号泣県議が明らかにした3つの非常識

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【山本洋一・株式会社政策工房 客員研究員】 
 

 2014年の政治ニュースで最も国民の注目を集めたのは集団的自衛権でも衆院選でもなく、「号泣記者会見」だったのではないか。その主役である野々村竜太郎元兵庫県議は19日、詐欺などの疑いで書類送検された。この問題は政治家の質とともに、政治資金に関する3つの非常識を明らかにした。

 
 兵庫県警は220万円余りをだまし取ったとして、詐欺と虚偽有印公文書作成・同行使の疑いで野々村氏を書類送検した。警察の聴取に対し、野々村氏は虚偽の出張報告や、金券ショップでギフトカードを購入しておきながら切手代として報告するなどの手口で、政活費をだまし取ったことを認めた。

 
 野々村氏は3年間で受け取った政務活動費1684万円のほとんどが不正支出だったとしているが、警察は確認のとれた220万円分に限って立件した。野々村氏は警察の調べに対し、「選挙費用がかさんで、一度受け取った金を返したくなかった」などと供述したという。

 
 この問題で明らかになった一つ目の非常識は、経費の先渡しである。兵庫県議会は議員の政治活動に充てる経費として、毎月50万円の政務活動費を支給。先に全額を渡し、使い道を報告させたうえで、余った分は返還させる仕組みとしている。

 
 野々村氏に限らず、一度受け取った金は使いきりたいと思うのが人間の性。全国市民オンブズマン連絡会議の2013年度の調査によると、全国の都道府県議会のうち、31議会で給付額の9割以上を使い、返還額は1割未満だったという。使い切り主義は全国に蔓延している。

 
 一般の企業ならば使った分だけ後から申請し、認められれば後日振り込まれる、というのが常識。議会でも一般常識に合わせ、使った分だけ後から支給するという仕組みに改めるべきである。

 
 
 二つ目の非常識は、チェック機能の欠如である。一般の企業であれば経費を申請すると、経理担当者の厳しいチェックが入る。業務と関係ないモノを購入したり、必要以上に高級な店での会合費を申請したりすれば、認められないこともあるだろう。経理をすり抜けたとしても、会計士や税理士のチェックが控えている。

 
 ところが兵庫県議会では年間100回以上の日帰り出張と言う明らかに不自然な報告を問題視することはなかった。号泣県議の問題が発覚して以降、全国の議会でも相次ぎ不正支出が明らかになった。事務局が使途の中身までチェックしておらず、外部のチェックもなかったからである。

 
 本来ならば具体的な運用ルールを定めたうえで、ルールに沿った内容かどうか議会事務局が厳しくチェックすべきだ。さらに会計士や税理士など外部の専門家によってダブルチェックの体制を整えるべきだろう。政務活動費の元は税金であり、一般の企業よりも厳しい仕組みで当然である。

 

 三つ目の非常識は政務活動費の使途の公開方法だ。野々村氏は2011年の当選直後からカラ出張を繰り返していたが、問題が明らかになったのは昨年6月。それまでは不自然な出張を報告しておきながら、議会事務局どころか、外部からも問題視されることはなかった。

 
 政務活動費が何に使われているか調べようと思ったら、兵庫県の場合は兵庫県庁に出向き、議会事務局で閲覧カードに必要な事項を記入した後、「指定された場所」で閲覧しなければならない。多くの議会が同様の仕組みを採用しているが、一般の市民にとっては非常にハードルが高い。これではマスコミが報道しない限り、問題が露見することはないだろう。

 
 本気で公開する気があれば、インターネットにすべて掲載すればいい。その方が議会事務局も手間が省ける。国会議員の政治資金使途報告書についてはすでに総務省や多くの都道府県がネット公開を始めており、できない理由もない。消極的な公開方法の裏には「なるべく見られたくない」という議員の本音が見え隠れする。

 
 とはいえ、いくら制度を整えても、結局は議員の意識が変わらなければ政治とカネの問題は尽きない。今年4月には全国で首長や地方議員を選ぶ統一地方選挙が行われる。有権者は政策だけでなく、その候補者の倫理観も見極めなければならない。

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