映画『水の声を聞く』山本政志監督インタビュー 大ヒット作『恋の渦』を生み出した実践映画塾「シネマ☆インパクト」の裏側に迫る

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2012年から13年の2年間、13人の監督がそれぞれ2週間、低予算で受講生と作品を作るというワークショップ「シネマ☆インパクト」を主宰した山本政志監督。そこで生まれた作品『恋の渦』で得た収益を全て投入して完成させた『水の声は聞く』は新宿コリアンタウンを舞台にして、ニセの新興宗教『真教・神の水』の教祖となった主人公ミンジョンを巡る物語だ。現在全国順次公開中で13日より東京再上映が行なわれる『水の声を聞く』監督の山本政志に聞いた。

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――シネマ☆インパクトはどういう経緯で始めたんでしょう?

不純な動機で、あるパーティに来ていたスチールカメラマンがワークショップを明日からやると言ってたので、俺もやろうかな、というところから始まった。いろいろ調べたら、他でやってるワークショップの講師陣にあまり興味が持てなかった。俺がやるならもっとレベルの高いものを、なおかつ生徒中心じゃなくて監督中心でやりたい。監督がみんなで競争できるような。前作の『スリー☆ポイント』の京都篇というのは、何の準備もせずに即興を試して10日間で1本撮ったんだけど、やってみるとすごく面白かった。それを皆でやってみたら面白いだろうと。もう少し時間を与えて2週間にして、その中で演技トレーニングも含めて最終的に1本作品を作り上げていくということをやろうと。

――シネマ☆インパクトは「監督同士がしのぎを削りあう、映画の格闘場」という文言が付いていますが、監督同士はどんな感じでしたか?

ワークショップってというより、映画を作りたいって思ってた。さっきも言ったように生徒中心でなくて監督中心にしようとしたかったから、受講生のことはあんまり考えてなかったんだよね。監督たちにエンジョイして欲しかった。受講生は30人位いるんだけど、予算内に収まれば短編・中編・長編なんでもいいと。受講生を全員使う必要はないという事も。厳しく何人か絞ってもいいし、逆に受講生全員使ってもいい。1期目はほとんど全員出たけど、2期目はわりと絞って出演させたりと、流れとしては面白かった。

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――今をときめく第一線の監督を招聘(しょうへい)していますが、特に印象に残った作品があるとすれば。

作品としては大根(仁)が一番面白かったよね。社会に対して作品の提出の仕方とか、渦の巻き混み方だとかも含めて。限られた情況の中で2時間の長編にして、作品的にも内容的にもしっかりしたものを作り上げていたと思う。短編なら語り口として(ヤン)イクチュンのものが面白かった。いい作品はいっぱいある。

――『恋の渦』はワークショップの映画としては異例のヒットとなりました。

大根の何処ががエラかったというと、「ワークショップじゃない。俺はモノを作るんだ」っていう意思を露骨に正しく成立させたところだよ。30人か40人いる中、初日に8名くらいに絞って、2日目以降はそいつらしかリハーサルやらなかった。1日3時間のワークショップだったんだけど、最終的には1日10時間くらいやってたんじゃないかな、えんえんと。そのかわり他のヤツと口も聞かなかった(笑)。俺のところにはクレームばんばんくるし(笑)でも最初に参加者に“そういうこともありえる”ってメールで言ってあった。クレーム付けた人も自分が選ばれたら文句言わないでしょ、そういうモンなんだよ。ワークショップという枠を離れて、映画作りに向かった大根は正しかったと思うよ。

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――映画ありき、監督ありき。

映画でしかないからね。ワークショップをどう捉えるで、「金払ってるんだからちゃんと教えろよ」って言うんなら、違うワークショップを受講するのもそれも選択だし。シネマ☆インパクトが提供できるのは、監督が真剣に映画を撮る場があって、出会いがあって、そういった場所に参加できるっていう、この方が相当大きいと思うけどね.手取り足取り芝居はこうです、とかその場しのぎの体裁を整えるより。より以上のものを発展させた大根は偉かったよね。最初に戻るけど。

――『水の声を聞く』でも無名の俳優が印象的な芝居をしていましたが、村上淳さんや趣里さんを起用した理由は。

俺のクラスは、他の監督のワークショップで出演できなかった人を受け持つってことになってた。「ハンディもらっても俺は勝つ」と言う勝負をしたかったし、俺、格闘技好きだから(笑)。ワークショップの1期、2期で短編を撮ってて、短編に飽きて来たのと、「恋の渦」に刺激されたのもあって、3期は長編が撮りたかった。そこで、『水の声を聞く~プロローグー』として、予算もシネマ☆インパクトのルールにのっとって、『水の声を聞く』の前半25分を製作した。その後長編にする予定でね。『水の声を聞く~プロローグー』には趣里も村上もいなくて。長編を製作するにあたって、趣里の役も最初違う俳優だったけど全部撮り直して。サブキャラで村上のような役も欲しかったから、彼は必要だったよね。

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――玄里(ヒョンリ)さんを主演に選ばれた理由を教えて下さい。

まず、主役ってのはある程度オーラがあったりしないと厳しい。主役のミンジョンを演じた玄里も、もともと大根のクラスに来ていたんだけれど、「恋の渦」に求められていたのが軽いキャラクターだったからキャスティングに合わなかった。そこで俺のクラスにやってきた。玄里だと韓国語話せるというのがあって、自分にとっては今までやってきた国籍関係なく撮るという延長線上にいて、合致するキャラクターにあった。それにうちの事務所がコリアンタウンに近いし、前から撮りたいと思ってたから。今だいぶ整理されてきたけど混沌としたエネルギーのある匂いのする街だし。それと玄里が自動的に頭の中で結びついて来たよね。なるべくして主役だったよね。

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――最初から多言語な作品を目指しているわけではなく、自然の流れだった。

それは玄里が韓国語を話せるから。あくまでもその能力があるから取り込んだまでで、話せないのを無理してはやらない。日本人だから、外国人だから、とかで撮るのではないし人間を撮るのが面白いだけだから。作り込んでいくのは面白くない。俺の作品はいつもリアリティと嘘の狭間を映画にしていく、今回は内容的にもそうだけど、作る時もそうで、芝居の付け方もそう。例えば前の作品でもキャストが台本通りにやっているんだけど、「アドリブでやってるの?」と聞かれると「勝った」と思う。そういう生の雰囲気を出しながら作ってるから。嘘との狭間みたいなのが狙いどころだよね。その為には玄里がそういう素材であったから活かしつつ戦力になるから、使わせてもらうよね。嘘とリアルの狭間。うちのおふくろが出てるけど、盲人の役で。実際盲人だけど、宗教団体に相談にくるっていう嘘の事やってるわけで。リアルとぶつかるとおもしろいし映画の力になってくる。ヤクザ役の小田(敬)にしても。役者がやるヤクザよりヤバい感じが出てると思う。今までの人生とかが熟成されて味になってる。

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――もうワークショップはやらないのですか?

やめた。こういうのに縛られてもなぁーって思って、実際今年はやってない。でも金がなくなったら、すいません、気が変わりましたって、またやるかも(笑)

――観る側は楽しみにしていますけどね。

ワークショップより、監督として映画を作る事にどん欲にやりたいという気持ちがある。

――インデイペンデントでずっと作品を撮っていますが、これからもインディでしょうか?

インディじゃないこともやりたいね。じゃないことも。今持ってる企画っていうのはお金がかかるからインディの枠じゃ集められない。『熊楠・KUMAGUSU』にしても数億っていうお金が必要だからあまりインディに執着する必要はない。どこと組もうが力量を見せられると思っている。どこでも大丈夫っていう自信はある。

『水の声を聞く』は12月13日より新宿K’sCINEMA にてレイトショー再上映。全国順次上映中。

映画『水の声を聞く』
東京・新宿コリアンタウン。在日韓国人のミンジョンは美奈の誘いにのり、軽くひと稼ぎし、頃合いを見てやめるつもりで巫女を始めた。しかし、救済を乞う信者が増え、宗教団体『真教・神の水』が設立され、後戻りができない状況になってくる。借金取りに追われる父親、それを追う狂気の追跡者、教団を操ろうとする広告代理店の男、教団に夢を託す女、救済を乞う信者達、ミンジョンは聖と俗の狭間で苦悩し、偽物だった宗教に心が入ってくる。やがて、ミンジョンは大いなる祈りを捧げ始める。不安定な現代に、“祈り”を捧げる。“祈り”によって、世界を救済する。いったい何が「本物」で、何が「偽物」なのか? 大いなる祈りは、世界に届くのか?

監督・脚本:山本政志
出演:玄里、趣里、中村夏子、鎌滝秋浩、小田敬、萩原利久、松崎颯、村上淳
プロデューサー:村岡伸一郎
ラインプロデューサー:吉川正文
撮影:高木風太
照明:秋山恵二郎
美術:須坂文昭
録音:上條慎太郎
編集:山下健治
音楽:Dr.Tommy
2014年/日本/129分

公式サイト:http://www.mizunokoe.asia/[リンク]
公式Facebook:https://www.facebook.com/mizunokoewokiku[リンク]
公式Twitter:https://twitter.com/thevoiceofwater[リンク]

山本政志 プロフィール
『闇のカーニバル』(1983年)が、ベルリン・カンヌ映画祭で連続上映され、ジム・ジャームッシュらニューヨークのインディペンデント監督から絶大な支持を集める。『ロビンソンの庭』(1987年)[ベルリン映画祭Zitty賞/ロカルノ映画祭審査員特別賞/日本映画監督協会新人賞]では、ジム・ジャームッシュ監督の撮影監督トム・ディチロを起用、香港との合作『てなもんやコネクション』(1990年)では専用上映館を渋谷に建設、『ジャンクフード』(1997年)を全米12都市で自主公開、『リムジンドライブ』(2001年)では単身渡米し、全アメリカスタッフによるニューヨーク・ロケを敢行、蒼井そらを主演に据えた『聴かれた女』(2006年)は、英、米を初め7ヵ国でDVDが発売され、2011年には、超インディーズ作品『スリー☆ポイント』を発表、2012~13年は実践映画塾「シネマ☆インパクト」を主宰し、12人の監督とともに15本の作品を世に送り出し、その中から、メガヒット作大根仁監督『恋の渦』を誕生させた。国境やジャンルを越えた意欲的な活動と爆発的なパワーで、常に新しい挑戦を続けている。

執筆:この記事は植山英美さんからご寄稿いただきました。

(c)シネマ☆インパクト

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