【ライブレポ】梶浦由記、一音一曲に宿る“かけがえのない時間”──〈Yuki Kajiura LIVE vol.#22 ~precious pieces~〉

2026年8月8日、9日の2日間、埼玉・大宮ソニックシティ大ホールにて〈Yuki Kajiura LIVE vol.#22 ~precious pieces~〉が開催された。
作曲家・
梶浦由記がこれまで手がけてきたアニメーション・ゲーム作品の劇伴、FictionJunctionの楽曲、そして数々の歌姫たちとのコラボレーション。その長いキャリアのなかから選び抜かれた楽曲たちが、そこに新たな時間を刻んでいくような、そんな現在進行形のライブだった。
そして今回、特別な意味を持っていたのが、Guest Vocalとして参加したYUUKAの存在だ。FictionJunction YUUKAとして梶浦と数多くの名曲を生み出してきた彼女との共演は約12年ぶり。過去を大切にしながらも、現在の歌声とFictionJunctionが交差することで、この日のステージには唯一無二の時間が生まれた。
開演を告げるように披露されたのは「silent moon」。6人のボーカリストによるアカペラの歌声が重なり、会場に静かに音楽の扉を開いていく。KAORI、YURIKO KAIDA、Joelle、LINO LEIA、EMIKOらが声を重ねる。そのハーモニーは、いわば梶浦音楽の原風景。派手な演出で観客を煽るのではなく、まずは「声と音」そのものを届けることで、このライブの姿勢を明確に示していく。

続く「Crush」では一転、バンドの演奏が加わり、音世界が大きく広がっていく。『PandoraHearts』の劇伴として知られる楽曲に続いて、「Pandora hearts expanded」、そして「everytime you kissed me」へ。繊細なピアノ、ヴァイオリン、フルート、パーカッション、そして重厚なリズム隊が絡み合いながら、梶浦作品ならではの幻想的な世界を描き出していく。
梶浦の音楽には、歌が前面に出る楽曲であっても、その背後に必ず物語がある。歌詞だけではなく、楽器の一音、コーラスの重なり、沈黙までもが物語の一部として機能する。今回のライブでは、それぞれの音が決して急がず、丁寧に積み重ねられていた。
梶浦はMCのなかで、楽曲で聴こえてくる「意味を持たない言葉」についても言及。「こちらは造語になります。こちらのライブでは英語だったり、日本語の歌ももちろん演奏するんですが、『この言葉は何なの?』と思われた言葉は造語です」と明かした。
そのうえで、「造語には正直、何も意味がありません。もし悲しい歌に聴こえたら、それはあなたが悲しいと思ったから。なんか怖い歌だなと思ったら、それが正解。その歌の意味とか、この歌の受け取り方は、すべてあなたにお任せします。あなたの想像の翼が描いたものが正しいということです」と語り、聴き手それぞれの自由な解釈を大切にしていることを伝えた。


ライブは続いて、この秋に放送予定の新作アニメ『魔法騎士レイアース』の楽曲を披露。梶浦が描いた音楽が『レイアース』の世界でどのように展開されるのか、その期待が高まる演奏だった。
ライブはさらにFictionJunction YUUKAの楽曲、「Silly-Go-Round」、そして「約束」へと続いていく。長い時間を経て再び同じステージに立つ梶浦とYUUKA。そこに現在のFictionJunctionの歌姫たち、そして熟練のFRONT BAND MEMBERSが加わる。それは、過去から現在へと音楽が続いていることを実感させる瞬間だった。
MCパートでは、梶浦がメンバーの人柄に迫る企画を実施。梶浦が投げかけた「あなたがこれは名言だと思う言葉を一つ教えてください」という質問に答えるというもの。
質問をぶつけられたYUUKAは、「心にグサッと刺さるような一生ものみたいな言葉ってあって、考えたんですけど」と前置きしながら、YUUKAが最後に残った言葉として挙げたのが、「大丈夫、大丈夫」だったという。
誰かから掛けてもらう「大丈夫」だけではなく、自分自身に言い聞かせる「大丈夫」。シンプルな言葉だからこそ、YUUKAにとっては日々を進んでいくための大切な支えになっているようだった。
ライブはそこから、「大丈夫、大丈夫」という言葉を胸に、YUUKAが「ピアノ」「暁の車」で歌声を響かせる。その言葉が、長い時間を経て再び梶浦由記と同じステージに立った彼女自身の現在を、静かに物語るようなひとときとなった。



梶浦は再び、「あなたがこれは名言だと思う言葉を一つ教えてください」というテーマをステージのメンバーたちに投げかけると、「努力は夢中にかなわない」、「継続は力なり」などの言葉が出てくるなか、KAORIは「優秀ジャンクション!」と回答。
KAORIは、このライブにおいて「自分たちを鼓舞していかないとできない、難しいことがいっぱいあったんです」とパフォーマンスの難しさに触れながら、「1個できることが増えるたびに、『私たち、すごくない?』みたいな感じで、『優秀ジャンクション』って言うのをずっとやってたんです」と説明した。
「大丈夫、大丈夫」という言葉と同じように、「優秀ジャンクション」という言葉を口にすることで、自分たちを肯定し、前向きな気持ちを作っていったという。一曲一曲を大切に届けるだけでなく、ステージをともに作り上げるメンバー同士の信頼関係も随所に感じられた。「優秀ジャンクション」という言葉は、そんなチームの空気を象徴する、ツアー中に生まれた新たな合言葉となっていた。
そして梶浦は、「The future starts today.not tomorrow.(未来は明日始まるのではない、今日始まるのだ)」という言葉を紹介。「未来が始まるのは今日」という考え方について、「今日できる仕事は今日やろう」と自身への戒めとして大切にしていることを明かした。さらに、「未来は今始まる。今日始まるんです」と観客に語りかけ、音楽活動を続けていくなかでの自身の姿勢を示した。

その後に披露された『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ〈ワルプルギスの廻天〉』の主題歌「彼方」では、梶浦由記が紡ぐ壮大な音世界とFictionJunctionの歌声が重なり、会場を『魔法少女まどか☆マギカ』の作品の世界へと引き込んでいく。長年にわたり『魔法少女まどか☆マギカ』シリーズの音楽を手がけてきた梶浦ならではの音楽が大宮ソニックシティ大ホールを包み込み、新作への期待をいっそう高めるステージとなった。
ライブはここから一気にクライマックスへと駆け上がっていく。バンドの音圧とボーカリストたちの力強い歌声が前面に押し出されると、会場の熱量も一段と高まっていった。なかでも「from the edge」では、緊張感に満ちた演奏と歌声が重なり合い、ステージ上の全員が一体となって楽曲を突き進めていく。「stone cold」ではさらに躍動感を増し、「nowhere」では会場全体がその音楽に身を委ねるような圧倒的な高揚感へと包まれていった。
静謐で繊細な楽曲から、激しくドラマティックなナンバーまで、異なる表情を持つ楽曲がひとつの音世界のなかで響き合う。そんな異なる表情を持つ楽曲をひとつにつないでいたのが、梶浦自身が奏でるピアノ、歌姫たちの重なり合う歌声、そしてFRONT BAND MEMBERSによる卓越した演奏だった。
本編のラストを飾ったのは「ユメノツバサ」。終盤には会場中からシンガロングが巻き起こり、ステージと客席がひとつになる瞬間が生まれた。歌声が重なり合いながら楽曲が大きく広がっていくなか、本編は幕を閉じる。夢の余韻を残すような静かな感動に包まれた会場からは、惜しみない拍手が送られた。


しかし、もちろんここで終わりではない。アンコールでは「prologue」を経て、「Parade」へ。さらに「引き出しで発光している」が披露され、再び会場に温かな空気が広がっていく。
演奏を終えると、「このツアーが終わるのは、とっても寂しいんですけど、ちょっと寂しくないわけがあります。なぜなら、ここで来年の予定を発表できるから」と切り出した梶浦。「皆さんのおかげで本当に幸せだった。とっても幸せだなと思いながらライブしていました。また来年、幸せにしていただけるなんて」と、次回のライブへの喜びを語った。
そして「おかげさまでツアーを完走して、こんなに素晴らしいライブになった。そしてあなたがそこに座ってくださったおかげで、楽しい楽しいツアーが今日終わります」と改めて観客に感謝。「最後に、みんなでこのメンバーと一緒にこちらの曲をお届けしたいと思います」と告げ、「angel gate」で大団円を迎えると、会場には万雷の拍手が贈られた。そのなかには、「またこの音楽に会いたい」という想いが確かに込められていた。
梶浦由記が長年にわたって生み出してきた楽曲には、それぞれに異なる時代があり、物語があり、聴き手の記憶がある。だからこそ、年月を経て再び演奏されることで、楽曲そのものだけではなく、そこに紐づいた観客一人ひとりの記憶までが呼び起こされる。
「precious pieces」という言葉の通り、このライブで大切にされたのは、一曲一曲であり、一音一音であり、そしてその音楽を聴く人と共有する時間だった。〈Yuki Kajiura LIVE vol.#22 ~precious pieces~〉は、梶浦由記がこれまで歩んできた道のりを振り返るライブであると同時に、これからも音楽を続けていくための現在地を示すライブでもあった。
一音一音、一曲一曲を大切に奏でる。
そのシンプルな姿勢が、これほど豊かな音楽の時間を生み出す。「precious pieces」は、過去と現在、そして未来をつなぐ、かけがえのない音楽の断片だった。

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ライブ情報
Yuki Kajiura LIVE vol.#23
2027.08.21(土)
埼玉・大宮ソニックシティ大ホール
2027.08.22(日)
埼玉・大宮ソニックシティ大ホール
2027.08.28(土)
愛知・Niterra日本特殊陶業市民会館ビレッジホール
2027.08.29(日)
愛知・Niterra日本特殊陶業市民会館ビレッジホール
2027.09.11(土)
大阪・東大阪市文化創造館 Dream House 大ホール
2027.09.12(日)
大阪・東大阪市文化創造館 Dream House 大ホール
2027.09.19(日)
東京・昭和女子大学人見記念講堂
2027.09.20(月・祝)
東京・昭和女子大学人見記念講堂
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