奇想、オチ、語り口〜ジェラルド・カーシュ『廃墟の歌声』

奇想、オチ、語り口〜ジェラルド・カーシュ『廃墟の歌声』

『瓶の中の手記』につづく、創元推理文庫で二冊目のジェラルド・カーシュ短篇集である。『廃墟の歌声』というタイトルではかつて晶文社から単行本が刊行されており、こんかいはその文庫化だが、単純な再刊ではなく、収録作品の入れ替えがなされている。世紀の大泥棒カームジンを主人公とする連作が省かれ(それらは角川書店版『犯罪王カームジン  あるいは世界一の大ぼら吹き』で読める)、かわりに新訳が六篇追加されている。全収録作が十五篇なので、かなりの割合といってよかろう。

 個人的な話になるが、私はSFに夢中になりはじめた中学時代にジュディス・メリル『年刊SF傑作選3』の巻頭に収められていた「不安全金庫」を読み、カーシュという作家を知って大好きになった口で、奇抜な発想と洒落た展開の作家という印象が染みついている。ちなみに、カーシュ作品の次に収録されていたのが、ラファティ「恐怖の7日間」である。メリルから受けた影響はたいへん大きい。

 その次の洗礼は、第一期の〈奇想天外〉1974年9月号の《異色幻想作家・ジェラルド・カーシュ特集》である。一挙掲載された五篇を読んで躍りあがった。

 そんなふうにカーシュのファンになった身としては、本書の表題作「廃墟の歌声」は、これぞ彼の本領と言いたくなる奇想小説である。探検家の私は、原住民の族長が親切心から引き止めようとするのにも耳を貸さず、「悪しき地」と呼ばれるアンナンへと足を伸ばし、廃墟を探査する。いにしえの都市の発掘をはじめると、夜ごと歌声のようなものが聞こえてくるのだが、何ものが発した歌か(そもそも歌なのかも)わからない。私が廃墟で遭遇したもの、そして歌の正体……。結末には鮮やかなドンデン返しが待っている。そのオチだけ取りだしてみると、SFではもはや古典的(あるいは王道)とも言えるアイデアなのだが、そこに行くまでの伏線というか、視線誘導が上手い。読者は「ヤラレタ!」と大喜びするわけだ。

 ただし、ドンデン返しだけがカーシュではない。「クックー伍長の身の上話」では、従軍記者の私(語り手)が第二次大戦末期(すでに欧州での戦いは終わっている)に、イングランドからアメリカへと渡る船上で、四百三十八歳と自称し、身体に大きな傷跡がいくつもあるクックー伍長と出逢う。伍長がなぜ不死身になったのか、どんな遍歴をたどってきたのか。驚くべき話が次から次へと繰りだされ、そのなかに歴史上の人物たちがちょい役で顔を出す(伍長にとってはあたりまえの知りあいだったりする)のが、奇譚のアクセントになっている。語りの面白さで、読者をぐいぐい牽引していく作品だ。余談ながら、私は高校時代、ペーパーバックのアンソロジー(フレデリック・ポール編Star Science Fiction Stories No. 3)で、この作品を読もうとし、作品内で言及される歴史上のあれこれがさっぱりわからず、挫折した経験がある。

 奇想天外な身の上話ということでは、この文庫版のために新訳されたうちのひとつ「テシエ大佐の惨憺たる騎行」も負けてはいない。主人公のテシエ大佐は、かつての同志であるラタポワールと再会し(いまやふたりとも老いた)、これまでの波瀾の人生を振り返る。故国フランスでの青年時代、ラタポワールは正統王朝派、テシエは共和主義者だった。しかし、両人ともボナパルトにお払い箱にされ、テシエはいったんは反ナポレオンの結社に参加するが、そこから流転がつづいた。インド成金の主人に仕えているとき、やくざな宿屋に泊まったおかげでゴタゴタに巻きこまれ、その最中、ナポレオンを陥れる策略を聞きつけてしまう。かつては反ナポレオンだったテシエだが、エルバ島から帰還後して連合軍と対峙しているいまのナポレオンには、シンパシーがある。ここは一肌脱ごうと……。いきあたりばったりのテシエに、偶然のできごとが重なり、物語がころがっていく。ちょっとドン・キホーテを思わせる波瀾が詰まった、ワーテルローの戦いの秘史である。ラタポワールとテシエの会話が枠物語になり、そのなかにテシエの回想記が嵌めこまれる形式だ。

 新訳作品のなかでは、「オックス博士真夜中に死す」がSF性の高い一篇。肉体を離れ、精神力を現実に作用させられると主張する、精神分析医ペリカン博士の物語だ。超能力のアイデアに殺人の予知というミステリ的テーマを組みあわせ、物語構造(ペリカン博士と警部との対話)にもひとひねりがある。ソフィスティケートされた奇想小説だ。オチの見事にかけては、この短篇集で一、二を争う。

「狼! 狼!」も新訳作品。「俺には怖いものなんぞない。世界中で、狼以外にはな」とうそぶく男、アズの物語の回想記である。アズはその父親とともに、三人のチェルケス人の娘を連れ、橇で凍った雪の上を急いでいた。そこに迫る狼の群れ……。生き延びるためアズがひとつひとつ手放していく順番が、まるで寓話のように語られる。

「盤上の悪魔」は、チェスに関するものを破壊しようとする悪霊に取り憑かれたチェス・プレイヤーの物語。「ミス・トリヴァーのおもてなし」はハロウィーンの夜、自動車が故障して、寂しい一軒家に助けを求めた語り手の運命を描いた心理サスペンス。これらは晶文社版からの再録作品である。

(牧眞司)

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