【年末年始はお家で映画】高倉健・宇津井健の名演に刮目せよ! 今こそ観たい『新幹線大爆破』
2014年11月10日。戦後を代表する名優・高倉健が83歳で亡くなりました。1956年に『電光空手打ち』デビューして以来、『日本侠客伝シリーズ』『網走番外地シリーズ』の主演スターとして一世を風靡し、『南極物語』『あ・うん』『鉄道員(ぽっぽや)』でも円熟した男の姿をスクリーンで示し続けました。その死によって文字通り一つの時代が終わったのは間違いないでしょう。
200本以上にも及ぶ出演作品の中でも筆者が是非とも観て欲しいのが、1975年に公開された『新幹線大爆破』。当時の東映が総力を上げて制作し、オールキャストが結集。2014年3月14日に亡くなった宇津井健も倉持運転指令室長という主役級の役どころで出演しているので、未見の人はもちろん、お二人を偲ぶという意味でもこの機会に観賞したいところなのではないでしょうか。
新幹線大爆破(予告編) – YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=RYpA7ado8iA [リンク]
簡単にストーリーを説明すると……。
ある朝国鉄に、東京駅を出発した「ひかり109号」に爆弾を仕掛けたと、脅迫電話が。高倉が扮する沖田哲男ら三人の犯行クループは新幹線に爆弾を仕掛け、誰も殺さず殺されずに巨額の身代金を得ようと完全犯罪を計画……。時速80km以下にスピードを落とすと爆発するということを知らされ、CTC(運転司令室)は混乱。犯行グループと警察当局、新幹線の司令室と国鉄上層部の思惑が激しく絡み合い、車内で乗客がパニックになる様子まで活写しつつ、クライマックスまでノンストップで突き進んでいきます。
見どころは尽きない『新幹線大爆破』ですが、主人公の沖田がなぜこのような凶行に及んだのか、随所で明らかになります。町の小さな工場の経営に失敗し、家族とも別れることになった沖田が、境遇の近い同志と出会い、高度成長時代からこぼれ落ちた者として半ば”思想犯”として振る舞う中、時折見せる冷めた表情、さらには悲しみ……。感情を表に出すことがほとんどない中でも、その哀愁が痛いほど伝わってきます。このような時代の”負け組”の姿は、現在”アベノミクス”にイマイチ乗りきれていないという人が見ると共感できる部分が多いのではないでしょうか。
同じように、宇津井が演じる倉持運転指令室長も、あらゆる手段で穏便に危機を回避しようと図るのですが、国鉄上層部や警察との板挟みにあい苦悩。しかも最後にはだまし討ちのような仕打ちを受けてしまいます。彼もまた職務に準じる姿や、中間管理職的な悲哀を見事に表現しています。
サスペンスとして、特に筆者がお気に入りなのは、首都高速道路を巡る現金の受け渡しのシーン。沖田と警察との緊迫感ある攻防は息をつく暇もありません。
国鉄の協力が得られなかったため、ミニチュアでの新幹線や車内のセットでの撮影を余儀なくされるなど、制作には困難を極めたという逸話もあるこの作品。日本では興行的に成功したとはいえませんが、特にフランスで44万人の動員となるなど、海外では日本発のパニックムービーとして評価を得ることになりました。1970年代の暗い世相を反映しつつ、骨太な人間模様が繰り広げられている怪作として、日本映画史に残る作品なのは間違いないのではないでしょうか。
現在、セル版が『東映 ザ・定番』シリーズとして発売。レンタル各社とも入荷しているので、ショップで探しにくいという時は、各社のネット宅配サービスを利用することもおススメです。
乙女男子。2004年よりブログ『Parsleyの「添え物は添え物らしく」』を運営し、社会・カルチャー・ネット情報など幅広いテーマを縦横無尽に執筆する傍ら、ライターとしても様々なメディアで活動中。好物はホットケーキと女性ファッション誌。
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