【制度の壁を越えて生まれた“地域の縁側”】介護・保育・就労支援を一体に。 高齢者・子ども・障害のある人がゆるやかにつながる「アンダンチ」9年目の現在地|宮城県仙台市

宮城県仙台市若林区にある「アンダンチ」は、医療との連携を基盤に、住まい・介護・保育・食・就労支援・地域交流など、多様な機能を重ね合わせた多世代交流型複合施設。高齢者、子ども、障がいのある人、地域住民など、さまざまな人が自然に交わる“地域の縁側”のような役割を担っています。開設から9年目、「アンダンチ」は、どのように生まれ、どのようなつながりや変化を生み、どんな未来を描いているのか。運営元の未来企画代表取締役の福井大輔(ふくい・だいすけ)さんに話を聞きました。
さまざまな人が混じりつながる“地域の縁側”としてのアンダンチ
仙台市若林区にある「なないろの里」。もともと田畑が広がっていた地域で、東日本大震災後、土地区画整理事業によって宅地化が進みました。その一角に、ひときわ暖かい陽だまりのような場所、多世代交流型複合施設「アンダンチ」があります。
「アンダンチ」入口。道路との境界線に垣根はなく、地域の子どもたちが庭で遊ぶことも(撮影/伊藤トオル)
約1000坪(約3300平米)の豊かな緑に包まれた敷地には、多彩な施設がゆったりと配置されています。介護付き有料老人ホーム「アンダンチレジデンス」をはじめ、看護小規模多機能型居宅介護事業所や保育園、地域に開かれた「あんだんち食堂」、障がい者就労継続支援B型事業所、駄菓子屋などが同居しています。
「アンダンチ」は、仙台の方言で「あなたの家」を意味する「あんだんち」から名づけられ、「チ」には「地(場所)」や「知(知恵)」という意味も込められています。2018年7月のオープン以来、2019年に仙台市の「四方よし」企業大賞を受賞、2022年版(令和4年版)厚生労働白書でも、その取り組みが紹介されました。このように注目されるのはなぜでしょうか。
「高齢者介護や障がい者福祉、保育園といった制度が異なる分野は、縦割りで運営されることが多いと思いますが、『アンダンチ』では、そうした異なる制度や事業を同じ場所に重ね、それぞれが日常的に関わり合う環境をつくっています。各施設を個別に見れば新しさはありませんが、異なる分野を同じ場所に配置するだけでなく、それぞれの事業やそこにいる人たちが日常的に関わり合うよう運営しているところに、ひとつの特徴があると思います。開設から9年目を迎えた今も、継続的に運営できていることも評価の一因ではないかと思います」と福井さんは話します。
「アンダンチレジデンス」入口。雨雪や日差しを遮る軒や格子戸、庭に家庭的な雰囲気が漂う(撮影/伊藤トオル)
一見カフェのような佇まいの「アンダンチレジデンス」に入ると、入口横に駄菓子屋があり、対面式のエントランスキッチン、薪ストーブがある応接間のような談話室、広い共用リビング、畳敷きの休憩室、入居者の個室などがあり、入居者は、それぞれの生活リズムや過ごし方を大切にしながら暮らしています。
地域の子どもたちも買いに来る「駄菓子福のや」。店番は当初、レジデンスの入居者に依頼することを想定していたが、就労支援の利用者が担っている(撮影/伊藤トオル)
レジデンスでは、就労支援のメンバーが作業に熱中する姿があり、散歩から戻ってきた車椅子の高齢者が職員と会話を交わし、料理のにおいや笑い声、さまざまな音や声が混ざり合う。敷地内の庭では、保育園児と保育士が遊ぶ姿があり、ヤギがのんびりとくつろぎ、地域住民がランチを楽しみに食堂を訪れ、午後は近くの小学校の子どもたちが庭に立ち寄るなど、世代や立場を越えた交流が日常的に生まれていました。
「アンダンチは、高齢者だけが閉じた空間で暮らす場所ではありません。子どもや地域の人、障がいのある人など、いろいろな人が自然に交われる“地域の縁側”のような場所でありたいです」と福井さんは語ります。
地域に必要なものを重ねた先に、多世代が交わる場所が生まれた
アンダンチの“ごちゃ混ぜ”は、特別な発想から生まれたのではありません。「こういうものがあったらいいな」「地域にこういうものが必要ではないか」と考え、ひとつずつ機能を重ねていった結果として、自然に形づくられたものでした。
談話室にて福井さん。早稲田大学スポーツ科学部に入学し上京。在学中に海外へバックパック旅行を経験するなど視野を広げ、卒業後は商社に就職し仙台市にUターン(撮影/伊藤トオル)
始まりは、腎臓内科医の義父がクリニックを開業した後、高齢の透析患者が週3回透析に通うのは大変だという声を受け、「患者さんが安心して通院できる暮らしのケアができないか」と相談されたのがきっかけでした。福井さんはその相談をきっかけに商社を退職し、介護事業の立ち上げに踏み出しました。当時は復興需要で建設費が高騰していたため、まずは介護事業で基盤をつくり、タイミングを見て住宅事業に展開する方針を立てました。
最初に立ち上げたのは小規模多機能型居宅介護でした。開設から8カ月ほどは利用者や職員の確保に苦労しましたが、1年ほどで軌道に乗り始めました。その経験から、通い・泊まり・訪問介護・訪問看護を一体的に提供する「看護小規模多機能型居宅介護」と自宅で暮らすことが難しい方の住まいの必要性を感じ、事業を広げていきました。
広い庭は公園のよう。季節の花を見ながら散歩するのも楽しい(撮影/伊藤トオル)
転機となったのは、銀行から紹介された1000坪の土地です。「当初は約500坪の土地を探していて分割購入も可能でしたが、借入れできるなら思いきって1000坪全体を使いたいと思いました。東京にある訪問看護ステーションに併設された『暮らしの保健室』のような、医療・介護について気軽に相談できる『よろず相談所』や、健康を育む食堂、就労支援、保育園と、自分たちがやりたいことと、地域に必要とされることを重ねながら、ひとつずつ機能を組み合わせて、今の形になりました」と福井さんは振り返ります。その計画は銀行の理解も得られ、プロジェクトは一気に広がりました。
「施設の設計コンセプトはシンプルに、『自分が入りたいか』『自分が入ったら楽しいか』だけでした。高齢者にしか会わないのは楽しいか、外部の人と触れ合えたらもっと楽しいはずだと。ここに暮らす人も、訪れる人も構えず自然体でいられる空間にしたかったんです」。そうした考え方は、施設らしさを抑えた、住まいとしての柔らかな空間づくりにも表れています。
「アンダンチレジデンス」の入居者の約7割は宮城県内からで、残りの3割弱は県外から。仙台市に住む子世代が遠方から親を呼び寄せるケースや、縁もゆかりもなく東海地方から夫妻で移住してきたケースなどがあるそうです。
多機能が生み出す相乗効果と、役割がめぐる仕組み
「アンダンチ」に集まる施設と人は、互いに作用し合い相乗効果を生んでいます。なかでも中心的な役割を担うのが、「アスノバ」の障がい者就労支援事業所(就労継続支援B型)で、就労支援の活動は、単なる作業ではなく、施設全体の運営を支える“役割の循環”を生み出しています。
2階部分の三角形のフォルムが目印の「アスノバ」。就労継続支援B型の多目的室、作業室、地域交流を目的としたコミュニティスペースを完備(撮影/伊藤トオル)
就労継続支援B型の利用者は、環境整備班・物販班・ものづくり班の3つの班に分かれ、本人の希望や得意なことに応じて活動を選べることも特徴です。
新聞紙を使って、駄菓子屋や食堂で買い物をした方に渡す紙バッグを製作する就労継続支援B型の利用者たち(撮影/伊藤トオル)
「就労継続支援B型の利用者さんには、あんだんち食堂でのランチ前の床掃除や窓ふき、保育園のお昼寝中のおもちゃ消毒などをお願いしています。彼らがこうした作業を担ってくれることで、保育士や調理スタッフは本来の専門業務に集中でき、非常に働きやすくなりますし、利用者との交流も生まれます。アスノバのメンバーが、結果として事業と事業、人と人をつなぐハブのような存在にもなっています」
このように歯車がかみ合い、それぞれの得意や役割が重なり、互いの仕事や暮らしを豊かにする関係、それがアンダンチの“多機能の力”と感じます。
真面目に丁寧に取り組む就労継続支援B型の利用者。それぞれの得意を活かした仕事が、アンダンチの日常に欠かせない役割となっている(撮影/伊藤トオル)
「アンダンチ」のもうひとつの特徴は、暮らしを過度なルールで縛らないことです。「コロナ禍は面会制限を続ける施設が多くありましたが、ここは施設である前に、その方の『住まい』です。感染対策はもちろん必要ですが、暮らしの自由まで過度に制限してよいのだろうか、という思いがありました。そこで、クラスターが発生したとき以外は面会制限を設けませんでした」
夜間の外食や外出についても、必要な連絡や安全面の確認を行いながら、できる限り本人の希望に寄り添い、食事時間も時間の幅をもたせるなど、入居者の自由な暮らしを尊重しています。「ある程度のルールは必要ですが、一方的に押しつけるのではなく、極力歩み寄りたいと思っています」
制限が多い集団生活の中で、入居者の自由な暮らしを尊重する。こうした姿勢からも、施設でありながら「その人自身の暮らし」をできる限り守ろうとする考え方が伝わってきます。
食事時間も一斉にスタートではなく、それぞれの都合を大事に。ときには外で好きなものを買ってきて食べるのもOK(撮影/伊藤トオル)
明るい表情で働く若いスタッフ。保育施設、福祉施設は人材不足が叫ばれているが、アンダンチでは開設当初を乗り越え、現在はWebサイトでの発信や口コミなどを通じて安定した応募があるそう(撮影/伊藤トオル)
また、「アンダンチ保育園(企業主導型保育園)」を併設したことで、スタッフが子どもを預けながら働ける環境が整い、採用にもプラスに働いています。19名定員で今年度は5名のスタッフの子どもが保育園を利用しており、育休・産休後に預けるスタッフも想定以上に多いそうです。
「アンダンチ保育園」は子ども19名に対し保育士やパート職員を含めスタッフが12人おり、子どもと濃密に関われているそう(撮影/伊藤トオル)
保育園児と入居者が一緒に散歩をする試みも行われており、長年保育士として働いてきたレジデンスの入居者が、週2~3回、1回1時間程度、読み聞かせや手遊びなどを通して園児と交流しています。子どもたちにとって多世代と自然にふれ合う機会になると同時に、入居者にとっても、これまでの経験を活かしながら人とつながる時間になっています。
アンダンチの理念に基づき、多様な人たちと交流し、それぞれの個性を受け入れる人間としての基礎を大切にした保育を行っている(撮影/伊藤トオル)
また、「あんだんち食堂」では、食は日々の健康や豊かな暮らしを支える大切な要素だという考え方から、寝かせ玄米を中心に管理栄養士が監修し体に優しい和食メニューを提供し、地域の人も気軽に利用しています。「食堂が地域の人の入り口になっていて、食を通じて自然に人が集まる場所になりました」と福井さんは語ります。
「あんだんち食堂」では、もちもちとした食感と甘みが特徴の「寝かせ玄米」や、地産地消の食材を採り入れ、出汁や調味料まで丁寧に手づくりするなど、こだわりをもって料理を提供している(写真提供/未来企画)
こうした環境が、入居者の暮らしや健康、介護のあり方にどのような影響を与えているのか。福井さんは「感覚だけで良いというのではなく、これからはデータでも確かめていきたい」と話し、入居年数や介護度の変化などの整理を進めています。
地域や自治体、家族との連携など、施設内で完結しない福祉
施設内での交わりだけではありません。看護小規模多機能型居宅介護事業では町内会の活動や避難訓練に協力するなど、町内会との関係は非常に良好で、地域の人がアンダンチを「まちの一部」として受け止めていることが伝わってきます。
就労支援事業所がある「アスノバ」には、地域との交流を目的としたコミュニティスペースがあります。習字教室や子どもの料理教室など、地域の人がやりたいことを実践する場として使ってもらえばと考え、土・日曜を中心にレンタルスペースとして提供しています。また、地域住民が寄付した絵本などが並ぶ「小さな図書館」、物販スペースがあり、地域住民が訪れます。
「福祉施設には、時間帯によって十分に活用されていないスペースもあります。地域に無料で開放することで、普段は福祉施設を利用する機会のない地域の人が自然に足を運び、知ってもらうきっかけになれば。使用料をいただくより、若いお母さんが高齢者と話したり、入居者は赤ちゃんを見てほほ笑んだりする自然な交流が生まれるメリットは大きいと思います」
庭には2匹のヤギがいて、入居者や園児、スタッフの癒やしになっている。近所の親子連れが見に来て餌をあげたりすることも(撮影/伊藤トオル)
施設内だけに閉じない、地域に開かれたイベントとして、8月に夏祭り、9月に秋祭りを開催しています。入居者がつくった玉こんにゃくの販売や子どもたちが絵を描いた提灯の装飾、さらには餅まきも実施。地域の方にも声をかけており、毎年600人近くが集まるほどの盛況ぶりです。
庭で行われる夏祭りの風景。子どもたちは出店を回るのも楽しみ(写真提供/未来企画)
アンダンチは、地域に開かれた拠点として、福祉とまちをつなぐ役割を果たしていることがうかがえます。
福井さんは、町内会や地域の人の声を聞くだけでなく、仙台市からの委託事業としてフレイル予防事業も実施しており、みやぎ小規模多機能型居宅介護事業者連絡会の会長を務めるなど、地域の福祉ネットワークとの連携を積極的に行っています。
また、入居者の家族との関係も大切にしています。協力医療機関と連携し、本人や家族の希望、医療・介護の状況などを踏まえながら、住み慣れたアンダンチで最期まで過ごすための看取りにも対応しています。「看取りのときに、ご家族と密に連絡をとっていて『アンダンチで看取りができて良かった』と言われたのが印象に残っています。ご家族の『こうすればよかった』ではなく『やりきった感』は大事にしたいと思っています」
こうした実績を積み上げ、2025年5月からはアンダンチレジデンスが、サービス付き高齢者向け住宅から「特定施設入居者生活介護(介護付き有料老人ホーム)」に移行し、より手厚い介護サービスが提供できるようになりました。
根底にあるのは人のつながり。アンダンチが描く未来の生活モデル
アンダンチは、単なる複合施設ではなく、福井さんが描く未来の生活モデルの“原型”でもあります。
現在、関西の医療法人から相談を受け、アンダンチで培った考え方や事業経験を活かしながら、その地域のニーズに応じた複合施設の構想・事業づくりを支援しています。そのほか、自治体からの相談もあり、相談を受ければできる限り対応しています。さらに、コレクティブハウスに福祉機能を組み合わせた新たな住まいの形など、次の構想も進んでいます。
庭にはピザ窯やバーベキュー炉もあり、自然と世代を超えた触れ合いや会話が生まれる(写真提供/未来企画)
「コレクティブハウスは、住まいにリビングやキッチンなどみんなで共用できるスペースがあって、ルールを決めながら暮らしていく、人と人が支え合いながら暮らすという意味では、福祉の本質にも通じる住まい方だと捉えています。例えば障がい者とそのご家族のためのコレクティブハウスに高齢者介護を組み合わせれば、親子での入居も可能になるはず。まだ妄想段階ですが、可能性を探っています」と目を輝かせる福井さん。
ケニア留学を通して、物質的な豊かさだけでは測れない、人と人のつながりや暮らしの豊かさについて考えるようになった福井さん。東日本大震災を経験して、地域のつながりの大切さをより実感した(撮影/伊藤トオル)
「大学時代に半年ほどケニアに留学して、ケニアでの暮らしを見たり、さまざまな地域を訪れたりする中で、物質的な豊かさだけでは測れない、人とのつながりや暮らしの豊かさについて考えるようになりました。昔の日本には、おばあちゃんが近所の子どもを預かって面倒を見たり、お母さんが帰宅するまで家でご飯を食べさせたりといった近所づきあいがありました。
私は、福祉サービスに固執せず、福祉をひとつの接点にしながら、現代に合った無理のない、ゆるやかな人とのつながりをどう再構築できるかを考えています」
アンダンチでは、福祉・教育・就労・まちづくりがゆるやかに重なり合い、高齢者も子どもも障がいのある人も、それぞれの存在や得意なことが自然につながり、ときにはそこから役割が生まれていく。アンダンチには、そんな温かな日常の風景がありました。根底にあるのは、制度や規則などの枠を越え、人と人が交わることで生まれる豊かさ。福祉や子育てを分断しないで、同じ根を持つ営みとしてゆるやかに束ねていく。地域共生社会の具体例として、これからの暮らしの可能性を、アンダンチは静かに示しているように思いました。
●取材協力
アンダンチ
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