「マクロ経済スライド」が将来の年金に与える影響
4月に初めて発動「マクロ経済スライド」で年金額は実質目減り
平成27年度の公的年金の支給額から、初めて年金抑制策である「マクロ経済スライド」が適用されることが発表されました。年金額は、賃金や物価の変動に応じて毎年見直されることになっており、本来であれば賃金の伸び率が2.3%のため、年金額も2.3%増となるところですが、過去の物価下落時に引き下げをしていなかった分の解消に0.5%、公的年金全体の被保険者の減少率と平均余命の延びであるスライド調整率の0.9%を差し引いた0.9%増に抑えられることになりました。
結果として、国民年金の満額受給者で月6万5,008円、厚生年金では平均的な収入の夫と妻の標準世帯では月22万1,507円となり、前年度よりは増えているものの実質は目減りしています。
将来の保険料負担の上昇を懸念し年金額を抑制。若い世代ほど影響
では、「マクロ経済スライド」とは、どのような制度なのでしょうか?
将来の保険料負担が上がり続ける懸念があったため、平成16年度の年金制度改正で導入されました。保険料の水準の上限が設定され、現役世代の被保険者の減少率と平均余命の延びに応じて年金額を抑制するというものです。今後、年金額の伸びが抑えられることで、若い世代ほど影響を受けることになります。
どれだけの影響を受けるのか判断するために「所得代替率」というものがあります。その時代によって物価や賃金は変わるため、将来の年金額を明示しても実際の価値はわかりにくいので、受け取る年金額が現役世代の受け取り収入額と比較して、どのくらいの割合であるのか示すものです。
厚生労働省の試算では、今年度65歳の人の所得代替率は62.7%ですが、90歳時点では41.8%に低下します。一方、今年度35歳の人の所得代替率は50.6%で、90歳時点は40.4%にまで下がります。
どの世代にも痛みを伴い、年金制度を維持していくためには必要
このように若者世代ほど影響を受けることは間違いありません。しかし、先の試算にもある通り、40%は維持しています。マクロ経済スライドという抑制策のために年金額が限りなく下がらないようになっているのです。
「マクロ経済スライド」は、どの世代にも痛みを伴い、将来にわたって年金制度を維持していくためには必要です。若い世代ほど将来的に年金がもらえるのかという不安は大きいものがあります。複雑な制度ですが、安心してもらえるような説明が、今後ますます求められるのではないでしょうか。
(松本 明親/社会保険労務士)
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