話題沸騰中!映画『オークストリートの異変』を恐竜研究家はこう観た「恐竜の動作が学術的観点から見ても全く問題なく再現されている」

8月14日の公開以降、「最高の夏休み映画」として口コミも広がり続けている映画『オークストリートの異変』。社会現象を巻き起こした『クローバーフィールド/HAKAISHA』を皮切りに、伝説の仕掛け人として名を馳せるJ.J.エイブラムスが製作プロデューサーを務め、『イット・フォローズ』のデヴィッド・ロバート・ミッチェルが初の大作映画監督に大抜擢。アン・ハサウェイ&ユアン・マクレガーが共演する恐竜サバイバルスリラーです。

ふわふわの羽毛ラプトルや、恐竜の○○シーンなどこれまでに見たこと無かったシーンが満載の本作。さらに、恐竜を含む古代生物など太古の息吹を感じることができる博物館や博覧会の監修のほか、『映画ドラえもん のび太の恐竜 2006』(06)、『映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』(16)など映像作品の時代考証も手掛けた爬虫類・恐竜研究家の富田京一先生に本作の感想や興奮ポイントまでお話を伺いました!

【富田京一(とみた きょういち)先生プロフィール】
1966年福島県生まれ。爬虫類・恐竜研究家。女子美術大学およびTCA東京ECO動物海洋専門学校 恐竜・自然史博物専攻講師。おもに沖縄のマングローブ地帯に生息する爬虫類の生態を研究している。
「奥出雲多根自然博物館」「恐竜王国2012」など博物館や博覧会の監修、『映画ドラえもん のび太の恐竜2006』『映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』など映像作品の時代考証。
さらに古生物の復元模型『プラノサウルス』シリーズ(BANDAI SPIRITS)の監修など。
著書に『恐竜は今も生きている』(ポプラ社)『スマホでとびだす!うごく!きょうりゅうずかん』(コスミック出版)、『日本のカメ・トカゲ・ヘビ』(山と溪谷社)など多数。

※物語の核心に迫るネタバレはありませんが、本編の内容に触れていますのでご注意ください。※

恐竜など古生物の科学考証が造形、動作とも非常に高い

Q:本作をご覧になった率直な感想を教えてください。

仕事柄、恐竜や古生物が登場する映画は比較的観ているほうだと思います。多くの場合、歯並びや突起などの形状が骨やミイラ化石と大きく違っていたり、サイズが盛られ過ぎだったりといった、実物からの乖離が気になってなかなか物語の中に入り込めないことが多いのですが、本作についてはそのようなことはなく、お話の世界に集中できました。
ツッコミながら鑑賞できなかった大きな理由は、直球で怖かったからです。前半、アン・ハサウェイさん演じる主人公の恩師? の奥様のお庭に、にょきっと唐突に古代植物が生えているシーン、そして、その植物の写真を図書館司書の女性に鑑定してもらうシーンがあるのですが、両シーンとも非常に静かな場面なのだけれども、それが却ってこれからなにか不吉なことが起こるのではないかというムードを否応なしに高めていた感がありました。
少し間を置いて恐竜が現れるのですが、ただでさえ数も種類も多いものが問答無用に襲ってくるし、かつ強烈にしつこい。恐竜出現以降はとにかく怖いので、鑑賞中は科学考証の突っ込みどころを探す精神的余裕などなかったのです。私が知る範囲での話ですが、恐竜が登場する作品の場合、主要登場人物の中に最低一人は古生物学者や動物学者、あるいは博士ちゃんテイストの天才少年少女みたいな物知りが含まれていて、そのような人物の卓越した知識や、それに基づく機転のお陰で間一髪危機を脱するのがお約束と思っていました。ところが本作では、登場人物が誰ひとり恐竜に詳しくない(先述した図書館の人が古代植物には詳しいようですが)。予備知識ゼロの人々が運命に翻弄されるのが心配で心配で、物語にぐっと引き込んでもらうことができました。

Q:ご覧になって「この恐竜の描写がすごい!」と再現に驚いたポイントや、「恐竜好きは必見!」と思わずおすすめしたくなるような点はありましたか?

ツッコミを入れながら鑑賞できなかったもうひとつの理由なのですが、それぞれの恐竜など古生物の科学考証が造形、動作とも非常に高かったため、そもそも茶々を入れるような余地がほとんどありませんでした。
恐竜を扱った既存の映像作品では、歩行や走行の際に胴体を横にくねらせる動作が散見されます。恐竜も爬虫類の一員ですが、これは同じ爬虫類でもトカゲの動作です。ワニですらこのような動きは基本的に行いません。恐竜の骨格は数ある動物の中でも特別にがっしりしていて、体を左右にくねらせることなく、効率よく前に進むことができます。この作品の中に登場する恐竜たちは、そういった動作が学術的観点から見ても全く問題なく再現されていると思います。特に、本作において最も恐怖の対象となっている二足走行の肉食恐竜たちについては、ダチョウやエミューの運動様式と似た「頸をS字に曲げて」「転倒しそうになったら反対の脚を出す動作を繰り返しながら高速で前進する」ような走り方がとてもリアルに描写されているように思います。

ラスボス的な立ち位置が「アロサウルス」というのが渋くて良い!

Q:劇中で、「この恐竜が出てくるのは珍しい!」と思った恐竜はいますか?

映像作品に関わっている人間として、これを言ってはお終い感があるのですが…、個人的にはCGで表現されたティラノサウルスとトリケラトプスについては食傷気味のところがあります。したがって、ラスボス的な立ち位置がアロサウルス、もしくはこれに近縁であろう恐竜を選定しているのが渋くて良いと思います。狭いところまで襲ってくる中型の肉食恐竜(大型のコエロフィシス類、あるいはケラトサウルス類の原始的な種族を想定しているように見受けられました)も、映像作品ではあまり見かけないので、今回の活躍は(特にゴミ箱を漁るシーンなど)良かったと思います。
小型恐竜では室内をスキピオニクス(内臓や腸内細菌までもが化石として保存されていたことで耳目を集めました)らしきものが走り去ったシーンが、もしスキピオニクスであればずいぶんとマニアックなチョイスだなと感心しました。
また学問的に「恐竜」ではありませんが、かつて地球上に生息していた地上生のワニや原始的なカメ、ティタノボアを想定したのではないかと思われる大蛇の登場も意外で楽しめました(特に大蛇は本気で怖かった)。

Q:『ジュラシックワールド』の様に恐竜がカッコいい!と描写されることも多いですが、本作ではとにかく恐く描かれています。富田さんが特に恐い(面白い)と感じたシーンはどこですか?

最初に恐竜が登場したシーン(中型で俊敏な肉食恐竜)や、人々が捕食されてしまうシーンは問答無用に恐ろしかったです。特に近所のおばさんがいきなり肉食恐竜に頭を喰われたり、色々と揉めていた隣のおじさんが翼竜に惨殺されてしまうシーンはショッキングでした。(※但し、実際の翼竜は極端なまでに軽量化された設計の動物なので、終盤の主人公家族や犬とのバトルもそうですが、実際には生きた大型動物を襲うことはほとんどないと思っています。例えていうならペリカンやアホウドリが人を捕食するようなものなので、これは、この映画の中で感じた唯一の違和感です)。
この映画の怖いという意味でのもうひとつの見どころは、割と静かなシーンにもあると思いました。例えば、前半の古代植物が庭に生えていたシーン、アン・ハサウェイさんの作品の添削をしてくれていた奥様が銃を構えたまま亡くなっていたシーン、毛むくじゃらの巨大生物が家スレスレにゆっくり歩き去っていくシーン、庭のプールのようなところから大蛇がスルッと現れるものの誰も気付かないシーンなどが恐ろしいと感じました。

Q:本作の様に恐竜が街に現れたら、富田さんならどの様に対処しますか?
対処法は恐竜の種類にもよると思います。小型の肉食恐竜や、前述した翼竜の場合は軽量級なので、勇ましいことをいうようですが竹刀1本あれば大抵は撃退可能です。
中型(ヒョウから熊くらいのサイズ)の肉食恐竜の場合はもちろん厄介ですが、家なら厳重な戸締まり、乗り物でもドアを閉めていればどうにかやり過ごせると思います。
大型肉食恐竜はもちろん危険度も大ですが、これらはハンターである制約上(獲物を走って捕らえる必要上から)、アフリカゾウの範疇より巨大な個体は(確実な化石は)ひとつも見つかっていません。したがってアフリカゾウ以上にパワフルな肉食恐竜は存在しないと考えられます。しかも連中はゾウとは違って二本足で立って暮らしているためいつも転倒のおそれがあり、足場の悪いところをひどく嫌った可能性が高いです。ゆえに堀などに囲まれた環境に避難してしまえばどうにかなるかと思います。
実際に恐ろしいのは、むしろ竜脚類(本作に登場するキャラクターとしては、毛むくじゃらで大きな草食恐竜が該当します)。竜脚類は尻尾が長いので、種類によっては全力でこれを振り回した場合、先端は音速に達すると考えられています。尻尾の先端が人間を直撃した場合は即死を免れないと思いますが、近くで振り回されただけでもその衝撃波で聴力などを奪われてしまう可能性があり、恐ろしい武器だったに違いありません。草食恐竜だからといって油断せず、怒らせないように配慮するのが肝心と思います。

体が羽毛でおおわれた大型竜脚類の映像は「挑戦的で意義のある表現」

Q:羽毛の生えたラプトル、恐竜の交尾シーンも出てきますが、富田さんからご覧になって、研究に則しているなと感じましたか?またはフィクションならではの面白さを感じましたか?

現在、多くの学者は、恐竜も鳥や哺乳類と同じように、活動に必要な熱を自分で作り出し、気温にあまり左右されることなく、一定に保つことができたと考えています。恐竜が他の爬虫類にくらべて寒さに強かった大きな理由のひとつに、体が羽毛でおおわれていたことが考えられます。
1996年以来、中国の遼寧省を中心に、羽毛の残った恐竜の化石が続々と発見されています。それどころか、恐竜よりもずっと原始的とみなされているワニでさえ、羽毛を作るもとになっている遺伝子が発見されており、もともとは体をそれなりの羽毛でおおっていた可能性が指摘されています(現在のワニは極端な少食で、同じ体重の鳥が食べる10数分の1という食物でも生きていけます。ワニはもともと鳥のようなメカニズムを持つ動物だったのに、羽毛を脱ぎ捨て、自分の体内で熱を作り出すことをほぼ諦め、外界の温度に身を任せることで大胆に省エネを実現したのかもしれません)。
単純な作りの羽毛は、ワニに次いで原始的な爬虫類である翼竜の化石からも見つかっています。こうした証拠から、すべての恐竜は元々羽毛を持っていたと考えられます。

いっぽう、ミイラ化して発見された大型恐竜の皮膚の多くは鱗のような皮膚でおおわれています。大型恐竜の多くは羽毛が退化して、鱗のような皮膚でおおわれていたでしょう。でも、これは現在の大型哺乳類であるゾウやサイ、カバなどの毛が薄いように、体が大きすぎて毛づくろいができないなどの衛生的な事情などで、もともとあった羽毛を失った可能性が高いのです。恐竜の化石は当時の北極圏や南極圏内からも数多く見つかっています。恐竜の生きていた環境というと熱帯のジャングルのようなものをイメージしがちですが、当時南極圏内だった1億1千万年前のオーストラリア南部は、年間の平均気温がマイナス2℃~プラス6℃、当時も北極圏内だった7千万年前のアラスカ北部は、年間平均気温が約5℃といわれています。ちなみに現在の地球上では、札幌8.5℃、根室6.1℃、東京15.9℃というデータが得られています。外国ではアンカレジ(アラスカ)2.2℃、レイキャビーク(アイスランド)が4.4℃となっています。つまり、現在の平均気温と比べてすら、かなり「涼しい」環境にも、恐竜はたくさん暮らしていたのです。
結論すると、全ての恐竜には羽毛が生えていた可能性があるので、アロサウルスなどの体表の描き方は、学問的な研究成果に誠実な、まっとうな表現だと思います。
巨大な竜脚類の場合は(ゾウやサイの毛が薄いように)裸に近い外観だった可能性は高いですが、それとて(絶滅したマンモスやケブカサイがそうであったように)高緯度地帯に生息した種族であれば羽毛でおおわれていた可能性は大いにあります。体が羽毛でおおわれた大型竜脚類の復元映像はこれまでほとんど例がなかったので、むしろ挑戦的で意義のある表現だと思い、個人的にはとても気に入っています。

恐竜の交尾姿勢については、鳥、ワニ、トカゲといった近縁な現生動物のポーズをよく観察した結果を踏まえたものとお見受けしました。とても妥当な姿勢だと思います。何よりも、恐竜がモンスターではなく、地球上に実在し、あまつさえ非常に繁栄した「至極当たり前の」動物として存在したことを知ってもらうという意味で、交尾のくだりはこの作品の素晴らしいところであり、私も特に気に入っているシークエンスです。

Q:本作で恐竜に興味を持った方に富田さんがオススメしたい恐竜映画があれば教えてください。
超有名な某シリーズについては、私が紹介するまでもないので割愛致します。

個人的に思い入れが強いのは『極底探険船ポーラーボーラ』(1977年 ランキン・バスプロダクション /円谷プロダクション)で、原題が『The Last Dinosaur』ですから純度の高い恐竜映画に含めてよいと思います。日米合作の映画で、科学考証という意味では現在の水準からみれば辛いのですが、円谷プロによる縫いぐるみ特撮のプラスの面というべき、ティラノサウルスやトリケラトプスの表皮に、ゾウやサイに通ずる乾いた巨獣感が宿っていて迫力満点です。

また恐竜映画ではなく「恐竜の出てくる映画」としては『怪獣総進撃』(1968年 東宝)。私が初めて見た劇場映画でもあります。当時としてはあり得ないくらい考証もクオリティーもしっかりした恐竜『ゴロザウルス』(名称はアロサウルスのもじり)が、パリの凱旋門を跡形なく破壊したかと思えば、ゴジラと共闘、宇宙超怪獣キングギドラに飛び蹴りして窮地に追い込んだりという謎の内容。恐竜が、居並ぶ怪獣の世界に殴り込んでも決して迫力負けしないことを私たちに示してくれた作品です。
最後に、手前味噌で恐縮ですが当方監修のプラネタリウム用CG映画『新オーロラを見た恐竜たち 虹色に輝くアラスカの大地』(2023年 D&Dピクチャーズ)を。これまであまり取り上げられなかった、白亜紀の過酷な北極圏で暮らした恐竜たちの生き様を紹介しています。

『オークストリートの異変』大ヒット上映中
(C)2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
配給:東和ピクチャーズ・東宝

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藤本エリ

映画・アニメ・美容が好きなライターです。

ウェブサイト: https://twitter.com/ZOKU_F

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