不登校ゼロを実現した「インクルーシブ教育」
「全体から個を決める」教育は教師と子どもに深い溝をつくる
「不登校ゼロ」を実現した大阪の公立小学校を取り上げたドキュメンタリー映画が制作され、その教育法に注目が集まっています。通常、学校では、教師が「こういう子どもに育てたい」と目標を立て、それを達成するためにさまざまな課題を与えたり、声かけをしたり、環境整備をしたりします。こうして全体で子どもの理想像を決め、それを実現する方法は「全体から個を決める」教育といえます。
教師はもちろん、子どもの個性を尊重して指導しなければならないことは、重々わかっているはずです。しかし、目標を立ててそれを実現するという教育活動を行う限り、一人ひとり異なる個性を伸ばすことはできません。「全体から個を決める」教育法では、教師の理想の子ども像に違和感を持つ子どもと、教師との間に深い溝をつくってしまいます。
個から全体を決める「インクルーシブ教育」
例えば、教師が「元気にあいさつできる子どもを育てよう」と考え、子どもたちに指導したとします。もちろん、その指導は何ら問題ありませんが、もともと内気な子どもは抵抗感を抱きます。「あいさつは大切だけれど、元気にあいさつする必要はあるのか。自分は普通にあいさつしたい」。そんな思いを持つかもしれません。教師の思いと、子どもの思いにギャップが生じているのです。さらに、「元気にあいさつしなければ、先生から怒られる」という状態になれば、それが不登校のきっかけになり得ます。
そこで必要となってくるのが、「全体から個を決める」やり方ではなく、「個から全体を決める」方法です。「個から全体を決める」場合、全体になじめない子どもでも学校に自分の居場所を見つけることができます。この考えは、「インクルーシブ教育」と呼ばれています。
すべての子どもの思いを包み込む教育が求められている
インクルーシブとは、「包括する」という意味です。学校の思いや事情に合わせて教育するのではなく、個々の子どもの思いや事情に合わせて教育するという考えです。主に障がい児教育における考え方ですが、今まで学校の思いや都合で障がい児が別の学校、別のクラスに入れられていたのを、個々の子どもの思いや都合に合わせて学校のやり方を変えることによって、すべての子どもが同じクラスで学ぶことを目標にしています。
最近になって、この考え方が障がい児教育だけでなく、不登校をなくすための教育として注目されています。今回、映画化にまで至った学校でも、このインクルーシブ教育を掲げ、個から全体を考えるアプローチを実践しています。もともとは発達障害などを持つ子どものために導入したようですが、これが「不登校ゼロ」という結果につながりました。「個から全体へ」。学校の思いで子どもを育てるのではなく、すべての子どもの思いを包み込む教育が、現在の学校に求められているのではないでしょうか。
(船越 克真/教育カウンセラー)
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