日本人ならば知っていなければいけない存在『TATSUMI マンガに革命を起こした男』監督&別所哲也インタビュー
“劇画”の名付け親であり「マンガ」に革命を与えた男、辰巳ヨシヒロ。世界が絶賛する彼の才能を、なぜ我々日本人は知らないのか? 戦後の日本に、マンガで活力を与え、手塚治虫が嫉妬したその才能を辰巳ヨシヒロの作品と本人の語りを交えて映画化。『TATSUMI マンガに革命を起こした男』が11月15日より公開となります。
本作を手がけたのは、シンガポール人監督のエリック・クー。アニメーション作品というわけでは無く、完全ドキュメンタリーというわけでも無く。“動くマンガ”+朗読劇+ドキュメンタリーといった様な、これまで観た事の無い映像を見事に作り上げ、「カンヌ国際映画祭」正式出品、「アカデミー賞」シンガポール代表作品と注目を集めています。
そして、劇中で一人六役をこなしているのが俳優の別所哲也さん。「ショートショートフィルムフェスティバル」の主宰など、映画を愛し、文化を広く人々に伝える活動をなさっています。今回は、エリック・クー監督と別所哲也さんに作品の見所や、辰巳ヨシヒロさんの魅力についてインタビュー。色々とお話を伺ってきました。
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―まず、本作を作る事になったきっかけを教えていただけますでしょうか。
エリック・クー:辰巳先生の作品に出会ってから20年くらいになります。私にとって辰巳先生はインスピレーションの源であり、憧れてマンガを描いていた事もあるし、こうして映像作品を撮る様になっても必ず先生の作品の影響が出て来ます。なので、先生の魅力を知ってもらう映画を撮りたいとずっと願っていたんですね。
―別所さんは辰巳ヨシヒロさんの事は以前からご存知でしたか?
別所哲也:この作品に出会うまで知らなかったです。日本の大半の方がこの映画で辰巳ヨシヒロさんを知るのでは無いでしょうか。
―私もこの作品で初めて先生の事を知って。私はつげ義春さんの作品が好きなのですが、同時期に活躍された漫画家さんだと知り、知らなかった事を恥ずかしく思いました。お2人が思う、辰巳ヨシヒロの魅力とは何ですか?
エリック・クー:先生は名も無き人々の死生を描くのが本当に上手だと思うんですね。先生自身、とても映画好きでヨーロッパ映画から影響を受けているという事もあり、映画的なセンスというのを感じます。
別所哲也:光を浴びると影が出来ますから、光が眩しければ眩しいほど影も真っ黒になる。僕も舞台に立っている時にそれを感じますが、人間には必ず光と影それぞれの面があると思うんですね。辰巳先生の作品を読むと、その影の部分を隠さなくてもいい、両方あって人間じゃないと感じる事が出来るというか。
エリック・クー:これまで発表されてきたアニメ作品とは全く異なる、独自の作品を作りたいという想いがありました。まずこだわったのは作品の“色味”で、これは辰巳先生に相談する必要がありました。作品が少し出来ると先生にチェックしてもらって微調整して……の繰り返しでした。
別所哲也:体や表情を見せる事が出来ない、声だけでというのは、本当に大きなチャレンジでした。監督から直接役作りについて指導してもらって。作品の中には、原爆を経験した人や、高度成長期に生きる人々など、重い人生を背負っているキャラクターが多かったので演じるのはとても難しかったです。
―私も作品を拝見して、描かれているテーマの重さや大変さに驚きました。それでも、決して押し付けがましくないというか。生きている時代は違ってもグッと来るシーンが多くて、感情移入する事が出来ました。
エリック・クー:先生の作品は国や世代を越えて愛される、普遍的な魅力があると思う。実際にカンヌ国際映画祭でこの作品を上映した時に、先生もいらっしゃってくださったんですが、上映終了後に先生のもとへ来て涙を流したり、先生を抱きしめたりする観客がたくさんいたんですね。映画を観終わって、先生本人を見た時に一人の男の生き様を感じる事が出来たのだと思います。
先生はもっと評価されるべき人だし、日本の皆さんにも辰巳ヨシヒロという人物の素晴らしい才能を知っていただきたいんですよね。
―絵画でも音楽でも、亡くなってから評価される表現者がこれまでたくさんいましたが、現役である先生から直接お話を聞けるというのは素晴らしい事ですよね。
別所哲也:本当にそうですよね。本来は日本人なら必ず知っていないといけない存在なのだと思います。先生の作品は家族皆でワイワイ楽しむというタイプでは無く、大人の心にグサっと来る決して甘く無いストーリーですよね。だから、“マス”になりづらくて、これまであまり評価されなかった部分もあるのかもしれません。例えば先生は昭和の時代をリアルに描いているわけですが、日本人ってほのぼのとした昭和のいい話、見たいのは好きですけど、激動の時代であった昭和からは目を背けがちじゃないですか。
とはいえ、とてもエンターテイメント性にあふれているとも思います。先ほど監督もおっしゃっていましたが、マンガでありながら、とても映画的なストーリーなので。
エリック・クー:これは私の映画という事になっていますけど、先生のヴィジョンが形になった作品です。日本の「マンガ」は今や世界中で知られていて、とても人気ですが、その表現の礎を作った偉大な辰巳ヨシヒロ先生の生き様をぜひ多くの方にご覧いただきたいです。
―今日はどうもありがとうございました。
『TATSUMI マンガに革命を起こした男』
監督:エリック・クー
原作:辰巳ヨシヒロ「劇画漂流」(青林工藝舎刊)
声の出演:別所哲也(一人六役)、辰巳ヨシヒロ
配給:スターサンズ
2011/シンガポール/96分/日本語/原題:TATSUMI
(C)ZHAO WEI FILMS
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