日野トミー「“敵国じゃないか!”と言われた」 中国でのアニメスタジオ設立体験記『なんで私が中国に!?』出版記念インタビュー
アニメを作るために日本から西安に渡った
驚異的な経済発展を続ける中国。国内総生産(GDP)は今や日本を抜いて世界第二位である。人口は13億人と世界一を誇り、巨大国家でありながら事実上の共産党一党独裁制を敷く。
そんな中国で、日本から西安に渡った一人のクリエイターがアニメスタジオ設立体験を記したマンガ『なんで私が中国に!?』が8月21日に出版された。「ある時は信頼すべき仲間として、ある時は恐るべき脅威として」(同書より引用)注目を集める中国だが、一人のクリエイターの目にはどのように映っていたのだろうか。
作者は日野トミーさん。イラストレーターやデザイナー職を経て、アニメ『秘密結社鷹の爪』で有名な映像作家FROGMAN氏に師事。その縁もあって、同書にはFROGMAN氏の推薦文も掲載されている。作者は現在アニメ、イラスト、コミック執筆と多岐に渡り活動中とのこと。
今回、日野トミーさんから直接、出版の経緯などをうかがうことができたのでその内容をお届けしたい。
元自衛官の父から「敵国じゃないか!」と言われる
——中国でのアニメスタジオ設立体験記、しかもマンガというのはなかなか珍しい内容ですが、どのようなきっかけで中国へ行くことになったのですか。
日野トミー(以下、トミー): 元々はカンボジア行きの予定だったんです。興味があったので行ってみたかったのですが、お世話になっていた会社の社長から「中国でスタジオ作るから誰か行ってくれないかな〜(チラッチラッ)」と言われたので、成り行きで。普段からネットでネタに上がりやすい国だったので、怖いもの見たさもありました。
——作品中に、ご両親に報告をするシーンがありますが、元自衛官のお父様から「敵国じゃないか!」と言われるシーンがありますね。
トミー: 父は防衛大学時代に中国史専攻だったんです。だから良い面も悪い面も非常に造詣が深くて。『素晴らしい国だが、文革(文化大革命)以降からおかしくなった』と言っていました。愛するが故の憤りなのかもしれません。
——スタジオ設立に当たっては、どのような役割を担われたのでしょうか。
トミー:日本の会社から派遣されたのですが、その会社の社長が経営者仲間と共同で西安にスタジオを設立することになったんです。私は日本からアニメ監督として参加しましたが、人集めから始めたので、通訳を介して面接をしたり、技術的指導などもしました。
——日中間の文化的差異に翻弄された描写が数多くありますが、ポジティブ・ネガティブ面で、どのようなことが印象に残りましたか。
トミー: ネガティブな面としては、雑、大味、大ざっぱ。これはアニメに限らず、日常生活においてもそうです。例えば、屋根の掃除をするとして、日本人だったら屋根を掃除した後に下に落ちたゴミも一緒に掃除すると思うのですが、中国ではこれが逆だったりします。何というか、何も考えていないのか、そうでもないのか…………。日本人が細かすぎるのかもしれませんが。
ポジティブな面としては、残業をしたがらない、ということ。これは悪い意味ではなく、早く家に帰って家族と過ごす時間を大切にしている、ということです。もともとこの辺の時間の使い方は日本と全く違うようですね。しかしアニメ業界に身を置く限り、長時間の就業というのは避けられない事の一つなのかもしれません。
日本企業が中国に進出する場合は、こういった中国の文化を理解して歩み寄る事が大事だと思うのですが、納期もあるので難しいところです。
——アニメに関しては、クオリティ管理なども含めて、監督として現地でどのような苦労をされましたか。
トミー: マンガにも描かれていますが、やはりセンスの差異は埋めようがないところがあります。上手い人は上手いのですが、どうしても技術的に無理!と思ったスタッフは、そこで諦めて別の仕事を振っていました。いくら日本のアニメが好きです、と言われても、仕事では割りきらなければいけないので、少し切なさを感じました。ただ、面子を重んじる国だからか、とても負けず嫌いな人が多く、勝手にその作業を続けようとする人もいました。
——頑張って日本語で話しかけてくる助手のエピソードや、スタッフ同士の軋轢から和解に至るまでのエピソードなど、実に多くの体験が描かれていますが、この本では描き切れなかったエピソードはありますか。
トミー: あっ、そういえば一つエピソードを描き忘れていたんです。最後の方で、スタッフ全員でアニメコンテストに出品するための作品を作るエピソードがあるのですが、それ、オチを描き忘れていました。結局その作品は入選しなかったという話を帰国後に聞いたのですが、帰国する前に私が描いたスタッフ全員の似顔絵を、エンドロールに使ってくれていたんです。ちょっといい話でしょ?
デモの最中、自転車屋の店主に「日本人かい」と聞かれ……
——作中では2010年10月の西安反日デモについても描かれています。恐怖を感じた反面、中国人スタッフは常に友好的だったという体験が描かれていますが、実際にどのような印象を受けましたか。
トミー: 西安には日本人会という集まりがあって、そこが自主的に外出禁止令を出していました。だからあまり日本人が攻撃を受けたということはなく、むしろ現地の中国人がとばっちりを受けた面が大きかったようです。
あのデモの最中、用事があってどうしても自転車で外出しなければならなかったのですが、帰りにパンクをしてしまい、自転車屋に寄らざるを得ませんでした。自転車屋のおじさんから「日本人かい」と聞かれてビクビクしていましたが、「そうかい、遠くから大変だね〜」という、ユル〜い返事が返ってきました。すぐ外でのデモと、自転車屋の中の空気感の差が、なんとも不思議な感じでした。
——最後に、読者の皆様に一言お願いします。
トミー: 確かに中国は怖いです。合わないところもたくさんあります。でも私が体験した限りでは、思ったほど恐怖を感じたわけではないし、市民レベルではネットに書かれるほど怖くはありませんでした。やはり自分の肌で感じたことが全てだと思っています。その体験を存分に描きましたので、是非多くの方に読んでいただきたいです
——ありがとうございました。
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アジアの交流については何かと話題になる昨今、ひとつの実体験レポートとしても非常に楽しめる一冊だ。
『ぎりぎりしーあん』公式ブログ
http://girigiri-xian.blogspot.jp/日野トミー公式サイト
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架空紙幣作家。4歳の頃、聖徳太子の一万円札の美しさに心を奪われ、紙幣デザインフェチとなる。現在では架空紙幣創作のほか、架空新聞記事、架空広告、合成写真を用いた隣接世界訪問写真などを創作している。
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