100000tアローントコが選ぶ今月の一冊:SM、ピンク映画からふんどしパブ…まるですぐれた紀行文学!?『風俗の人たち』

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100000tアローントコ店主・加地猛さん

先月は「入門なしで、現物をドン!やねん」といきなり『ニーチェ全集II「善悪の彼岸 道徳の系譜」』を紹介してくれた『100000tアローントコ』の加地猛さん。「今月もお願いします!」と連絡をすると、「本、決めたで」と軽快なお返事がかえってきた。

さっそくお店に行ってみると、加地さんは『京都レコード祭り』の準備で忙しそうである。実は、『100000tアローントコ』は、どちらかというと古本よりも中古レコード・CDの取り扱いがメインなのである。せっかくなので、今月の本の話に入る前に『京都レコード祭り』のことも聞いてみることにしよう。

音楽&レコ好きが大集結! 『京都レコード祭り』ふたたび開催

第二回京都レコード祭り

音楽データのダウンロード販売が始まる以前、音楽メディアの主流はCDだった。そして、CDが一般に普及する1980年代前半までは、みんなポリ塩化ビニルでできたアナログレコードで音楽を聴いていた。そしてレコードは、1990年代のDJブームを最後に音楽メディアの歴史から消えてしまう……と思われていた。

ところが昨夏、レコードファンの世界に激震が走った。京都のレコード屋さんたちが集まって開催した京都で初めてのレコード市『京都レコード祭り』がまさかの大ヒット。旧来のレコードファンのみならず、20代の若い女の子までがやってきて楽しげにレコードを買う姿が見られたのである。この光景には、京都の全レコード屋が涙した…(と思われる)。

そんなわけで、今年は『第二回 京都レコード祭り』を今週末の二日間に渡って開催。デジタルネイティブだからって、デジタルの世界しか知らないなんて世の中の半分しか知らないみたいなものじゃないか! とまでは言わないけれど、アナログの世界もなかなかよいものです。今年の参加店舗数はなんと29店! ライブ、DJ、イベントもあり!

ちなみに、『書店・ブックカフェが選ぶ今月の一冊』に登場した『ガケ書房』店主山下賢二さん[LINK]、『恵文社一乗寺店』店長堀部篤史[LINK]さん、『HiFi Cafe』店主(Silk Records)吉川孝志さん[LINK]も出店予定だ。

第2回京都レコード祭り
日時:2014年5月31日(土)11時〜20時
   6月1日(日)10時〜19時
場所:ZEST御池(河原町広場)
アクセス:京都市営地下鉄東西線『京都市役所駅』下車スグ
ウェブ:http://kyotorecordmatsuri.blogspot.jp/

100000tアローントコが選ぶ一冊:永沢光雄『風俗の人たち』

100000tアローントコが選ぶ今月の一冊『風俗の人たち』

書名:風俗の人たち
著者名:永沢光雄
出版社名:筑摩書房

さて、今回加地さんが選んでくれたのは『風俗の人たち』。AV女優へのインタビューをまとめた『AV女優』で評価を受けたノンフィクション作家、故・永沢光雄氏の著作である。『風俗の人たち』は、『AV女優』を上梓した翌年にあたる1997年に出版。『AV女優』同様、風俗業の現場にいる人たちへのインタビューを元に編まれた本だ。

いちおう、「今、なんでこの本が面白いのか?」聞いてみると、「たまたまこないだ入荷して思い出したから」とのこと。

「この本はちょっと好きやから、初版ってこともあって値段は500円をつけてみました。珍しい本じゃないし、普通だったら200円コーナーに置くんやけど」。

ポンと本を手渡された。目次を開くと、テレクラからはじまって、ストリップ、ダッチワイフ、ニューハーフ、幼児プレイ、ホストクラブ等々、ざっと数えて66種類の“風俗”が並んでいる。なんだか、刺激的な言葉が多すぎて目がチカチカしてきた。

ちゃんと、この取材に備えて『レズバー』のところにしおりを挟んでおいたから、ちょっと読んでみて」と言い置いて、喫煙コーナーへ消えてゆく加地さん。しかたなく「レズバー」のページを開く。レズバーとはレズの女性が集まるバーのことらしい……。

短いハードボイルド探偵小説、はたまた『闇金ウシジマくん』

100000tアローントコが選ぶ今月の一冊『風俗の人たち』

「レズのことをお書きになるんでしたら、ちゃんと調べて書いて下さいね。決して興味本位じゃなく。」
(『風俗の人たち』P136より)

『風俗の人たち』は、描かれる人たちのいる世界こそ非日常的ではあるが、書かれているのはあくまで日常の風景である。たとえば「レズバー」なら、そこに集う人たちの日常の会話が写し取られている。タバコを吸い終わった加地さんが戻ってきて「すぐれた紀行文学やろ?」と言う。たしかに、そんな言い方がぴったりくる。

ひとつの項目につき7〜8ページ。「短いけど、一つひとつがハードボイルド探偵小説みたいや。『闇金ウシジマくん』にも通じると思うねん」と加地さんは言う。

「『闇金ウシジマくん』は、基本的にお金を借りなければやっていけない人たちのどうしようもないしっちゃかめっちゃかを描いているマンガやけど、ウシジマくんは概ねお金を貸しているだけで、ただ傍観者として見送ってる感じやねん。その感じが『緑色のウンコを食べる』とか奇態なことを目撃してしまうときの永沢さんの見方に似ているのかなって」。

永沢さんが小説家を志していたということもあるせいか、「ハードボイルドかつややロマンチック」な筆づかいも感じる。「変態クラブ」の冒頭には、アメリカのハードボイルド探偵小説からこんな一文が引用されていた。

「マットと言います。今日は聞くだけにしておきます」
(ローレンス・ブロック、出口俊樹訳『八百万の死にざま』)

『100000tアローントコ』について

京都『100000tアローントコ』

店名:100000tアローントコ
住所:京都市中京区寺町御池上がる上本能寺前町485モーリスビル2F(京都市役所西側)
ウェブサイト:http://100000t.com
京都市役所横、寺町御池上る40歩。古本、レコード、CD、DVDなどの中古品をいろいろ扱っている。古本、レコード、CDなどの掘り出し物発見率と高価買取っぷりには定評がある。

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Kyoko Sugimoto

京都在住の編集・ライター。ガジェット通信では、GoogleとSNS、新製品などを担当していましたが、今は「書店・ブックカフェが選ぶ一冊」京都編を取材執筆中。

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