どんだけマッチョじゃないと起業できないんだ、日本は

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My Life in MIT Sloan

起業というのは特別な人だけができるものではないのかもしれません。今回はLilacさんのブログ『My Life in MIT Sloan』からご寄稿いただきました。

どんだけマッチョじゃないと起業できないんだ、日本は
人材の流動化と企業に関するエントリは、私の考えも尽きたので、何か動きがあるまで、前回の記事*1 をもっていったん寝かせておこうかと思ったんだけど、Willyさんが面白い記事を書いてくれたんで、ご紹介がてら。
*1:「一流企業の正社員」も流動化が出来る社会へ」-『My life in MIT Sloan』
http://blog.goo.ne.jp/mit_sloan/e/c16956561b07a1c4694d8bec9c507316

だって彼、最近はChikirinさんにご執心 *2 みたいで、最近全然あたしのところに来てくれなくて、寂しいんだもの(と売れないホステスみたいなことを言ってみる)。
*2:「大卒の内定率が3割になっても雇用神話は崩壊しない」-『統計学+ε: 米国留学・研究生活』
http://wofwof.blog60.fc2.com/blog-entry-306.html

「起業したい若者に対する大人の本音」-『統計学+ε:米国留学・研究生活』
http://wofwof.blog60.fc2.com/blog-entry-308.html

Willyさんは、読売新聞が運営している『発言小町』という、半ば人生相談質問サイトになっているところで、就職活動をやめて、自分で起業しようと思っている大学3年生になりきって、投稿をした。

質問の内容は、不確実な時代なので食品業界がいいと思っている。しかし、食品業界の大企業の就職活動がバカバカしすぎてやっていられない、だから起業しようと思う。それで、起業アイディアについて簡単に説明して意見を請うているもの。

それに対して様々なコメントがついたので、Willyさんはその一部を取り上げて整理している。

こういうウソ投稿がいいのかどうか、というのはともかくとして、最近はずっとアメリカにいる私が一番驚いたのは、

「たかが企業にも就職できない人が、起業して成功する訳がない」
「本当にそんな覚悟はあるのか?」
「起業するのはいい考えだと思うけど、すごく大変だよ?」
「逃げてる気持ちでは、起業は成功しません」

という反応が全体的にかなり多いことだった。

Willyさんが、ご自身の記事でこの点については全く展開されていないから、私が書いてみることに。

1. 企業に就職するのは面白くない、上司が嫌だから、というのは起業動機として不十分か?

2年もアメリカに住んでいると-しかもボストンだのシリコンバレーだの、起業家の街に住み、そのコミュニティの中核であるベンチャーやビジネススクールで働いてると、「上司に仕えるのは嫌だ」という「逃げてる」理由で、起業する人をたくさん見かけるので、それが普通になる。

以前MIT(マサチューセッツ工科大学)に講演に来たシリアルアントレプレナー(複数の起業を起こした人をそう呼びます)の人は、「最初に起業した理由?そんなの最初に入った会社の上司がクソだったからだよ。」と言っていた。会社を辞めてプーになったので、生活のために何かしなくてはならない、それで一生懸命アイディアを練ったのだそうだ。とにかく大きな組織が嫌いで、自分が起業した会社も、だんだん大きくなってくると嫌になるそうだ。だから、大きくなったら人に譲って、新しい会社を作る。彼は、今ではボストン界隈(かいわい)ではかなり名の知られたシリアルアントレプレナーである。

「それは彼がそんな才能がある人だったから成功したんでしょ?普通は・・・」というかもしれない。しかし、彼だけでなく、起業して成功した人も、失敗した人も、失敗の後成功した人も、同じことを言う。

私がボストンやシリコンバレーで会ってきた100人以上の起業家や学生の5割は「会社づとめが嫌い」「大きな組織が嫌い」という理由で起業を考えていた(残り5割は、「縁があった」「そのほうがもうかると思った」「技術が大企業にRejectされた」など)。

起業するのに、そんなすごい理由や覚悟は、本来必要ないはずなのだ。やっているうちに、徐々にやりがいとかが見えてきて、理由が見つかってくる。社員を何人も抱えるうちに、覚悟が生まれてくる。そういうもんじゃないの?

ところが、大企業に就職し、出世街道に乗ることが成功と認定される日本の「世間」では、その道を外れることに、最初から相当の覚悟と理由を強いられる。それだけの覚悟なしに、若者が起業したいというのは「甘い」「逃げている」と思われる。これが『発言小町』の反応に凝縮されていたのではないかと思う。

コメントに「起業はいつでも出来ますが、大企業には新卒じゃないとは入れないですよ」というのがあった。そこにも「覚悟」を強いる理由があるだろう。

アメリカだったら、起業に失敗しても、就職できるし、ブランドが大事な超大企業に入りたかったら、一度MBAに行ってロンダリングして、入ればよい。

こういう仕組みの問題が、日本ではマッチョじゃないと起業できない理由なのだ。

2. 起業するのに、そこまで練りこんだビジネスプランや資金調達策が最初から必要なのか?

Willyさんなりきる大学三年生が提案したのは「地元の老人たちに弁当を宅配する弁当屋さん」。

これも、ボストンだったら、「ふーん、うまく行くかはわからないけど、まあやってみたら?」程度のレベルで、別にそこまで否定するものでもない。ビジネスとして規模拡大するのは困難を伴うだろうが、家族経営規模ならいいんじゃないでしょうか、って感じだ。

しかし『発言小町』での回答には、
「資本金のこと考えてる?大丈夫?」
「そんなビジネスで本当にうまく行くの?ちゃんと考えてる?」
「そんなの凡人の私でも思いつく。大丈夫か?」
「銀行は経験のない学生にはお金を貸しませんよ?」
というものが目立つ。

その反応は、日本においては「おっしゃるとおり」だ。かなり好意的に、真剣に回答してくれているものが多い。『発言小町』の人っていい人多いじゃん、と私は思った。

つまり、今の日本は練りこまれたビジネスプランと資金調達策がなければ起業できないのだ。ベンチャーキャピタルや起業家コミュニティみたいな、起業を手助けしてくれるリソースが余りに少ないからだ。

最初から練りこまれたプランを持ち、資金調達元が見えている人じゃないと成功しないってことなんだろう。これが、ボストンやシリコンバレーだと、もっと敷居が低くなる。

私はMITで『$100Kビジネスコンテスト』の主催者を一年間やってきて、色んなビジネスプランを見て、エレベータピッチを聞いてきた。ボストンのベンチャーキャピタルや起業家を審査員として招いて、審査してもらう。そこに出てくるビジネスプランは、大方たいしたことがない。

そこからどうやってプロの審査員が選ぶかと言うと、「業界の見方がセンスがある」「この学生にはカリスマを感じる」という理由だったりする。もちろん中にはビジネスプランの素晴らしさや、技術力で選ばれるものもたくさんあるが、もっとポテンシャルを見ている。

何故なら、ビジネスプランを練りこむなんてのは、プロがたくさんいて、いくらでもサポートしてあげられるからだ。

『$100K』でも、採用されたチームは、ベンチャーキャピタルのプロや起業家がアドバイザーとなって、ビジネスプランを練ってあげる。こうしてプロの力を得て、学生のつまらないビジネスプランが、光り輝くものに育っていったりする。最終的に良いものに仕上がれば、お金もつぎ込んであげる。

これは、『Stage A』などのEarly stageを対象とするベンチャーキャピタルが、投資決定をする際も同様だそうだ。

もっと、その人に光り輝く何かがあるか、センスがあるか、起業家として育てられるか、と言うところを見て決めるらしい。そして、ちゃんとお金もつぎ込む。

だから、こういう起業家の街に住んでる私は、いちはやく日本にもベンチャーのコミュニティや真のベンチャーキャピタルを作らなければ、と思うのであった(もっとも、弁当屋の起業くらいだと、規模も小さいのでベンチャーキャピタルは入ってこないけどね(笑))。

3.起業するのに、財務・経営能力人を使った経験が最初から必要なのか?

これも同様。引用はしないけど、「発言小町」には大学三年生の経営者としての経験に疑問符を持つ人が多いようだ。そして、日本なら、それはYes、なのだ。

一方で、人を使った経験がないなら、人を使った経験がある人を雇えばいいんじゃないか、財務が分からないなら、財務が分かる人を雇えばいいんじゃないか、というのが、恐らくアメリカの起業家の回答だろう。

Willyさん扮(ふん)する大学三年生は「自分は料理は出来ないが、愛犬散歩仲間にパート先に困っているベテラン主婦がいるから一緒にやろうと思う」と書いているが、まさにこの発想。

しかしながら、年功序列の社会で、色んな経験と知識がある人が、経験は余りないがアイディアやエネルギーあふれる若手経営者の元で働くってことが考えられない日本じゃ、中々受け入れがたいのかもしれない。

別にアメリカだって、年功序列じゃないけど、年齢が低いとバカにされるって多々ありますよ。だから、若手起業家はひげを生やしたり、少しでも年上に見られるようにするし、みんな年齢をひた隠しに隠します。

アメリカの起業家コミュニティじゃ、女性に対してだけでなく、男性に対しても年齢に関する質問はご法度です。それでも、「この起業家と一緒にやれば可能性がある」と言う人には人がつくんです。それに、弁当屋だったら最初は家族経営だし、そこまで考えることないよね?

話がずれたけど、そんなすごい経験がなくても、別に起業はできるわけです。日本でも学生で起業して成功してる人たち-『はてな』とか『mixi』とか、みんなそうでしょ?

日本で「経験がないから」「資本金がないから」「十分な技術がないから」起業できない、と言ってるのを見るにつけ、私はバングラデッシュの女性たちが、同じ理由で起業できずいつまでも貧乏なままだったのを、グラミン銀行が「マイクロファイナンス」を始めたことで、機織りとか籠(かご)あみで起業できるようになり、村の経済が活性してきたのを思い出す(日本の「起業しにくさ」は途上国レベルだって話デスよ)。

早く既存の「世間体」や旧来の資金調達の仕組みを破壊し、新しい技術・資本・人材の生態系をつくるのですよ。失敗してもいいじゃない。まずはチャレンジしてみれば。

ボストンでもシリコンバレーでも、別にそんな失敗を恐れず、大したことない凡人が起業してる。もちろんたくさんの人が失敗するけど、いろんな人に支えられて成功する人もいる。そういうことが出来る、仕組みや、人々の心の受容性などがあるわけだ。

「凡人でも、マッチョじゃなくても起業できる国にする」

これが、今後の日本の経済成長の鍵(かぎ)のひとつだと思う。

執筆: この記事はLilacさんのブログ『My Life in MIT Sloan』からご寄稿いただきました。

文責: ガジェット通信

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