マクドナルドの凋落、過度の合理主義が生んだ悲劇

マクドナルドの凋落、過度の合理主義が生んだ悲劇

マクドナルドは「お客さま」までをも合理化してしまった

マクドナルドは、合理化に熱心な会社として知られています。ただし、度が過ぎれば「自動車のハンドルの遊び」のような「必要なムダ」さえも無くしてしまうことがあります。

社内をすべて合理化したら、最後に残るのは「お客さま」です。マクドナルドは「お客さま」までをも合理化してしまったのです。

マクドナルド「成功の法則」は、次世代へ続く「渦巻循環」

マクドナルドは、「渦巻循環」の法則で大きくなりました。簡単に解説しましょう。まずは、子ども向けにオモチャ付のハッピーセットを販売することで、親と子どもが一緒にハンバーガーを食べる機会を創りました。郊外店では遊具も用意されていますので、子育てに疲れた親が、ほっとひと息つける場所でもあるようです。

子どもが学校に行くようになれば、友だちと連れ立って「だべる」ようになります。そのうち、恋人とのデートの途中でひと休みし、結婚して子どもが生まれたら、今度は親として我が子と一緒に親子でマクドナルドに行きます。このようにして子どもの頃から慣れ親しんだハンバーガーを、親になっても食べてもらうという「渦巻循環」を創り出したのです。

収益性の高いビジネス客を呼び込むため、既存客を「リストラ」

今思えば、転機は2008年でした。マクドナルドは本格的なプレミアムローストコーヒーを提供します。本格ドリップにもかかわらず、大手フランチャイズのコーヒーより安い。これにビジネス客が飛びつきました。外回りをしているビジネス客は、時間調整の居場所に困っていたからです。ビジネス客は1日に数回来店することもあり、コーヒーと一緒にハンバーガーやサイドメニューも購入する。マクドナルドは「ビジネス客は儲かる」ことに気がつきます。

そうなると、今までメインであった「お客さま」は見劣りするように思えます。ベビーカーのママ友や小さな子どもたちで店内はわいわいうるさく、ポテトだけで何時間も居座る学生も収益化に貢献してくれません。さらに、これらのことは、静かに仕事をしたいビジネス客には敬遠される要因です。

そこで、マクドナルドは店内を改装します。テーブル席を減らし、個別席を増やしモバイル用に電源やWi-Fiも完備しました。大人の味のクォーターパウンダーなど高価格品を展開し、コーヒーのおかわりもできるようにして、ビジネス客には居心地の良い環境を整えたのです。収益をもたらしてくれるビジネス客を呼び込むために、結果として「親子連れや学生」を「リストラ」したことになります。

初心に戻り「渦巻循環」の法則に乗れるか

ところが、マクドナルドの大きな誤算は、コーヒー1杯で1日中、居座る人の存在でした。「できれば短時間で帰ってほしい」。せっかく設置した電源をなくして、長時間座れない椅子に取り替えます。当然、コーヒーのおかわりなども取り止めました。こうして、今度は「滞在客」を「リストラ」しました。ところが、以前の「お客さま」は戻ってきません。決定打は「食の安全を脅かすトラブル」です。

安全に気を使う子ども連れは、もういません。学生もいません。ビジネス客もいません。これが、マクドナルドが直面している苦境の実態です。

こうした「負の渦巻循環」に気がついたのか、マクドナルドは再び店内改装をして「親子連れや学生」を呼び戻そうとしています。折しも「妖怪ウォッチ」の大ヒットで、ハッピーセット目当ての子連れ客が大挙して来店しています。初心に戻り「渦巻循環」の法則に乗れるのか、今後のマクドナルドに注目です。

(木村 尚義/経営コンサルタント)

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