大阪市、問題児を「特別教室」に 期待と懸念

大阪市の学校現場における問題行動の発生件数は全国平均の約2倍

大阪市、問題児を「特別教室」に 期待と懸念

「激しい暴力」「凶器の所持」「恐喝行為」などの悪質な問題行動を繰り返す児童生徒に対して、大阪市は、在籍校とは別の「個別指導教室」で指導していくという方針を打ち出しました。ここ数年の文部科学省の調査を見ると、大阪市の学校現場における問題行動の発生件数は、全国平均の2倍前後の数値であることや、昨年の桜宮高校の体罰事件の影響から、学校現場では「問題生徒に対する指導がより困難になっている」という声もあり、教育の現場では本当に深刻な状況だと思われます。

そういう状況下で打ち出された今回の方針について、大阪市教育委員会や橋下市長の発言を見る限り、その意図は「(1)ほかの児童生徒の学習権を守る」「(2)専門的な個別の指導を通じて問題生徒の変容・成長を図る」の2点であるということです。そこで、この取り組みについて、この2点から考えてみます。

子どもの変容・成長に実効性がなければ、問題の根を深めることに

まず今回の方針は、先にあげた「(1)真面目に勉強に取り組む子どもたちの学習権を守る」という点では一定の理解ができます。従来から、問題行動を繰り返す児童・生徒には「出席停止」の処置も可能であり、高等学校においては「謹慎」などの名称で、一時的に教室から離した特別な指導も行われています。そういう意味で、今回の大阪市の方針はこれまでの路線を「一歩進めた取り組みである」とも言えます。

しかし問題は、「(2)暴れる子どもの変容・成長につながる」といった実効性があるかどうかという点でしょう。もし実効性がなく、ただ彼らを教室から「隔離」することだけに終わっているとすると、個別指導の終了後に教室に戻ったら、再び同様の事態が生じたり、場合によっては、ますます問題の根を深めていくだけの結果に終わりかねません。

個別指導教室と在籍校での対応に、継続性・一貫性が必要

理念や意図は理解できても、具体的な問題は山積みです。果たして対象となる子どもが「特別指導教室」に自発的に登校するでしょうか?同じ校内であれば、「その場に連れていく」ということもできますが、もし登校しない場合はどうするのでしょう?

また、ある中学校の先生が「身体的にも大きくなった1人の中学生の暴力には、教員3人の対応が必要」と発言していましたが、果たして「個別指導教室」にそれだけの人的・予算的な措置の継続が可能でしょうか?さらに、怒りのコントロールや規範意識の育成には、教育や心理の専門家が関わったとしても、短期間で効果を上げるのは難しいと思われます。

現実問題として、子どもたちの成長がみられるまで「個別指導教育」を続けるのか、懲罰的意味で一定期間が過ぎれば在籍校へ戻すことになるのでしょうか?また、「個別指導教室」における対応と、その後に戻った在籍校での対応に継続性・一貫性がなければ、せっかく個別指導の効果を上げたとしても「元の木阿弥」になる可能性も考えられます

このように、現場での問題は山積みで、まだ肝心の「個別指導」の方法・内容については具体的な姿が見えません。しかし、混乱する学校現場を少しでも落ち着かせようとする意図は理解でき、しばらくは全国初の試みとして注目していきたいと思います。

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