遠征は4回。愛する家族を国に残し、終わりのない戦争は幾度となく、彼を戦場に向かわせる。度重なる戦地への遠征は、クリスの心を序々に蝕んでいく……。

イラク戦争の英雄を映画で描く意味

――まずはアカデミー賞作品賞にノミネートされた感想を聞かせてください。

ジェイソン・ホール:とてもうれしいよ。より多くの人に見てもらうきっかけになると思う。いい作品だと認められたという事実にクリスの家族も報われるんじゃないかな。

――戦争に対して問題提起するような作品がノミネートされた意味合いは大きいと思いました。

ジェイソン・ホール:これはクリス・カイルだけではなく、戦地で戦ってきた軍人たち全員の物語でもあるんだ。戦地へ赴いた兵士たちは大切なものを犠牲にしている。非常に個人的な犠牲を強いるし、戦う青年たちから多くを奪い取るもの。その認識が深まれば、戦争へのブレーキになるかもしれないね。

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――すでに映画を観た人たちの反応をどのようにとらえていますか?

ジェイソン・ホール:一番うれしいのは、「鑑賞後に観客全員が静まり返った」という話を聞くときだ。それは観客(の心を)を動かすことができたということだからね。

――確かに、私が観た試写会場でも静まり返っていました。

ジェイソン・ホール:映画が観客を物語に没頭させ、何かを感じさせたということだ。これは観客がみんな一緒に観る劇場でしかなし得ないことなんだよ。今は自宅がシアター化しているけれど、自宅のDVDでは絶対に得られない体験。それこそが映画のマジックなんだ。

――映画化を希望したのは、本人が自伝を完成する前だと伺いました。なぜクリス・カイルという人物に焦点を当てた物語に興味があったのでしょうか?

ジェイソン・ホール:まるでイラクのアキレスのような存在のように思えたんだ。戦場で名の知れた男だったからね。大勢の仲間の命を救い、次第に多国籍軍の間で知られるようになった。

クリスの名前を知って少し調べ始めたら、なんと2100ヤードも離れた標的を撃ち落としたとあった。昔ネイビー・シールズのチーム6に所属して今はCIAで勤めている友人に事実を確認しようとしたら、友人は「残念ながらそいつは違うと思う。そんなことができる人は地球上に5人しかいない」と言われたよ。「まあ、とにかくファイルを調べてくれ」と頼んだら1週間後に電話をよこしてきて、「彼はその5人のうちのひとりだ」というんだ。それでさらに興味を持ったんだよ。

映画製作を支えたブラッドリー・クーパー

――本作に参加予定だったスティーヴン・スピルバーグが降板して製作が頓挫しましたが、その後またクリント・イーストウッド監督を迎えて製作が再開した経緯は?

ジェイソン・ホール:クリントを紹介してくれたのは、ブラッドリー・クーパーだ。スピルバーグが降板したと聞いて本当にがっかりしたよ。信頼関係を築きつつあって製作が楽しみだっただけに、2か月間は落ち込んでいたね。でもそこへブラッドリーが電話をよこしてきて「信じられない人がOKしてくれたよ、クリント・イーストウッドだ!」と言ったんだ。僕たちは当初からこの作品をある種の西部劇と捉えていたから、こんな完璧なマッチングはないと思ったね。

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――ブラッドリー・クーパーは今作でプロデューサーとしても大活躍したわけですね。

ジェイソン・ホール:危うく製作中止になりかけたところブラッドリーがクリスに電話をして、「必ず誠意を持って取り組む。あなたの指導を仰ぎたい。手荒くでもいいのでお願いしたい」と誠意と決意を伝えたそうだ。

――さらに、劇中では姿までもが激似だと話題になっていますね。

ジェイソン・ホール:残念ながらクリスは映画が完成する前に亡くなってしまったわけだけど、妻のタヤは「ブラッドリーはクリスをよみがえらせてくれた」と言っていたよ。前年に夫を亡くしたばかりの妻が言ってくれるのだからこの上ない褒め言葉だ。ブラッドリーは実際、タヤが撮影したという数百時間にも及ぶホームビデオを研究したらしい。

ブラッドリー・クーパー&クリス・カイル

原作よりも人間味のある主人公

――著書と比べると、クリスがより感情移入しやすいキャラクターになっていたように思えました。

ジェイソン・ホール:原作はクリスが戦地から戻ってきて間もない頃に書かれたものだから、戦争から全然抜け切れていなかったんだと思う。まるでクリスが戦地からそのまま喋りかけてくれている感じだ。多くの苦悩を抱えているのが本から読み取れる。

原作はそんな男の口述を書き起こしたものであって、出版社もそれに忠実でいようと判断した。出版社が言うには、自伝というよりはあくまでも回顧録であって、戦争から未だ抜け切れていない男が戦地での体験やそれに至る自身の経験を語ったものに過ぎない。ようやく自分を取り戻し始めたのが本を出したあとで、そのあたりを映画に盛り込んでいるんだ。

――クリス・カイル本人が完成した映画を観たら何と言ったと思いますか?

ジェイソン・ホール:クリスは周囲を大事にする人だったから、周りのみんなのストーリーも自分のストーリーと同等に大切だと感じていた。賞賛されてもすぐに「誰々のおかげ」だと言い、自分の手柄にすることはなかった。自分のストーリーが戦地へ赴く他の兵士たちと、彼らの家族が背負う犠牲をも描いているということに誇りを持ったに違いないと思う。

またクリスを殺し屋として描くことに終始せず、多角的に捉えているところを気に入ってくれたはずだ。原作からはクリスの一面しか読み取れないし、さまざまな疑問が浮かび上がってくる。その疑問を少しでも映画で解決できなら良いと思うよ。

――最後に、公開を控える日本の観客にこの映画を通じて何を感じて欲しいですか?

ジェイソン・ホール:クリスを代弁して僕が語るようなことでもないのだろうけれど、彼は米軍史上もっとも危険なスナイパーとして知られているが、何人殺したかよりも救った数々の命を意識して欲しいと望んだ男だ。それは何度も言っていた。彼はギリシア神話の英雄たちに引けを取らないほど勇敢な男だと思う。アキレスのように戦地で戦いつつ、人間性を失うまいともがいた。そんな姿を見てほしいね。

――本日はありがとうございました!

劇場ポスター

『アメリカン・スナイパー』公式サイト:
http://www.americansniper.jp

(C) 2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
Photo courtesy of 5.11

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よしだたつき

よしだたつき

PR会社出身のゆとり第一世代。 目標は「象を一撃で倒す文章の書き方」を習得することです。

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