「図太く、賢く、面白く」生きるには? 先人たちの名言に学ぶ人生の教養

「図太く、賢く、面白く」生きるには? 先人たちの名言に学ぶ人生の教養

 「名言集」というと、どこか人生を変える一言を集めた本を想像しがちだ。しかし、人生の中で心に残る言葉は、劇的に人生を変えるものばかりではない。ふとした瞬間に思い出した一言が、目の前の出来事の見方をそっと変えてくれることもある。

 ライフネット生命保険株式会社の創業者・出口治明氏の著書『人生の教養が身につく名言集』(三笠書房)は、古今東西の名作・名著から選び抜いた言葉を手がかりに、人生をより豊かに、そして面白く生きるための知恵を紹介する一冊だ。これまで1万冊を超える書物を読んできたという著者が、自身の経験や考察を交えながら、先人たちの言葉に宿る人生観を読み解いている。

 本書で繰り返し語られるのは、「知る」ことの大切さだ。歴史や古典を読み続けてきた著者にとって、知ることは知識を増やすためだけではない。知らなかった世界に触れ、視野を広げていくことこそ、毎日を楽しく生きるための土台になると説く。

「教養とは、人生を面白おかしく、そしてワクワクさせてくれるツールです」(本書より)

 著者は教養を”格調の高いもの”ではなく、人生を軽やかにするための道具と捉える。その考え方は、自身の経験にも表れている。日本生命保険相互会社に勤務していた際、左遷を経験した著者は、それを大きな悲劇とは受け止めなかった。「左遷される人が圧倒的な多数派」と考えていたからだ。

 その背景には、古典から得た視点がある。中世イタリアの詩人ダンテ・アリギエーリが『神曲・地獄篇』で記した「この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ」という一節。一見すると厳しい言葉だが、著者はこれを”この世のリアル”と読み解く。誰もが思い通りに評価されるわけではなく、努力が必ず報われるとも限らない。そうした現実を知っていれば、不本意な出来事に直面したときも、必要以上に自分を責めずに済む。

「私たちは、学び続け、知識を獲得し続けることで、思い込みの世界から脱することができます」(本書より)

 知ることは、自分の中にある「当たり前」を見つめ直すきっかけにもなる。これまで疑うことのなかった考え方も、新たな知識や価値観に触れることで、別の角度から捉え直せるようになるのだ。

 こうした視点は、他人からの評価に振り回されないためにも役立つ。誰しも、人からよく見られたいという思いを抱くものだが、著者は中国の歴史書『後漢書』に登場する「天知る、地知る、我知る、子知る」という言葉に着目。「他人」を意味する「子」が最後に置かれていることから、人は思っているほど他人を細かく見ていないと解釈している。極端に言えば、他人からの評価を期待し過ぎる必要はないというのだ。

「人からよく見られたいとか、ほめられたいという気持ちが、もっとも人間が心を病む原因の1つだと思うのです」(本書より)

 本書によれば、人間の歴史を振り返ると、人が望んだことの99%以上は実現していないという。つまり、失敗は決して珍しいことではない。そこで著者が提案するのが、「ダメ元の気持ちで気楽に挑戦すればいい」というスタンスだ。思い通りにならないことを前提にしておけば、失敗を過度に恐れず、やりたいことへ軽やかに踏み出せるはずだ。

 そのためにも、学ぶことが重要だ。著者が方法として挙げるのが、「人」「本」「旅」の3つ。人と会って話を聞き、本を読み、世界中の都市を自分の足で歩く。新しい知識や経験を積み重ねることで、これまで複雑に見えていた世界も少しずつ整理され、物事の本質が見えてくるのだという。

「新しい世界の存在を知ることで、より物事を複眼的に、あるいは深く見ることができるようになっていきます」(本書より)

 学ぶうえでのひとつの考え方として、本書では12世紀フランスの哲学者ベルナール・ド・シャルトルの「巨人の肩に乗っているから、遠くを見ることができる」という言葉も取り上げている。何もないところから答えを探す必要はない。先人たちが積み重ねてきた知恵を借りることで、自分一人では見えなかったものまで見渡せるようになるのだ。

 さらに本書では、ビジネスを起こす際の基本的な心構えについても紹介。還暦を迎えてから創業した著者ならではの視点で語られる言葉には、実際に新たな挑戦を成し遂げてきたからこその説得力がある。

「いくつになっても発想豊かな人間であり続けるためには、一生、学び続け、知識をインプットし続けることが不可欠なのです」(本書より)

 本書の魅力は、先人たちの言葉を単なる「名言」として並べるのではなく、その言葉が生まれた背景や、彼らが歩んだ人生にまで思いを巡らせられる点にある。時代を超えて語り継がれてきた言葉をたどるうちに、先人たちもまた、私たちと同じように悩み、迷い、ときには失敗しながら生きてきたことに気づかされる。難しく考えすぎていた悩みも、少しだけ肩の力を抜いて捉え直せるだろう。

 図太く、賢く、面白く。そんな生き方を後押ししてくれる知恵が、本書には詰まっている。

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