「心の病で労災」が企業を潰す
仕事による精神疾患で労働災害が請求されたケースは過去最多
厚生労働省から、2013年度の「脳・心臓疾患と精神疾患の労災補償状況」が公表されました。仕事上の強いストレスによるうつ病などの精神疾患で、労働災害が請求されたケースは1409件(前年度比 152 件増)となり、過去最多を更新しました。そのうち労災認定に至った件数は436件で、年代別で見ると30代が161件で最も多く、40代106件、20代75件。原因別では「仕事内容・量の大きな変化」と「パワハラ」が各55件で最多でした。
メンタルヘルス不調の原因として「本人の性格の問題」の次に、「職場の人間関係」を挙げる企業が多いですが、企業でのストレスや長時間勤務が原因で、労働者が心の病になった場合、それを「個人の問題・責任」と片付けてしまうことは、今日では許される状況にありません。労働者の健康を配慮することは、企業の義務であり、心身ともに健康的に働ける職場環境・労働条件を整備し、労働関連法を遵守することがリスク・マネジメントにつながります。労働者の心身の病気は、「企業の責任」として捉え、危機意識を認識すべきでしょう。
「ブラック企業」と見なされると、顧客も従業員も投資家も遠のく
心の病での労災が、企業に与える悪影響を考えてみましょう。劣悪な労働環境で従業員を働かせる「ブラック企業」という批判を受けた居酒屋チェーンのワタミが、1996年の上場以来はじめて赤字に転落しました。社会的に「ブラック企業」の烙印を押されたら、まず、お店の利用客は減少します。当然、そこで働こうと思う労働者も寄りつかなくなります。
ワタミでは、今年4月に入社した新卒社員は採用目標値の半分にとどまり、アルバイト応募者を増やすための賃金上昇が業績の重荷になり、時給を上げても応募は思うようには増えず、深刻な人手不足が続いています。売上も低迷し、労働力不足も顕著となった結果、今年度中に全店舗の約1割にあたる60店舗の閉鎖に追い込まれています。さらに主軸事業の居酒屋だけでなく、介護や食事宅配サービスの売り上げにも影響を及ぼしています。株価低迷への影響も免れません。
このように「ブラック企業」との批判が広まれば、顧客も従業員も投資家も遠のく「負のスパイラル」に陥り、業績に深刻な悪影響が及ぼすことを物語っています。
過労死などでは敗訴する可能性が高く、ダメージは甚大
最も不幸な過労死に関して言えば、遺族が、企業と直属上司や人事部長を相手取った訴訟を起こすケースが年々増加しています。 裁判が始まれば、関係者は通常7~10年間という長期にわたり裁判所に通わなければなりません。
そして、企業として法令遵守ができていなかった場合、安全配慮義務違反となります。裁判の判例を見ると、うつ病である社員に長時間労働をさせていた場合、企業が敗訴する可能性が極めて高くなります。損害賠償など金銭的なダメージ以上に、企業内で働く社員の心のダメージとモラール(勤労意欲、士気)の低下は、はかり知れないものがあるでしょう。
日本企業にはまだ、「多少の無理難題でも耐えつつ創意工夫で乗り越え、業務を遂行できる人間が有能」とされる風潮が色濃く残っています。「途中でギブアップする人間は弱い、病のせいで業務を中断すると個人の能力不足」とみなされる企業風土を根本的に改めなくては、心の病による労災申請は増加の一途をたどります。「企業は人なり」、人を粗末に扱う企業は、将来にわたって事業を継続する真の成功をおさめることができないのです。
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