漫画家・押見修造インタビュー「『スイートプールサイド』も『惡の華』も僕にとっては真っ当な青春」

DSC06454

「惡の華」「漂流ネットカフェ」など人気作を次々と生み出す漫画家・押見修造先生の初期傑作「スイートプールサイド」。毛のない男の子と毛深い女の子の青春剃毛ストーリーがまさかの実写映画となり、6月14日から全国公開となります。

映画『スイートプールサイド』は男子なのに毛が生えないことに悩む高校1年生・太田年彦(須賀健太)が同じ水泳部の毛深い女子・後藤綾子(刈谷友衣子)に「太田くん……私の毛を剃ってくれない?」と、とんでもないお願いをされる事からはじまるストーリー。

押見先生自身も映画を絶賛し、映画にインスピレーションを受けた番外編を執筆しています。今回は、押見先生に映画のこと、なぜ息苦しい青春を描き続けるのか、など色々とお話を伺ってきました。

sps_main_large

――まず『スイートプールサイド』が実写化すると聞いた時の率直な感想を教えてください。

押見:マジで!? って思いました(笑)。映画化するとは想定外でしたね。全編を通じてずっと毛を剃っているだけの作品なので、映画にしようと考える人がこの世にいるとは、と。

――映画化にあたり、先生から松居監督に意見を言ったりすることはありましたか?

押見:基本おまかせしようというスタンスではあったんですけど、思ったことは伝えた方が良いと思い、脚本にコメントした部分もあります。面倒くさい原作者だったかもしれません(笑)。

「生身の人間が演じるとどうしても生々しくなりすぎてしまうのでバランスが難しい」と監督がおっしゃっていて、生々しさは残しながらも、エグいAVの様にしたくはないと。

――このポスターもそうですが、屋外で毛を剃るというギャップも映像の面白さですよね。

押見:人に見られたらまずい事しているのに、周りはうららかっていう所が良いですよね。漫画では部室の中で毛を剃るので、その改変はすごく良いなと思いましたね。

――主演の刈谷友衣子さんは、前に出演していた映画『中学生円山』でもそうだったのですが、同級生の男の子が憧れてしまう神秘的な雰囲気がありますよね。

押見:気高い感じというか、タブー感がありますよね。ズケズケと触れてはいけない感じという説得力がすごくありますよね。撮影現場を見学させてもらった時にお会いして、刈谷さんは毛深く見える様なメイク、つけ毛をしていたのですが、それを知らなくて「本当に毛深い!?」と思ってちょっとドキマギしてしまいました(笑)。刈谷さんも須賀さんも本当に顔が小さくて驚きました。後、須賀さんは良い体してるんですよ。映像で見ると細くて高校生らしい華奢さがあるんですが、実際はほどよく筋肉がついていて格好良かったですね。

――そもそもこのお話はどういった発想から生まれたのですか?

押見:次回作は何にしようかと担当さんと話し合っている時に「毛の話はどうですか?」と言われたのがきっかけです。まさかここまで全編を通した毛の話だとは思っていなかったかもしれませんが。

僕は毛深くて、毛がイヤだったほうで、そんな気持ちを後藤にたくしています。同級生で毛が薄くてツルツルで、そいつが女子に触られていたりして、悔しかった思い出がありますね。

――映画にインスピレーションを受け書いたという、番外編も発表されましたが、どういう部分を新しく描きましたが?

押見:映画を観てすごく感銘を受けたので、それをふまえて自分なりに毛を剃るシーンを書いてみたいと思いました。もう、この作品を描いてから10年経っているので、今の自分の力を出せるだけ出してみようと。

――「毛に悩みを抱えている」という本作も、「好きな子の体操着を盗んでしまった」という「惡の華」も、はじまりは些細な事なのに、物語がどんどんマズい方に展開していく所が、いつもスゴイなあと思いながら作品を読ませていただいています。

押見:ありがとうございます。やっぱり、色んな事に「何でそんな事になるんですか?」と聞かれるんですよね。ビックリさせようとしているわけではなくて、こうなったらこうなるだろうという理詰めで考えているだけなんですよね。ずっと自分は普通の人間だと思っていたんですけど、やっぱり変なんですかねえ(笑)。

僕の作品って派手なわけでも無いし、アニメ化も実写化もやりづらいと思うんです。だから、お話をいただくとすごく嬉しいですね。映画化する作品って、するだろうなっていう共通の空気があるじゃないですか。

――「君に届け」とか。

押見:そうそう、「君に届け」も「スイートプールサイド」も「惡の華」も形は違うけど、これも同じ青春作品ですからね。僕の中では真っ当な青春なんです。

――青春って、大人になるとまぶしい事ばかりの様に思えてしまいますけど、実際はしんどい事の方が多いですよね。大人からすると大した事じゃないのに、本人からすると超重要という。

押見:狭い世界で完結していますからね。それを大人だからって「外出りゃいいじゃん」って思う気持ちが伝わらない様に書くのが難しいですね。周りからみると狭い世界も、本人にはそこが全てで切実なんですよね。昔と違って、今はLINEとか新しいツールは出ていますけど、根本的には僕の学生時代と変らないと思っていますし。

――悩みとか、抱えている問題とかは変らないと。

押見:高校生男子から手紙をもらって、自分の高校生の時そのままでしたね。「周りのヤツは馬鹿ばっかりだ」みたいな。千葉県・柏で暮らしている子だったんですが「このクソ田舎が」と書いてあって、柏ってそんな田舎じゃないのになあと思いつつ(笑)。「周りで惡の華を読んでいるヤツは“狂っている”とか“変だ”とか言ってるけど、そうじゃないですよね。俺はこの漫画の事をよく分かっています」と書いてあって、まだ変らずこういう子がいるんだって嬉しかったですね。

――その子にもぜひこの映画を観て欲しいですね(笑)。今の季節ともシンクロする、夏にピッタリな青春ムービーだなあと。

押見:2人の演技合戦が素晴らしいですよね。もどかしい部分、グッとくる部分がスクリーンから伝わってくる。このポスターからは、キャッチーな魅力を感じるかもしれませんが、騙されたまま観て欲しいですね。やっていることはバカバカしいんですが、自分たちがやっている事に大してまっすぐに向き合っている。これしか方法が無いからやっているんだっていうのが伝わって来る。とても切実な作品になっているので、観終わった後も吟味して欲しいです。

――どうもありがとうございました!

スイートプールサイド
http://sweetpoolside.jp

(C)2014松竹株式会社

  1. HOME
  2. エンタメ
  3. 漫画家・押見修造インタビュー「『スイートプールサイド』も『惡の華』も僕にとっては真っ当な青春」

藤本エリ

映画・アニメ・美容が好きなライターです。

ウェブサイト: https://twitter.com/ZOKU_F

  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。