改正安衛法によるストレスチェック義務化の懸念点

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労働者の心理的な負担の程度を把握するための検査を義務づけ

改正安衛法によるストレスチェック義務化の懸念点

働く人の安全と健康を守るための法律「労働安全衛生法」が、現在の通常国会で改正される見通しとなっています。様々な改正案がある中でも、特に注目したいのが「労働者の心理的な負担の程度を把握するための医師、保健師等による検査(=ストレスチェック)実施を事業者に義務づける」というものです(従業員50人未満の事業場は当分の間努力義務)。

メンタルヘルスの不調により、「連続1カ月以上休業」または「退職した労働者」がいる事業所の割合は、全体の8.1%にも上るというデータがあり、ただでさえ労働力不足が叫ばれる中で、社会的に大きな損失となっています(平成24年厚生労働省調べ)。今回の法改正で会社にストレスチェックを義務づけることにより、「働く人のメンタルヘルス不調を未然に防ぎたい」という狙いがあるようです。

プライベートが原因の不調もあり、ストレスチェックには限界も

厚生労働省が公表したストレスチェックの概要は以下の通りです。
(1) 会社が、労働者の心理的な負担の程度を把握するための医師、保健師等による検査(=ストレスチェック)を受ける機会を提供する。
(2)(1)の検査で問題が見つかった人の希望に応じて、医師による面接指導を実施する。
(3) 医師の意見を聞いたうえで、必要な場合には、作業転換・労働時間の短縮などの就業上適切な措置をとる。

会社が「ストレスチェックを行う」という今回の改正案ですが、ストレスチェックそのものに限界があるのも事実です。
(1)スクリーニングの限界
厚労省が例示したような簡単なテストで、働く上での心理的ストレスをすべて把握できるわけでありません。
(2)結果をよく見せたいという心理(歪曲)
たとえ、精神的な問題を抱えていたとしても、労働者自身がそれを隠そうとしてテスト結果が歪んでしまう恐れがあります。
(3)労働環境orプライベート
ストレスチェックで「問題あり」とされても、それが労働環境によるものなのかプライベートが原因なのかがはっきりしません。近ごろでは、プライベートが原因のストレスを会社のせいにして、会社に多額の補償をせまるような不当な労働者も現れています。

企業本来の業務への支障が懸念される

いったん「会社の過失によるうつ病(労災)」と認定されてしまえば、会社は大きなダメージを受けるため、最近では企業側もこういった問題に過敏になっています。もちろん、その結果としてメンタル不調にまつわる労災が減るのは望ましいことなのですが、あまり過敏になりすぎて、働く人がそれを悪用したり、企業本来の業務に必要な指揮命令・配置転換・社員教育などに支障が出ては困ります。

また、「ストレスチェックを行った」「そのときには問題が見当たらなかった」ということが、いざ問題が起きた場合の「免罪符」になってしまうようなことも「あってはならない」ことです。

色々と問題点が多いストレスチェックの義務化ですが、上手に活用されることで、一向に減らない過労によるうつ病自殺のような痛ましい事件が、少しでもなくなるよう願ってやみません。

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