法学者でも見抜けなかった……925万円を奪ったロマンス詐欺の手口とは
昨今、SNS型ロマンス詐欺の被害が相次いでいます。法学者で、香川大学の名誉教授である高倉良一氏も、被害者の一人。国立大学の教壇に長年立ち、学生たちに法律を教えてきた人が、なぜ925万円もの大金を騙し取られることになったのでしょうか。その手口を赤裸々に明かし、警鐘を鳴らす書籍が、今回紹介する『70歳の法学者が、なぜロマンス詐欺に騙されたのか』です。
事の発端は、定年退職した著者のFacebookに「愛子」と名乗る女性からメッセージが届いたことでした。「私は山本愛子、37歳です。名古屋で生まれて、今は深圳でアパレルの会社を経営しています」という彼女は、巧みに著者を持ち上げ、その後はLINE上でのやり取りを重ねていきます。著者は「愛子」のことを、「私が語る戯言を『偉大だ』と称賛し、私との出会いを『縁』という特別な言葉で飾る。孤独な老人に抗いがたい魅力を持つ毒だった」(本書より)と振り返ります。
その後、「愛子」から「兄さん」と呼ばれたことで、著者は自尊心をくすぐられ、「頼られたい、守ってやりたい」との感情が湧き上がります。彼女の話をすっかり信じ込み、人生を共にするパートナーになりたいと願った著者にとって、「愛子」の「伯父から投資の指導を受けている」との話は、なんら疑わしいものではありませんでした。
「69年間積み上げてきた知識も、経験も、理性も、すべては無意味だった。退職後の孤独と年甲斐もない下心――この二つが、私を簡単に餌食にした」(本書より)
こうして著者は「愛子」の伯父がおこなっているという投資に、自身のお金をつぎ込んでいきます。はたから見れば「なぜ途中で嘘だと気づかないのだろう?」と思ってしまいますが、詐欺師の言葉の一つひとつには、私たちの冷静な判断力を鈍らせる「仕掛け」が隠されているそうです。また、知識や自信がある人ほど自分を過信し、罠が見えなくなるといいます。
著者が失ったものはお金だけではありません。70年近くかけて積み上げてきたプライド、これから先の人生に抱いていた希望、友人や家族との人間関係、人を信じる気持ちまでも根こそぎ奪われてしまったのです。これまで学生たちに「物事の本質を見抜け」と説いてきた立場であれば、そのショックはなおさらでしょう。
それでもなぜ、著者は自身の被害を世間に公開する道を選んだのでしょうか。著者は「この本が、被害者の沈黙を破り、読者一人ひとりの心に問いを残し、やがて社会を変えていく一石となること」を信じていると記します。本書を読めば、「自分が騙されるはずがない」との思い込みは決して通用しないことがわかるはず。老後を考えてふと寂しさや不安感に襲われたとき、同じ罠にはまらないと誰が言い切れるでしょうか。
しかし、ここで間違えたくないのは、あくまでも「悪いのは100%相手である」という点。著者は「自分や他者が被害に遭ったとき、『自己責任』という言葉で思考を止めないでほしい」(本書より)と訴えます。
詐欺被害に遭わないよう自身の知識をアップデートしていくことはもちろん必要です。しかし、被害者側がいくら自衛しても、詐欺そのものがなくならなければ、新たな被害者は生まれ続けます。たとえ長く困難な道であっても「詐欺をしなくても生きていける社会の構築」を目指すこと。これこそが、よりよい社会を作るために大切なのではないでしょうか。
[文・鷺ノ宮やよい]
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