がん治療、未承認薬使用へ。効果と懸念点
未承認薬を臨床試験に参加していない患者にも使えるように
厚生労働省は、開発最終段階の未承認薬について、臨床試験に参加していない患者にも使える制度を2015年度から本格的に導入する方針を決めました。がん治療における未承認薬の使用は、どのような意味を持つのでしょうか?
がん患者にとって、「治療がありません」と言われることは非常につらいことです。欧米で使用されている薬剤が投与されることで、一部の患者が助かるのであれば、こんなに嬉しいことはありません。しかし、欧米では日常的に使用されている薬剤が、日本で使うことができない例があります。日本で薬が製品化の承認を得るには、製薬企業が患者に投与して、安全性や効果を日本人で確かめる必要があるのです。この臨床試験を「治験」と呼び、その結果により、副作用が少なく、効果が高いと判断されれば医薬品となり、一般の患者に処方されることとなります。
しかし、その治験の対象患者は、病気の重症度ではなく、年齢や持病の有無などで絞られています。例えば、心臓病や腎臓病の持病を抱えるがん患者が抗がん剤の治験に参加できない場合もあるのです。そのような患者は、治験開始から約数年かかる発売を待たないといけないことになります。
欧米で効果が出ても、日本人に効くかどうかはわからない
未承認薬の懸念点は、「本当に日本人にも効くのか」「日本人に重大な副作用が出て調子が悪くならないか」ということです。欧米で素晴らしい臨床研究の結果があり、ニュースを賑わす未承認薬もあります。しかし、臨床研究においては、年齢、基礎疾患、病気の重症度、他のがん治療の有無などをそろえるために、研究に参加できる患者を絞っています。そのため、「一部の患者には効くが、その他は効くかどうかわからない」あるいは「一部の患者には副作用がないが、その他の患者にはわからない」ということが懸念されます。
また、日本人において最も効果的で副作用のない使用量も、体格や人種、遺伝子が異なるためわかりません。現在、日本で行われている抗がん剤や手術、放射線療法をうまく組み合わせた方が、症状が良くなるという場合もあります。すぐに新しい情報に飛びつくのではなく、現在ある治療法で対処できないか、主治医と相談することも重要です。
がん患者がさまざまな治療を選択できるようになることを期待
新しい制度では、明確なデータを出そうと企業が対象患者の条件を厳しく設定して行う治験と並行して、医師が別の治験を行い、企業の治験に加われない患者にも薬を使えるようにします。実施にあたっては、専門性の高い医師らが協力して治験計画を立て国に提出して許可を得て行うため、治験薬は無料で提供されることになります。
しばらくは、企業が開発の終盤に入り一定の安全性が確認されている抗がん剤に限定されますが、この制度により、多くのがん患者が早くさまざまな治療を選択できるようになることを期待します。
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