『機動警察パトレイバー EZY』川井憲次インタビュー 「真面目にギャグ音楽を作る」――川井サウンドの秘密に迫る
1988年のOVAシリーズから、劇場版、テレビシリーズなど、さまざまな作品が作られてきた『機動警察パトレイバー』。38年もの長きにわたり愛されてきた『パトレイバー』を彩るのが、作曲家・川井憲次さんが手がけた音楽の数々だろう。
舞台を2030年代へと移した最新作『機動警察パトレイバー EZY』でも、『パトレイバー』らしさあふれるサウンドを届けてくれる川井さんにインタビューを実施。
『EZY』の音楽はどのように作られたのか。ギャグ色の強いエピソードにどのような音楽を付けたのか。そして、38年にわたって『パトレイバー』の音楽を作り続けてきた川井さんご自身が、映像と音楽が印象的にマッチしていると感じるシーンとは――。
ファン歴38年の担当ライターが、『EZY』の楽曲から『機動警察パトレイバー2 the Movie』をはじめとする過去作の音楽まで、川井さんに様々な角度からお話を伺った。
※以下、『機動警察パトレイバー EZY』のネタバレを含みます。
「この企画はなくなったのかなと思ってました」――『EZY』音楽制作の始まり
――まず、『機動警察パトレイバー EZY』という企画が立ち上がったことを最初に耳にしたときのお気持ちから聞かせてください。
川井:最初に話を聞いたのは、すごく前なんですよ。最初はプロモーション用だったのかな、10分とか15分くらいの映像用に音楽を作ってくれと言われて曲を作りました。でも、それからかなり時間が空いたので、「あ、この企画はなくなったのかな」と思っていました(笑)。
――そこから本格的に企画が動き出して、あらためて音楽を作ることになったわけですが、出渕 裕監督をはじめとする制作チームからは、どのようなオーダーがあったのでしょうか?
川井:「任せる」です(笑)。音響監督の若林和弘君が書いてくれた楽曲のメニューがすごくわかりやすかったので、それに従って楽曲を作りました。
「真面目にギャグ音楽を作る」――“笑わせる音”にしない『パトレイバー』らしさ
――『パトレイバー』は初期OVAシリーズから劇場版、テレビシリーズ、NEW OVAシリーズまで、作品ごとにかなりテイストが違います。『EZY』では過去作品から継承したものもあるのでしょうか?
川井:第2話『閑中妄あり』は、せっかくなら『パト1』(『機動警察パトレイバー 劇場版』)の曲を使ったほうが面白いだろうなと思って、そっくりに作りました。
――『EZY』は1話ごとにかなりジャンルが違いますが、「この話ではこういう『パトレイバー』の音を使おう」といった振り分けはされていたのでしょうか?
川井:そういう考え方はしてないんです。一話一話が単体のお話として完結しているので、それぞれの楽曲に特色は持たせたいとは思っていましたけど、そんなに厳密には考えていませんでした。それぞれのシーンに楽曲がマッチしていれば良いという考え方ですね。基本的にはギャグなので、真面目にギャグ音楽を作る。それが自分の中では一番楽しかったのかな。
――“ギャグ音楽を真面目に作る”というのが面白いですね。
川井:そうですね。曲だけ聞いたら普通の戦闘シーンの曲に聞こえるんだけど、絵と合わせるとギャグになるみたいな。笑わせる場面だからといって、「ここはギャグですよ」と音楽から観客へ説明するわけではなく、むしろ本気で戦闘ものの音楽を鳴らす。その結果、映像と音楽が合わさった瞬間に笑いが生まれるんです。 ギャグの作品だからといって、「プー」とか「ピー」とか、いかにも“笑わせますよ”という音を前に出さない。それは今までの『パトレイバー』の流れでもあったなと思います。最初のOVAシリーズからそうでしたからね。
『ケルベロス』の曲を自分で耳コピ!? 「譜面もデータも残ってないので」
――今回の『EZY』で、特に作っていて楽しかった曲はありますか?
川井:第3話『ホンモノが一番』のラストで流れた劇中映画の予告編の曲ですね(笑)。
――押井監督の映画『ケルベロス-地獄の番犬』の予告編のパロディですよね。『ケルベロス』の楽曲も川井さんが作曲されていましたが、当時の音源をそのまま使われたのでしょうか? それともあらためてご自身の曲を作り直されたのでしょうか?
川井:自分で自分の曲を耳コピして作りました(笑)。譜面も残っていないし、データも残っていないので。でも、当時よりお金はかかっているんですよ。当時の予告編は生の演奏での収録じゃなかったはずなんですけど、今回は生の演奏で録ったので(笑)。実は、当時のピアニストが40年越しでそのまま参加してくれていたりと、あの曲にはいろいろと逸話もあって、思い入れがありますね。
――最初のOVAがスタートした1988年から考えると38年が経過しています。その間に、音楽の制作環境も大きく変わっていますよね。
川井:まったく変わりましたね。昔はシーケンサーを使っていましたけど、それが今はDAWというかDTMというか、コンピューターベースで作るようになりました。音源も、昔はハードシンセだったのがソフトシンセに変わりましたし、レコーダーも昔はSONYなどのマルチトラックレコーダーをテープ媒体で使っていたのが、全部コンピューターのハードディスクに収められるようになりましたからね。環境は本当に変わりました。
――その環境の変化は、『パトレイバー』の曲作りそのものにも影響していますか?
川井:曲作りそのものは変わらないですね。機材は変わりましたが、音楽を作る際の考え方そのものが変わりません。先ほどお話しした「ギャグ音楽を真面目に作る」というスタンスは変わらず、制作環境だけが大きく変わった感じです。
川井憲次が語る「映像と音楽のマッチング」――印象に残る『パト2』のシーン
――『EZY』に限らず旧作も含めて、川井さんご自身が「自分の音と映像がマッチしていたな」と印象に残っているシーンはありますか?
川井:『パト2』(『機動警察パトレイバー2 the Movie』)の、ヘリが飛んできてビルに銃弾を撃ち込むところの曲は、自分の中で印象に残っています。曲を作っているときはそこまで印象に残る曲とは感じていなかったのですが、映像と組み合わさることで印象深い曲になりました。『パト2』だと、他にもラストの地下道を通って埋め立て地に向かうところの曲も印象に残っています。楽曲の指示は押井さんが出していたんですけど、押井さんは、戦闘シーンにいわゆる“戦闘曲”をつけるのが好きな人じゃないので、あえてああいうところはグッと暗く、重くという作り方をしていました。そういうシーンは自分の中で印象に残っています。
――ヘリの射撃音や爆発音と、川井さんの曲がぶつかるのではなく、お互いを引き立てているようにも感じます。
川井:そうですね。やっぱりSEがバカバカ入るので、SEとバッティングしない音作りというのは、実は結構重要なのかもしれないですね。
『EZY』File 2で印象に残った意外な場面――シリアスなマーチが“壊れていく”
――現在公開中の『EZY』File 2で、曲と映像の組み合わせが印象に残っている場面はありますか?
川井:意外と地味なんですけど……第6話『恋のサバイバル』の山が崩れた後に、十和が「桔平はもう死んだ」と思い込んで敬礼しているところがありますよね。あのシーンの曲は、映像と上手くマッチしたと思います。あそこの曲は、最初はちゃんと“殉職した警官に対して贈る曲”というか、ファンファーレじゃないですけど、マーチみたいな感じで始まるんです。それがだんだんしょぼくなっていって、最後は音を間違えて、リズムもぐちゃぐちゃになっていく。そういう指示が若林君から来まして(笑)。
――最初だけシリアスなんですよね。
川井:頭だけシリアスで、それからだんだんしょぼくなって、最後は音を外したり、リズムがぐちゃぐちゃになったりするんですけど、あれって、トランペットとかトロンボーンを生演奏で収録しているんですよ。譜面通りに演奏した奏者から、「すみません、これ、おかしくないですか?」と確認されました(笑)。
「毎回違うから、一言では片付けられない」川井憲次にとっての『パトレイバー』
――川井さんにとって、『パトレイバー』とはどんな作品でしょうか?
川井:よく聞かれるんですけど、一言で説明するのは難しいんですよね(笑)。毎回違うじゃないですか、やっていることが。最初のOVAシリーズと『パト1』を比べると、まだ延長線ではあるけれど、『パト2』は全然違う。劇場版の3作目(『WXⅢ 機動警察パトレイバー』)なんて、これまでとまったく違う作品ですし。だから、一言では片付けられないと思っています。でも、コンセプトは明快ですよね。戦闘が多い作品だと、最初に敵が出てきて、次はもっと強い敵が出てきて……となるので、「次にもっと強い敵が来るから、ここの曲はちょっと抑えておこう」と考えたりするんです。でも『パトレイバー』は毎回違う戦いになるので、そういうことを考えなくていい。そもそも戦闘ものじゃないですからね。自分にとっては、なんというか、趣味で作っちゃっているような作品ですね(笑)。
――確かに『パトレイバー』はロボットものですし、敵も出てきますが、敵の強さがインフレしていくような作品ではないですよね。
川井:そうなんですよ。 それに、戦っているのはヒーローじゃなくて警察官なんですよね。でも、だからこそ、警察官としての正義感というものはやっぱり出したい。やっていることは結構ポンコツだったりするんですけどね(笑)。警察官としての正義感も出しつつ、シリアスも、日常も、怪談も、コメディーも、そしてレイバー同士の戦闘もできるのが『パトレイバー』の魅力ですよね。
File 3は「より暗く」――「いつものメンバーが真面目に戦います」
――File 3として公開される第7話と第8話は、前編・後編として1本のストーリーになっているとのことですが、往年のファンからすると初期OVAシリーズの第5話と第6話のようなシリアスな展開を予想してしまいますが、File 3は音楽のイメージも変わってくるのでしょうか?
川井:今の時点で詳しくはお話しできませんが、音楽のイメージも変わります。より暗くという……。そっちの方向には行くと思います。
――最後に、File 3を楽しみにしているファンへメッセージをお願いします。
川井:File 1とFile 2で様々な姿を見せてくれたいつものメンバーが真面目に戦います。音楽もシリアスな曲が多くなっているので、楽曲も楽しみにしていてほしいです。
『機動警察パトレイバー EZY(イズィー)』
【INTRODUCTION】
1990年代末、テクノロジーの急速な発展とともに、あらゆる分野に進出した汎用人間型作業機械〈レイバー〉。
しかしそれは、レイバー犯罪と呼ばれる新たな社会的脅威をも生み出すことになった。 続発するレイバー犯罪に、警視庁は本庁警備部内に特殊車両二課を創設してこれに対抗した。通称、特車二課パトロールレイバー中隊「パトレイバー」の誕生である。
そして、時は流れ──。
労働人口減少の一途を辿る2030年代の日本は、AI技術による自動化が進んでいた。
かつて最先端技術だった〈レイバー〉は、社会基盤を支える一部として定着。
人が搭乗するスタンドアローン型の〈レイバー〉は、自立型ロボットへの代替が進み、もはや時代遅れとなりつつあった。
だが時代が変わろうとも、特車二課の仕事は変わらない。人と街を守ること。
第二小隊は旧式98式AVイングラムをチューンナップした“AV-98Plus イングラム”とともに、知恵と勇気で新たなテクノロジー犯罪に立ち向かう。【STAFF】
HEADGEAR PRESENTS
監督:出渕 裕/脚本・シリーズ構成:伊藤和典/キャラクター原案:ゆうきまさみ/コスチュームデザイン協力:高田明美・山田章博/キャラクターデザイン・総作画監督:佐藤嵩光/メカニカルデザイン:海老川兼武・渭原敏明/モビリティデザイン:河森正治/ディスプレイデザイン:佐山善則/演出:海宝興蔵/美術:菊地正典・秋山優太/色彩設計:伊藤由紀子/撮影監督:大河内喜夫/編集:仙土真希(REAL-T)/CG監督:森泉仁智/CG制作:GAZEN・J.C.STAFF CG部/音響監督:若林和弘/音響効果:山田香織/音響制作:マジックカプセル/音楽:川井憲次/プロデューサー:真木太郎/共同プロデューサー:町田有也/アニメーションプロデューサー:松倉友二(J.C.STAFF)/アニメーション制作:J.C.STAFF/プロデュース:GENCO/配給:松竹ODS事業室・バンダイナムコフィルムワークス/製作:機動警察パトレイバー EZY製作委員会【CAST】
久我十和:上坂すみれ/天鳥桔平:戸谷菊之介
平田紗季:小清水亜美/間 昭彦:小林親弘/柳井雄太:佐藤せつじ/柚木八久万:松村柚芽/佐伯貴美香:林原めぐみFile 1(2026年5月15日公開):「トレンドは#第二小隊」「閑中妄あり」「ホンモノが一番」
File 2(2026年8月14日公開): 「ワインと銃弾」「あさき夢みし」「恋のサバイバル」
File 3(2027年3月5日公開):「おもちゃの国・前編」「おもちゃの国・後編」
© HEADGEAR / 機動警察パトレイバー EZY製作委員会
(執筆者:斎藤ゆうすけ/90年代のアニメとゲームを愛するライター。系放送作家&シナリオライターとしても活動。ゲームやアニメ、小説や漫画原作などシナリオの企画・制作も多数担当。専門学校でメディア論やシナリオ講座の講義も。https://x.com/saito_you)
(執筆者: sasuke_in)
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