豊明市職員アンケートが物議。市職員は市民の代表か?
職員が市民の代表であるという要素はまったくない
愛知県豊明市が市議会に提案した子育て世帯への給付事業に関し、市議会の担当委員会が、市の職員約200人に賛否を問うアンケートを実施したというニュースがありました。この委員会は今回の給付事業を「市長のばらまき政策」と批判し、市民の意思把握のために市職員を対象としたアンケートを行ったようですが、アンケートを求められた職員だけでなく、議員の中にも「市民イコール職員ではないのでは?」との疑問の声があったようです。このアンケートをどう考えればよいでしょうか。
地方自治体の職員の多くは地方公務員です。地方公務員は、公務員試験に合格して採用されるもので、市民の選挙により選ばれるわけではありません。ですから、法的に、職員が市民の代表であるという要素はまったくありません。このため、市職員は市民の意思を代表する存在でもありません。
また、憲法22条1項で居住の自由が基本的人権として定められていますから、特殊な任務の場合を除き、職員の住居地を当該自治体に制限するということはありません。現に、日本のどの地方自治体でも、職員のうち結構な割合の人が当該自治体以外の場所に住んでいるでしょう。つまり、市職員の一定数は、当該自治体の市民ですらないわけです。
基本的ルールを無視した適切さを欠くアンケート
仮に職員の住所を問わず、市民の意思把握という目的で市職員にアンケートを行ったのだとすれば、それも疑問です。何よりも、今回豊明市で行われたアンケート方法は、アンケートの基本ルールにも反するものと言えます。
一般にアンケートは、実施者が恣意的に回答者を選んでしまうと、ある程度、結果を支配することができるため、まったく信頼性のない回答しか得られません。また、恣意的な選別がなくても、回答者の抽出方法を間違えれば、特定の層に偏ってしまい、やはり正しいアンケート結果を得ることはできません。
このため、世論調査などでは、さまざまな工夫を凝らして作為のない回答者の選別がなされています。たとえば、住民基本台帳から形式的に等間隔で選んだり、機械でランダムに数字を選んだ電話番号にかけるといった具合です。
本来、さまざまな職業、収入層の市民がいる中で、今回は特定の集まりである市職員にアンケートを実施しており、これでは正しく市民の意思を抽出できるわけがありません。また、市職員というのは、地方公務員法上、市長から任命されたり、罷免され得る地位にあるわけですから、このような法的な地位にある彼らに、市長が提案した政策への賛否を問うというのも適切とは言えません。
このように、今回のアンケートは、どの点からみても適切さを欠くアンケートと言わざるを得ないようです。ちなみに、職員の回答では反対が多数で、議会でも市長の案は否決されています。
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