何があっても吠えない?盲導犬への誤解に警鐘

「何があっても吠えない訓練をされている」は全くの誤解

何があっても吠えない?盲導犬への誤解に警鐘

盲導犬オスカーが何者かに刺され負傷した事件は、本当に驚きと憤りでいっぱいになりました。そして、SNSなどで世間に広まると同時に、「何があっても吠えないように訓練されている盲導犬」という誤解が駆け巡ったようです。それを受けて、盲導犬を正しく理解してもらうために「全日本盲導犬使用者の会」が声明をHPに発表。また、そのような誤解を解くため、長年アイメイトの取材・撮影している内村コースケさん(フォトジャーナリスト)も記事を執筆しています。

一般に「盲導犬」と一括りにしていますが、実はいくつかの団体があり、それぞれに少しずつ定義の捉え方や訓練法が違っていることを理解しておかなければいけません。オスカーの場合は「アイメイト協会」に所属しており、正確には「アイメイト」と呼ばれているそうです。

まず、「何があっても吠えない訓練をされている」というのは当然のことながら全くの誤解です。痛みがあっても吠えない訓練をするとしたら、わざと痛みを与えて吠えを抑制する訓練をしなければいけませんが、それは明らかに虐待です。

もちろん、社会の様々な場所へ出入りする以上、いわゆる「無駄吠え」をしないことは条件となりますが、アイメイト協会では、血統的に子犬の頃からめったに声をあげない犬がほとんどで、もし、吠える性向が強い場合は、アイメイトにはならず家庭犬として引き取られることになるため、吠えないように厳しいトレーニングをすることがないそうです。

人間を100%信頼し「吠える」という行動の選択肢はなかった?

また、子犬の頃は「パピーウォーカー」というボランティアの一般家庭で育てられますが、その時も「特別なしつけをしないでほしい」と要請しているほど、とにかく愛情たっぷりのびのびとした子犬時代を過ごさせています。そして、その後もたくさんの人たちと関わりあって生きていく中で人間が大好きになり、人間を100%信頼するようになるからこそ、むやみに声をあげることがなくなっていくのです。

今までの警察の捜査でわかってきたことは、オスカーは上りエスカレーターに乗っている時に犯人に後ろから押さえつけられ、シャツをめくられて何度も刺されたのだろうということです。しかし、めったに声をあげない血統から生まれ、人間を100%信頼し、吠える必要のない生活を送ってきたオスカーにとって、こんな時でも「吠える」という行動の選択肢はなかったのかもしれません。

偏った情報で騒ぎ立てるのではなく、当事者の声に耳を傾けるべき

ネット社会では、あっという間に情報が拡散し、短時間で多くの人たちが知ることができるのは素晴らしいことでもある反面、憶測や思い込み、誤解も一気に広まってしまう怖さがあります。

先日の広島の土砂災害の現場で作業する救助犬に対しても、がれきの上で作業する犬たちに対して「靴を履かせてあげて!」という声があがり、現地に大量の犬用の靴が送られてきたそうです。しかし、決して靴を履かせたくなかったわけではなく、ぬかるみの多い現場で靴を履かせれば、かえって滑りやすくケガをする可能性が高く、また、汗腺のある足裏を塞ぐことで熱中症も懸念されたという判断があったということです。

今回のオスカーが負傷した事件に限らず、偏った情報で騒ぎ立てるのではなく、様々な情報を精査しながら当事者の声に耳を傾けることが、誤解を広げずに本当の理解を深めることにつながっていくのだと思います。

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