星野源さんに学んだ、「”ものづくり地獄”では、辛さより面白さが勝つ」―――アノヒトの読書遍歴:『Casa BRUTUS』編集長・松原亨さん(前編)

星野源さんに学んだ、「”ものづくり地獄”では、辛さより面白さが勝つ」―――アノヒトの読書遍歴:『Casa BRUTUS』編集長・松原亨さん(前編)

ファッション、建築、インテリア、食、アートなど、暮らしにまつわる「デザイン」をテーマにした雑誌『Casa BRUTUS(カーサ ブルータス)』。デザインの背後にある文化やストーリーまでをも興味深く伝える雑誌です。そんな同誌の編集長を2012年より務める松原亨さんの読書志向は、”雑食系”。そして、デザインやものづくりについての示唆に溢れる選書が際立ちます。

――かなりの読書家だとお聞きしました。特に、ジョン・アーヴィングがお好きだとか?

アーヴィングは学生時代によく読みました。アメリカの現代小説は好きですね。もちろん、仕事がらデザインや建築の本にも目を通しますし、興味を持った本はジャンルを問わず色々読みます。まとめて買って安心してしまって、読んでない本もたくさんありますが(笑)。最近では、俳優であり音楽家の星野源さんが、弊社刊行のファッション誌『GINZA』で2011年から2013年まで連載していたエッセイを書籍化した『蘇る変態』が面白かった。

――こちらの本の帯には、「”ものづくり地獄”の音楽製作、俳優業の舞台裏からエロ妄想で乗り越えた闘病生活まで。突然の病に倒れ、死の淵から復活した著者の怒濤の3年間」とありますが、こちらもジャンル横断的。なおかつ壮絶な内容のようですね。

そうですね、星野さんが2012年末にくも膜下出血で倒れ、手術とリハビリを経て、2013年に復帰したと思ったらまた再発して……という経緯がこのエッセイには書かれています。特に、2回目の再発のときの苦しむ様子はまさに地獄のよう。読んでいるこちらの頭まで痛くなってくるくらいです。ただ僕が注目したのは、2回目の手術を執刀することになった名医とのやり取りです。ラジオではちょっと言えないやり取りなので、ぜひ読んで確かめてほしいのですが、面白いですよ。

――一体どんな会話をしたんでしょう?(笑) 非常に気になります。

まぁ、下ネタです(笑)。その名医が星野さんの病状とその手術の困難さを説明した後に、下ネタを話し出します。星野さんは、なんでこの人は俺がこういう話が好きだって分かるんだろうと次第にリラックスしていくんですね。医学的な話とくだらない話が混ざり合うなかで星野さんが「不安です」と言うと、最後に名医が「大丈夫、治すから」と応えます。

――素敵なやり取りですね。

先生も格好いいですよね。そして、頭が痛くって、何を食べても吐いてしまうような辛い状況のなかでのそのやり取りを、「面白さが辛さに勝った」と星野さんが記したのが非常に印象に残りました。2011年発売のファーストシングル「くだらないの中に」の頃から一貫している「人は笑うように生きる」と歌った星野源ならでは。死の瀬戸際の苦痛に勝てるのは下ネタだけという。(笑)

――本書には、闘病における地獄と並んで、”ものづくり地獄”という表現もあります。『Casa BRUTUS』において、さまざまなプロダクトの製作の現場に立ち会われることが多い松原編集長から見て、「ものづくり地獄」とは?

星野さんの場合、音楽活動の最中に倒れたんですよね。曲作りに悩んで悩んで、やっとできたっていうときだったそうです。そして倒れた後、今度は病室で地獄の歌を作る。すさまじいですよね。

――「地獄でなぜ悪い」という楽曲ですね。本当に、すごいバイタリティだと思います。

地獄の経験を仕事に生かすなんてすごいパワーがいると思うんだけど、それができる星野さんは、”仕事人”としてはちょっと羨ましい。

「僕の仕事だと地獄を仕事に生かす機会はなさそう」と語った松原編集長。しかし、後編に紹介されたご自身が最近気になるという本のチョイスには、『Casa BRUTUS』という雑誌の”ものづくり”に込められた思いが光っていました。どうぞ、お楽しみに!

 

<プロフィール>

松原亨

まつばら・こう/1967年東京生まれ。1991年早稲田大学卒業、マガジンハウス入社。雑誌『ポパイ』の編集に携わった後、2000年より月刊『カーサ ブルータス』編集部勤務。2012年同編集部編集長に就任。

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