JASRACがあまりにも藁人形にされ過ぎているように見えたので、ちゃんとした議論の為にちょっと緩和を試みてみる(不倒城)

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JASRACがあまりにも藁人形にされ過ぎているように見えたので、ちゃんとした議論の為にちょっと緩和を試みてみる(不倒城)

今回はしんざきさんのブログ『不倒城』からご寄稿いただきました。

JASRACがあまりにも藁人形にされ過ぎているように見えたので、ちゃんとした議論の為にちょっと緩和を試みてみる(不倒城)

このニュースを見ました。

「音楽の無断使用禁止求める 祇園のディスコにJASRACが仮処分申し立て」 2014年12月09日 『Yahoo!ニュース』
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20141209-00000546-san-soci

概略しか情報がないので判断が難しい部分もありますが、

同協会によると、同店は19年7月の営業開始から、利用契約を結ばないまま、店内でレコードやCDなどを流して著作権を侵害したとしている。経営者に面談や文書で20回以上、契約をするよう求めてきたが、応じなかったという。

という記載を見る限りでは、スラップ訴訟のようには思えません。これだけ交渉して応じられないのであれば、法的手段以外にどんな手があるんだよ、という程度のレベルではあると思います。また、実施しているのも仮処分申し立てであって、いきなり損害賠償を求めるような内容ではないようです。むしろ、よくここまで放置していたな、という印象を受けます。

ところが、当該記事のコメントを見ていると、疾風怒濤のJASRAC非難・経営者擁護の嵐、罵倒や怒声の満漢全席という風情です。いくつかピックアップしてみます。

JASRACなんて暴力団と同じ。
まったくアーティストのためになんかなっていない。

結果的に音楽業界を萎縮させているような気がする。ジャズ喫茶やディスコで聴いた曲を店で探していたこともあったりとか。動画サイトはどうすんのよ。ところで悪名高いJASRACてどういう団体だよ。みかじめ料ぼったくりとどう違うのかな?

共存共栄のはずの業界をってJASRACって頭悪いんじゃないか??
大体、大口契約以外はミュージシャンの取り分よりめちゃくちゃ多い
ピンはねやっている業者なんて要らないと思うんだけど。
必要としているのは、各テレビ局達でしょうが!

使用した曲の権利料がちゃんと権利者のところに行ってるんじゃなくって、一部の演歌の大御所のところに行ってるんでしょ。

JASRACは音楽を衰退させたいの?

まず、ここでお金を取らせてもアーティストにはいきません。
何故なら、洋楽、邦楽、どの曲を使った、何分使った、丸々使った等が
一切分かりません。
包括的に徴収するだけ。確たる算定方法がないです。

本当ならDJ自体に著作権、楽曲料を取るべき。

買ったレコードをかけてんだから良いじゃんね。
最近の著作権がどーのこーのってホントめんどくさいね。
一つの作品で儲けを狙い過ぎじゃねーの?

「公平な管理のため」だよ、実際はそこで流れた音楽の著作権者に著作権料がちゃんと渡るかどうかも不透明なくせに。

以前も「Webでなんか敵視されやすい団体三兄弟」としてJASRAC、NHK、電通の三社を挙げたことがありますが、Web上におけるJASRACに対する敵対意識の濃度は並々ならないものがあります。当該コメント欄は、その端的な表出であるように思います。

勿論、JASRACくらいでかい団体、音楽業界くらいでかい業界に、問題点、改善点が無いなんてことは有りえないわけで、JASRACの体制、著作権料の扱いについても、問題がない訳ではないでしょう。少なくとも、議論するべき点は様々にあるのだろうと思います。

ただ、上記のようなコメントについてはそれ以前の問題で、幾らなんでもJASRAC非難に視点が寄り過ぎのように思えましたので、若干のJASRAC擁護を試みたいと思います。視点をある程度中立に戻さないと議論なんてとても出来たもんじゃありません。

上記のような引用コメントから、典型的な文脈を二つくらい抽出して、それについて記載してみようと思います。書く内容は分かっている人には当たり前のことなんですが、案外当たり前が共有されてない場合があるので。

・JASRACは音楽業界に何も貢献していない、却って萎縮させている、JASRACは潰すべき、という文脈について

まず当然の前提として、「楽曲は作った人(作曲者、編曲者、作詞者等含む)・販売している人に権利がある」「権利者に無断で楽曲を利用するのは良くないこと」ということは確認しておくべきでしょう。「作った人」は報われないといけません。「作った人」が報われないと、「作る人」「作ろうとする人」がいなくなります。

で、上記を前提として、JASRACがいないと何が困るかというと、簡単に言って楽曲を使う側が困ります。

楽曲を使う側は、著作権の問題から、「楽曲使っていい?」ときちんと許可をとらないといけません。その許認可を包括的に行っているのがJASRACでして、JASRACがないと、楽曲を使いたい人は権利者をどうにかして探し出して、直接「使っていい?」と交渉しなくてはいけません。権利者の側にも、使う側にも、ちょっと背負えるコストでないことは自明でしょう。

私は演奏者でして、他人が作られた楽曲を演奏させて頂くこともままあります。で、JASRACが管理していない楽曲を使うの、これが結構大変です。著作権者が企業である場合、企業の窓口を探し出して、演奏の目的を説明して、許可をとらないといけませんし、企業によっては窓口がない場合もありますし、社内でガイドラインを定めていない場合、あっさり「ダメー」と言われる場合だってあります。外部に明確な形で「楽曲利用のガイドライン」みたいなものを提示している企業は、大変少数派です。

著作権者が個人であれば、個人の連絡先を調べて、メールして、返事が来るまで暫く待ってー、ということをしないといけないでしょうし、連絡がとれる保証もないでしょう。幸い今まで、個人が著作権を持っている楽曲を演奏する機会はありませんでしたけれど。

これがJASRAC管理の楽曲の場合、決められたフォームに則って書類を提出して、出てきた利用料を振り込むだけで、大手を振って楽曲を使えるようになります。利用料については、事前にシミュレーション*1することも出来ます。えらい便利。

*1:「使用料計算シミュレーション(演奏会など)」 『JASRAC』
http://www.jasrac.or.jp/info/create/calculation/concert/event.php?type=1

これに対して、仮にJASRACのような団体がなくなったとしたら、事実上「合法的に楽曲を再利用(演奏とか放送とか)する方法がなくなる」んですね。「JASRACなんてない方がいい」という人は、これについてはちゃんと把握されているのか、ちょっと懸念するところです。勿論、「そういう団体が必ずしもJASRACである必要はない」という議論はあるんですけどね。

早い話、「使う側」にとってはJASRACの存在は非常に便利なのであって、「JASRACがあるから音楽シーンが衰退する」というのはちょっと違うんじゃないの、などと思うわけなんです。

で、次の問題。「作る側」にとってはどうなの、という話ですよね。

・著作権者側にお金が渡っていない、ピンハネし過ぎ、分配方法や分配割合が不透明、といった文脈について

これ、分配方法や分配割合が不透明、とかよく言われるんですけれど、Webで見る限り一から十まで全部公開されてるんですよね。どこがどう「不透明」なのか理解に苦しむレベルです。

「著作権使用料分配規程(PDFデータ)」 『JASRAC』
http://www.jasrac.or.jp/profile/covenant/pdf/2.pdf

「管理手数料届出・実施料率表(PDFデータ)」 『JASRAC』
http://www.jasrac.or.jp/contract/01.pdf

「使用料が作詞者、作曲者、音楽出版者に届くまで」 『JASRAC』
http://www.jasrac.or.jp/bunpai/charge/inland.html

「現在の許諾・請求・分配のしくみ(包括契約を締結する場合)」 『JASRAC』
http://www.jasrac.or.jp/bunpai/present.html

「よくある質問」 『JASRAC』
http://www.jasrac.or.jp/contract/member/faq.html

一番上の分配規定が一番詳しく、料率、分配時期から分配方法まで、全部公開されています。JASRACの取り分となる管理手数料については、二番目のpdfに記載されています。使う方法によって、管理手数料の料率は異なるようです。勿論、管理手数料の料率が高い・妥当、といった議論はあってしかるべきですが、少なくとも「分配過程や分配率が不透明」とか「著作者に渡ってない」といった批判は見当違いでしょう。

具体的に利用料が分配されるまでのフローは「使用料が作詞者、作曲者、音楽出版者に届くまで」に記載されていますが、間に音楽出版社が挟まる場合、最終的に作詞者・作曲者に幾ら分配されるかは音楽出版社が決めること(ゴールデンルール*3は存在しますが)なので、ここでもJASRACが非難されるのはちょっと違います。

*2:「分配に関するゴールデン・ルール」 『JASRAC』
http://www.jasrac.or.jp/bunpai/charge/column.html

昔あった「オーケン事件(自分が作った歌詞の使用料を求められた、という話)」みたいなものについても、現在はデマだった*3という情報が出ておりますし、どうも「正確な情報に基づかない批判」というものが、特にJASRAC関連では多そうな印象です。

*3:「大槻ケンヂがJASRAC「オーケン事件」の真相を語る」 2008年11月20日 『音楽ナタリー』
http://natalie.mu/music/news/11135

JASRACの収支が不透明、みたいな話もありましたが、こちらも同じく、一般的な収支についてはWebで全部公開されてます。

「情報公開(業務及び財務等に関する資料の公開について)」 『JASRAC』
http://www.jasrac.or.jp/profile/disclose/index.html

一般会計については上記のような情報があれば普通十分ですよね。まあ、一つ一つの細かい使用料追跡は出来ませんが、そんなもん律儀に載せてたらちょっと読める内容にはならないでしょう。

この辺、JASRACを批判するのであれば、少なくともある程度正確な情報は抑えておかないと見当はずれな論点になってしまうんじゃないかと私は思うのです。冒頭挙げたコメントなんかその典型例なんじゃないかと。

念の為断っておきますが、JASRACに関する問題、批判するべきところがないなんて思いませんよ。例えば、Webメディアについての課金に関する議論とか、独占禁止法違反の議論とか、JASRACに関して議論しないといけないところなんて山ほどあるに決まってます。

ただ、私が言いたいことは

JASRACを批判するなら批判するで、坊主憎けりゃみたいな短絡的な批判じゃなくて、抑える情報はちゃんと抑えた上で適切なポイントで批判しようよ

というたった一つだけであり、他に言いたいことは特にない、ということを最後に申し添えておきます。

今日書きたいことはそれくらいです。

執筆:この記事はしんざきさんのブログ『不倒城』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2014年12月17日時点のものです。

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