かしわ×EINSHTEIN 特別対談──関西の10代ラッパーが語る苦悩と可能性
左:かしわさん 右:EINSHTEINさん
高校生ラッパーの日本一を決めるフリースタイルバトルの甲子園「BAZOOKA!!!高校生RAP選手権」。10月4日(土)には、ディファ有明で第6回目の開催が決定し、「ULTIMATE MC BATTLE」2連覇の実績を持つラッパー・R-指定さんが陪審員として初参加するなど、これまで以上にアツい盛り上がりを見せている。
そんな大会から生まれた2人のヒーローがいる。1人は下ネタや相手の意表を突いた抜群の言葉のセンスで相手を攻め立てる大阪府・岸和田市出身のかしわさん。もう1人は、大会史上最年少にして初出場にも関わらず、同選手権第3回チャンピオンのHIYADAMさんを破った、現在高校2年生のEINSHTEINさんだ。
2人はともに同じ関西勢として、優勝こそ逃しているものの、胸をアツくさせるようなバトルを繰り広げ、爆発的な人気を獲得。
今では、音楽レーベル・NEXUS CLOUD MUSICに所属しながら、音源のリリースやイベント出演など、全国各地に引っ張りだこの人気ラッパーの一人となっている。
今回はそんなかしわさんとEINSHTEINさんによる対談を実施。HIPHOPとの出会いや、「高校生RAP選手権」出場のきっかけ、急な人気からの戸惑いなど、10代ラッパーの最前線に立つ彼らの知られざる一面を紐解いていく。
はじまりはバンドとレゲエ
──まずはお二人のHIPHOPとの出会いについて教えて下さい。
かしわ 元々お父さんがケツメイシさんが好きで、よくYouTubeで一緒に見てたんです。それである時、関連動画にタサツという、ケツメイシのRYOさんが参加しているユニットの動画が出てきたんですよ。
それが16歳くらいの高校1年生の時だったんですけど、すごく自由すぎるラップに衝撃を受けて、当時はバンドをやってたんですけど、「こんな音楽もあるんや、これは面白いぞ」って思って、友だちとその場のノリで始めたのがきっかけです(笑)。
EINSHTEIN 僕は中2の終わりか、中3くらいからはじめましたね。HIPHOPというより、レゲエがすごい好きで、最初はレゲエばっかり聴いてました。でも兄がラップやってて、地元の先輩達もHIPHOPやってる人が多かったので、その影響もあって大阪のレゲエ聴いてたら自然とSHINGO☆西成さんに辿り着いて、HIPHOPを知りましたね。
でも大阪ってレゲエやってる人もHIPHOPやってる人もみんな仲間みたいな感じなので、HIPHOPだけというよりは、レゲエも一緒に続けてきたような感覚ですね。
RAP選手権に出場してからHIPHOPの現場でライブするようになった
──お二人はまだ10代後半ですが、実際にステージでライブするようになったのはどのくらいの時期だったんですか?
かしわ 僕は高2の時にライブハウスでライブやったのがはじめてですね。最初からクラブでラッパーの人たちと一緒にライブすればよかったんですけど、なぜかロックバンドしかおらん中で、僕だけHIPHOPクルーとして出させてもらってました。
当然お客さんはロック好きばっかりで、僕らはまだ経験も実力もないから、ロック好きの人たちを振り向かせることもできず、名前もさっぱり売れませんでしたね。それで昨年「第4回 高校生RAP選手権」に出場してからクラブイベントからのオファーがめっちゃくるようになって、HIPHOPイベントにでる機会が一気に増えたんですよ。
クラブやったらライブハウスよりもHIPHOP好きのお客さんも多いし、同じ世界の色んな人とつながりができるし、クラブイベントに出るだけでこんなに違うんやって驚きましたね。
EINSHTEIN 僕は高校1年の時がはじめてですけど、最初はレゲエの現場でずっとライブとかやってましたね。それで「第4回 高校生RAP選手権」のオーディションの時にいろんな同世代のラッパーと知り合って、その辺りからHIPHOPの現場でもライブするようになりました。
──最初はHIPHOPとは違う現場で活動してたんですね。実際に現場に入ってみてどうでしたか。
かしわ 怖いですね(笑)。
EINSHTEIN 裏がありそうな人たちばかりで…
かしわ でもまだ裏は見てない。
EINSHTEIN 裏は見てないけどありそうやなぁって(笑)。そういうスリリングな部分も含めてHIPHOPじゃないでしょうか(笑)。
急な人気からの戸惑い
──お二人は元々お知り合いだったとお聞きしました。
かしわ 友だちとノリでラップはじめたすぐ後くらいに、EINSHTEINの兄貴と僕でHIPHOPクルーを組んだんですよ。だから知り合いというか、EINSHTEINの存在はなんとく知ってました。
EINSHTEIN そうそう。だから僕もかしわくんのことはうっすらと知ってた程度で、「第4回 高校生RAP選手権」のオーディションで会うまで話したことはなかったんですよ。
「あれ、かしわくんかな?」って思いながらオーディションの時に話しかけた時が最初の出会いで、そこで一緒にサイファーやることになって、それから仲良くなりましたね。
──「第4回 高校生RAP選手権」に出られてからの人気が凄まじいですよね。
EINSHTEIN やっぱり環境が変わりましたね。フリースタイルだけじゃなくて、音源にも注目してくれる人が増えて嬉しかったですね。
かしわ Twitterのフォロワーが急に増えました(笑)。
EINSHTEIN でも元々あんまり期待されるタイプじゃなかったんで、いきなりブワーって期待されるようになって気持ちが沈んだ時期もありました。
3月に配信限定でリリースした「This Love」は、結構病んでた時に書いたリリックで、周りからも友だちからもラップ選手権の話ばっかりされて、学校にも行きたくなくなって、ちょうどずっと家に引きこもってる状態の時でした。
家に引きこもってるから夜中全然寝れなくて、ある日近くの池にパーって部屋着のままリリック帳持って飛び出したんですよ。夜中の川の前で思い詰めたようにリリックを書き始めて、それでできたのが「This Love」とYouTubeに投稿した「SOS」という曲です。
──かしわさんはプレッシャーに悩んだりすることはなかったんですか。
かしわ 僕は音源を期待してますよとか言われても、それに応える気はないですよって感じですね。別に聴きたくなかったら聴かんでもええですよーって思ってます。
──あまりプレッシャーやストレスみたいなものは感じられないタイプなんですね。
かしわ でも高校を卒業して、サラリーマンになったんですけど、その両立にストレスを感じることはあります。これに関しては僕も一時期病みましたね(笑)。仕事も楽しくて、何が原因かと聞かれるとわからないんですけど、毎日がモヤモヤして終わるような感覚ですね。
──HIPHOPに打ち込む時間が減ったからですかね。
かしわ うーん、それも自分でもよくわかってなくて、とにかく毎日毎日の達成感がない。イベント出演のオファーは大体土日が多いんですけど、週休の2日がバラバラなので、いつ休めるかもわからないんですよ。
だからラッパー・仕事・プライベートの調整みたいなのがすごく難しい状況です。
自分の名前を上げたかった
──話は戻るんですけど、そもそもなんで「高校生RAP選手権」に出場しようと思ったんですか?
EINSHTEIN 元々フリースタイルはあんまりやってなくて、音源の制作しかやってなかったんですよ。僕自身やっぱり音源を作品としてリリースして売れたいって気持ちが昔から強かったんです。でも中々結果が出せなくて、僕みたいな若手は外に出づらい感じやったんですよ。
だから何かで1回有名になって、自分の名前を上げなあかんかなと思って、ラップ選手権で名前を売って音源を聴いてくれる人を増やそうと思って出場しました。
かしわ 僕はノリですね。ちょうどオーディションの時にGrade Upってクルーを組んでいて、そのGrade Upのイメージ動画のためにYouTube用の動画をつくってたんですよ。
その中の企画で「高校生RAP選手権」に応募してオーディションの様子とかを撮影して動画にしたら再生回数結構いくんちゃうかみたいな、やらしい考えからオーディションに応募しました(笑)。
そしたらほんまに受かってもうて、クルーのメンバーから「じゃあ本番も頼むわ」って言われてカメラ持たされて、第4回は舞台裏とかも結構撮ってましたね。
──全然違うきっかけからノリで出場したにしては、かなり鮮烈な印象を残していきましたよね。
かしわ 多分周りのラッパーが本気すぎて、逆に軽い気持ちで出た僕は目立ったんでしょうね。フリースタイルも遊びでやってたくらいで。
EINSHTEIN 僕もフリースタイルは全然やったことないから、前日の夜にあまりにやらなすぎてヤバいから1回友だちと集まって練習しました。
──毎日サイファーに通って腕を磨いてたという感じではないんですね。
EINSHTEIN サイファーに行くようなタイプじゃなくて、家でずっとリリックを書いてるタイプなんですよ。
──でも初出場ながら第3回優勝者のHIYADAMさんを破られましたよね。
EINSHTEIN 逆に言えばリリックしかほんまに書いてなかったんで、頭の中が韻だらけなんですよ。だからそれでなんとなく挑んだんですけど、本番は何考えてたか全く覚えてないですね。とにかく無我夢中で戦ってました。
「高校生RAP選手権」に対する批判について
──一方で大会自体が有名になるにつれて、最近は批判の声も目立つようになってきました。
かしわ それだけ多くの人に注目されるようになったと思ってます。見る人が増えたから、批判する人も増えた。
EINSHTEIN 批判がでるのは仕方がなくて、批判したくなる気持ちもわかります。それでも自分の名前を売りたかったので出場しました。僕たちはこういう大きな大会に出場したりすることでしか有名になれない。夢に一歩近づくためにはしょうがないことやと思ってます。
かしわ 流行ってるモノってなんか批判したくなるじゃないですか(笑)。
EINSHTEIN 僕らだって、もし今「中学生RAP選手権」みたいな大会ができたら、「ちょっとなんやねんこれ」って批判すると思いますよ(笑)。
EINSHTEINには、カリスマ性がある
──「高校生ラップ選手権」に出場した後、EINSHTEINさんはかしわさんが立ち上げたレーベル・かしわRecordsに所属しましたよね。
かしわ かしわRecordsは立ち上げたというより、第4回のオーディションの直前くらいに地元の友だちと集まった軍団ですね。誰かの下につくよりも、みんなでつくり上げていきたくて。
EINSHTEIN そんな部分に共感したこともあって入ったんですけど、すぐに抜けました。周りに人がいっぱいおったんですけど、人に頼らずに自分の力でどこまでいけるか試したくてなって。でも結果的に今は1人じゃなくて、NEXUS CLOUD MUSICに入りました。
かしわ 僕が先にNEXUS CLOUD MUSIC入ることになったんですけど、TWO-SHIさん(NEXUS CLOUD MUSICの代表)にかしわRecordsから誰か推したい人おる?って言われたから、真っ先にEINSHTEINを推しました。EINSHTEINはカリスマ性があるというか、何もしなくても人を惹きつけるオーラがあると思うんですよ。
僕の2歳下で、まだ17歳なのにすごく立派に構えてる。だからNEXUS CLOUD MUSICでは、EINSHTEINに売れてもらって、僕は「あいつ売れてないけどなんかええな」みたいに一部からリスペクトされるような存在になりたいですね(笑)。
──なんでNEXUS CLOUD MUSICに入ったんですか?
EINSHTEIN やっぱり僕は売れたい気持ちが強いので、自分の活動の幅を広げるために入りました。今はかしわくんとかTWO-SHIさんにプロデュースされてる立場にいるんですけど、改めて自分自身について気づかされることが多いです。
妄想から生まれた楽曲
──かしわさんは5月に新曲『真夏のライバルはフランクフルト』をリリースされましたよね。下ネタのイメージが定着してるかしわさんらしいタイトルだと思いました。
かしわ これは完全に妄想の話なんですよ。物語としては、僕と女の子とフランクフルトの三角関係という設定で、毎年夏に海に行くとその女の子がおって、僕はその女の子が好きになって近づくんですけど、女の子はフランクフルトばっかり食べててこっちを向いてくれない。それで「なんなん、全然こっち向いてくれへんやん。また来年も行ったろ」ということを毎年繰り返すというわけです(笑)。
──すごい妄想ですね。
かしわ でも元ネタも実はあって、僕と彼女が元ネタです。僕がラップに熱中しすぎて彼女に割く時間が少なくなった。彼女はだんだんラップに嫉妬するようになってきて、そこから「ライバルはラップ」ということを思いついて、それをフランクフルトに例えてみました。
最初は「彼女とフランクフルトの七日間」というタイトルだったんですよ。
──かしわさんにとっての下ネタってどういう存在なんですか?
かしわ なんて言えばいいんですかね。断言してしまうと、生き甲斐みたいな感じですかね。特に意識してるつもりもないんですけど、元々遊びでラップしてた友だち同士で始めて、ちょっとふざけたような感じのグループにずっとおったんで、いざ真剣にガチなことをラップしろって言われてもできないんですよね。
かしわくんの音源はかなり好きですね
──EINSHTEINさんはかしわさんの楽曲を聴いたりするんですか?
EINSHTEIN 聴きますね。「真夏のライバルはフランクフルト」みたいに聴いてて楽しくなるような曲がある一方で、リリックが深いドープな楽曲もあってしんみりします… かしわくんの音源はかなり好きですね。
かしわ そんなんはじめて言われたわ(笑)。でもネットで上げるような音源はちょっとマニアックな方向性でいきたい意識はありますね。HIPHOP色が強かったり、自分の価値観詰め込んだ楽曲って、多くの人には受け入れてもらえないけど、届く人には届くと思ってます。
今はレーベルに所属してるし、自分もレーベルをやってるので、イメージとしてはNEXUS CLOUD MUSICは多くの人に受け入れてもらえるようなグローバルな感じの楽曲で、かしわRecordsでは、NEXUS CLOUD MUSICではできないちょっとドープな楽曲とか、強烈な下ネタの楽曲をやろうと思ってます(笑)。
──かしわさんはEINSHTEINさんの曲とか聴かれるんですか?
かしわ よく聴いてますよ。
EINSHTEIN その感じ、絶対嘘ですよ。
かしわ ライブ中とかよく口ずさんでる。
──「This Love」はどうでしたか?
かしわ 「This Love」は嫌いですね。
──(笑)(笑)(笑)。
かしわ ちょっとラブソングな感じとか、ちょっと僕のツボじゃない系統なんですよ。別にラブソングが嫌いなわけじゃないですけど、なんか全体的に見て僕はあんまり好きじゃないんですよ。
EINSHTEIN 全否定じゃないですか。
かしわ でも未発表の「Around The World」って曲はめっちゃ好きですね。リリックもトラックも最高。
EINSHTEIN お蔵入りになったんですけどね…… やっぱりちょっとマニアックな曲が好きですよね。
──楽曲で共演されたりとかしないんですか?
EINSHTEIN 一応前にそんな話はあったような気がする。まだ全然本格的には進んでないですけど。
かしわ それこそ揉めてNEXUS CLOUD MUSIC解散とかありえそう(笑)。
──お二人でクルーを結成されたりとか…
EINSHTEIN それはないですね。
かしわ 絶対向いてない。音楽の方向性が違いすぎるもん。
目指しているラッパー像
──こういうラッパーになりたいとか、今後の展望ってありますか?
EINSHTEIN いわゆるストリートな感じではなくて、みんなから慕われるような、親しまれるラッパーになりたいですね。だからリリックでもラップ好きの人以外がわからないような専門用語は使わないようにしてるし、なるべく多くの人に伝えることを意識しています。
それで興味を持ってくれて、ちょっとずつ深いHIPHOPの世界も知ってもらえたらええなって考えてます。
かしわ 僕は誰もが好きになってくれるような、HIPHOPスターみたいなのは目指してないですね。なんでしょう。売れてないけど、同業者からリスペクトを集められるような立場になりたいですね(笑)。
売れるのはEINSHTEINだけでいい。さっきも言いましたが、僕は「あいつ売れてないけど何かええな」って言われるくらいでいいです。
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