東京五輪がきっかけで誕生したユニットバス、50年でどう変わった?
いまや住宅の浴室といえば、ユニットバスが当たり前といっていい時代。そのユニットバスが生まれたのは、50年前のこと。理由は、あの東京五輪にあったというから驚きだ。業界初のユニットバスを開発したTOTOが、ユニットバス50周年を機に、これまでの開発の歴史をまとめて記者懇談会で発表した。それを基に、ユニットバスの50年史を見ていくことにしよう。
ユニットバス誕生秘話
ユニットバス誕生の背景には、1964年に開催された東京オリンピックがあった。
なぜオリンピックが関係するかというと、当時の観光客が宿泊するためのホテルの建設ラッシュが要因だ。オリンピック開会に間に合わせるために、ホテルニューオータニ(17階建て全1058室)を17カ月で建設することになった。「当時は1000戸を超えるホテル建設には3年かかると言われていました」とは、そのとき開発に携わったTOTOのOB進藤正巳さん。常識では考えられない、超短期の工期だったという。
工期短縮で不可欠なのが、浴室工事の短工期化と浴室の軽量化。設計施工を担当する大成建設から、浴室のプレハブ化(あらかじめ工場で生産・加工し、建築現場で加工を行わず組み立てる建築工法)を依頼されたTOTOは、「セミキュービック方式のユニットバス」を開発した。
工事中に運搬しやすいように上下に分けた構造にし、器具や給排水管を組み込んだ腰フレームと上部壁フレームを工場でそれぞれ組み立てる。防水上の問題を解決するために、防水パンというステンレス製の大きな受け皿をまず設置して、その上に腰フレーム、さらに上部壁フレームを設置し、仕上げとして壁パネルやドア、器具類を取り付けて完成させるというもの。これによって工期短縮が実現した。
浴室の軽量化については、浴槽と洗面カウンターに陶器ではなくFRP(繊維強化プラスチック)を用いるというアイデアで、それまで浴室の重量が2tを超えていたものを730kg程度まで軽くすることに成功した。その一方で、床はこれまで日本人が使い慣れたタイル張りとして、ホテル利用者に不安を与えないようにした。
こうしてホテルニューオータニの1044室に、2カ月でユニットバスの据え付け工事を完了させた。
このときの考え方がユニットバスの原型となって、今に引き継がれている。
なお、ユニットバスとは天井や壁、床と浴槽が一体(ユニット)となっているバスのこと。浴室だけのものあれば、洗面台やトイレが付属するものもあり、用途によって組み合わせが異なる。
一般住宅向けに開発が進んだ1964年~の創成期
TOTOのユニットバス50年史によると、「創成期(1964年~1985年)」「拡大期(1986年~2000年)」「進化期(2001年~2014年)」の3つに大別できるという。
「創成期」は、新しいユニット工法の開発に始まり、マイホーム時代の到来に応じて、新築マンション用、新築戸建て用と住宅用への商品化が進んだ時期に当たる。
マンションブームに対応するために、集合住宅向け標準ユニット「UB-S1」が発売されたのは、1966年のこと。床、壁、天井の3つに分割し、幅600mmのパネルを基本モジュールとして部材を標準化する「パネル方式」を採用したのが大きな特徴だ。ユニットの内側から組み立てられる「内組構造」も取り入れた。
マンションから遅れて1977年には、戸建住宅用浴室ユニット「KBシリーズ」が発売された。夏場に工事が集中する北海道で、工期短縮が求められたことがきっかけだったという。工場で組み立てまで済ませ、現地に運んで設置工事を行う「キュービック方式」を採用し、保温性を高めるための工夫も施した。これ以降、全国にユニットバスが普及していくことになる。
現在のスタンダードがつくられた拡大期
「拡大期」は、ユニットバスの普及率が拡大することに応じて、量産対応体制や多品種、システム化などが求められた。デザイン性も求められるようになると、壁パネルの目地(パネルとパネルの間を埋める樹脂素材)がデザインを損なうため、「目地なしカール構造」が生み出された。この構造は、20年以上経った今も採用され続けているという。
また、高齢者への配慮から浴室のバリアフリー化へのニーズが高まると、1997年にはマンション用の「低床シリーズ」が発売される。浴室の入り口の段差を85mmから12mmに、浴槽のまたぎの高さを540mmから450mmへと低くしたことに加え、構造上脱衣所よりも浴室を掘り下げる必要があるがその高さ(沓摺=くつずり)も低くすることを実現した。この「低床」設計は、その後もマンションのスタンダードとなっていく。
顧客のニーズから更なる快適性を追求した進化期
「進化期」の目玉は、「カラリ床」と「魔法びん浴槽」だろう。
FRPの床は防水機能は高いが水が残り乾きにくいという一面があった。それが不満という顧客の声から、夜入浴して翌朝には乾く「カラリ床」を2001年に発売。また、お湯が冷めやすいという不満の声に応えて、魔法びんのような二重断熱構造にすることで、6時間たっても2℃しか冷めない「魔法びん浴槽」を2004年に発売した。これらは、今日本のユニットバスでは当たり前となってきている。
カラリ床をさらに進化させ、硬い床から柔らかい踏み心地を求めて、2008年に「ソフトカラリ床」を開発、2012年には床の素材を断熱性の高い素材に変え、さらに心地よさを向上させてW断熱構造「ほっカラリ床」を開発するなど、ユニットバスは進化を続けている。
TOTO浴室開発部部長の三石聡さんは、「例えば、お風呂掃除をしないで済む浴室やスマホを持ち込んでくつろげる浴室など、まだまだ新しい課題は出てきます。機能とデザインを進化させながら、過去の自分たちの技術を否定するといった発想からつくり方も進化させて、未だできていないことを実現できるようにしていきたい」と語った。
ユニットバスの50年史を振り返ると、その当時の社会ニーズと開発された技術が無縁ではないことが分かる。少子高齢化、自宅介護、単身世帯の増加といった社会的な課題や浴室に憩いを求めるなどの多様なニーズに、ユニットバスは今後どのように応えていくのだろう。
●TOTO ユニットバスルーム50周年
HP:http://www.toto.co.jp/products/bath/ub50th/index.htm
元記事URL http://suumo.jp/journal/2014/08/08/67293/
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