「関西最後の一等地」になぜ巨大公園を? 駅直結4.5ha「グラングリーン大阪」が挑む、エリア全体の価値を高めるまちづくり戦略
日本第2の都市、大阪最大のターミナル駅であるJR大阪駅を一歩出ると、大都市の中心地とは思えない大きな空が広がる公園が見えてきます。
公園を中心に据え、商業施設やオフィスの入ったビル、住居棟が並ぶ大型複合開発プロジェクトの名は「グラングリーン大阪」。2027年度の全体まちびらきに先駆け、2024年に一部施設が先行開業しました。注目プロジェクトの現況を取材しました。
都市公園面積、全国最下位の課題感がプロジェクトのきっかけ
ターミナル駅直結の都市公園としては世界最大規模の4.5haの広さを誇る「うめきた公園」を中心に、南北両サイドに商業施設や文化施設、オフィスが入る高層ビルが一体的に開発されたグラングリーン大阪には、日々さまざまな世代の人びとが訪れています。うめきた公園の南側半分を占めるサウスパークには一面に芝生が敷かれ、天気の良い日にはレジャーシートを敷いてピクニックをする人の姿も見受けられます。
うめきた公園サウスパーク。芝生の上で過ごす人びと(撮影/ロンロ・ボナペティ)
これだけの一等地であれば、収益物件を建てることによって得られる経済的利益は計り知れません。一方で、ビルで埋め尽くされてしまうと、まちとしての個性は失われてしまうのも事実です。経済性が求められる都心に広い公園を新たに設ける再開発がどのように行われたのか、グラングリーン大阪の開発およびうめきた公園の運営・管理を担う、三菱地所株式会社の有本慎太郎(ありもと・しんたろう)さんに、お話を伺いました。
有本慎太郎さん。南北の公園をつなぐブリッジ、「ひらめきの道」上から(写真/ロンロ・ボナペティ)
「計画時点で、大阪府は47都道府県のなかで人口一人あたり最も都市公園の面積が小さい状況でした。うめきた公園は、梅田エリアの魅力を向上することを目指して、行政と民間事業者が一体となって整備した公園なんです」
大阪府の一人あたり公園面積は、6.6平米と2024年度末時点でも全国最下位の状況が続いています(国土交通省統計、令和6年度末資料より)。都市の公園は住民のレクリエーションの空間となるほか、都市景観や都市環境の改善、防災性の向上、生物多様性の確保、住民間の交流など、多様な機能を担う都市の根幹となる拠点です。大阪府と大阪市ではパークビジョン構想を掲げ、都市の魅力を高める公園の整備・創出への取り組みを継続しています。
国鉄時代からJRが所有していた旧梅田貨物駅操車場の跡地である24haの敷地の再利用にあたり、産官学で構成される大阪駅北地区街づくり推進協議会が計画を主導しました。うめきた第1期として2013年に大型複合施設、グランフロント大阪が開業し、グラングリーン大阪はうめきた第2期プロジェクトとして進められています。
このうちサウスパークを含むエリアが2024年に先行開業し、現在はノースパーク内「うめきたの森」という空間や南側のレジデンス棟など、残る施設の工事が進められています。グラングリーン大阪全体として9.1haの敷地の中央に位置するのが、広さ4.5haのうめきた公園で、中心部分を通る道路によって敷地が南北に分割されています。
建設が進む、ノースパークの「うめきたの森」(写真/ロンロ・ボナペティ)
敷地の中心を通る道路。頭上のブリッジ、「ひらめきの道」が南北の公園をつなぐ予定(写真/ロンロ・ボナペティ)
グラングリーン大阪の全体マップ。左側が南。サウスパークに多目的な利用が進められる芝生広場があり、ノースパークにうめきたの森の整備が進む(資料提供/一般社団法人うめきたMMO)
「開発にあたっては、この土地単体のことを考えるのではなく、地域の魅力を底上げすることで、周辺も含めたうめきたエリア全体の価値を向上させていくことが目指されました」
エリア全体の価値を高めることが、回り回って開発に関わる民間事業者にとっての利益にもつながる。シンプルな発想ながら、さまざまなステークホルダーが関わる都市開発ではなかなか実現できるものではありません。「関西最後の一等地」と呼ばれた大規模な区画の整備が一挙に行われるという契機だからこそ可能となったのでしょう。
開発を担ったのは、三菱地所を含む9社の共同企業体です。グラングリーン内に建設された施設の開発に加え、「一般社団法人うめきたMMO(以降、うめきたMMO)」という法人を共同で設立し、うめきた公園の指定管理とエリアマネジメントを行っています。
サウスパーク全景。大屋根の後ろ側に大阪駅直結の商業施設があり、大屋根がゲートの役割を果たしている(写真/ロンロ・ボナペティ)
散策路としても魅力的な公園空間がデザインされている(写真/ロンロ・ボナペティ)
公園のアップグレードという投資。デザイン性を高める官民連携の仕組み
「うめきたMMOは、大阪市から50年という長期間での契約で、公園の管理を委託されていますが、開発条件の定めに基づき、指定管理代行料は受け取っていません。一方で、公園内の建物を中心に、大阪市の許認可の下、公園内での一定の経済活動は行えるようになっています。中長期的な視点で公園やエリア全体の魅力づくりに貢献していくための組織として、ひとつの法人で公園の維持管理と街区全体の賑わい創出の双方を担うこととしており、安心安全の担保と場の利活用とが衝突することなく両立を図る体制になっています」
公園管理においては、芝生の保護や安全確保といった公園を守る視点が重要になります。一方でイベントでの公園利用においては、時には芝生に傷みが生じる場合や一般利用者による利用を制限するシーンも出てきます。相反する視点を調停しつつ、どの範囲までの利用を許容するのかといった判断を迅速に行えるのは、ひとつの団体で管理・運営を行っているからこそ可能となる体制といえるでしょう。
芝生をよく観察すると、所々剥げている部分も見受けられる。通年での管理が良い状態を維持するためには重要となる(写真/ロンロ・ボナペティ)
「また公園の整備にあたっては、より良い環境づくりのためにグラングリーンの再開発に関わる民間事業者で資金を拠出し、アップグレードするという方法を取りました。多品種の樹種によって育む生物多様性、噴水を中心とする親水空間、高低差をつけることで回遊性を高めるランドスケープといった空間デザインは、このアップグレードによって可能となった取り組みです。3mの盛り土をS字状に配置することで、空間に奥行きと立体感をもたせるランドスケープは、4.5haという制約のなかで、より広く見せるためのデザイン上の工夫です。この段差はイベント時には観客席としても利用できるように考えられています」
北側の敷地には、建築家の安藤忠雄さんが設計監修を行ったミュージアム「VS.」も設置されています。建物の大部分が盛り土に埋まっており、ランドスケープと建物とが一体的にデザインされています。
噴水の広場と、盛り土によるランドスケープ(写真/ロンロ・ボナペティ)
土手に沿って座る人びと。京都の鴨川沿いのような風景が生まれている(写真/ロンロ・ボナペティ)
下草から低木、立木まで、さまざまな植物によって植栽がつくられている(写真/ロンロ・ボナペティ)
建物の大部分が地下に埋められたミュージアムスペース、VS.の手前には、アート作品も設置されグラングリーンを訪れる人のフォトスポットにもなっている(写真/ロンロ・ボナペティ)
うめきた公園の土地自体は大阪市が所有し、防災機能を有する都市公園として最低限の環境を担保するベースグレードの整備はUR都市機構が担い、付加価値をつけるアップグレードの整備を民間事業者とUR都市機構で行うという、複雑な体制となっています。民間の裁量によって自由度の高いデザインを実現する仕組みですが、これは自治体との深い連携が前提になったものといえます。
「コストを掛けてでもより良い環境を維持することで、中長期的には事業者に還元されていくものと考えています。運営資金を補填するために、公園自体で収益を上げる仕組みも導入しています」
開業以来、企業のイベントでの公園利用や、街区周辺での広告掲示といった、民間で管理するからこそできる公園の活用を進めているそうです。およそ2.3万人を動員した、Superflyのフリーライブや、公園内にプラダの世界観を存分につくり込んだPRイベント、ベイクルーズによる水辺でのファッションショー、さらには落語など、通常の公園では見られない多様な使われ方が広がっています。
イベントスペース、ロートハートスクエアうめきた。イベント利用がない日は、半屋外空間の広場として利用されている(写真/ロンロ・ボナペティ)
官民連携によって民間資金を活用して公園の利用を促進する仕組み自体はPark-PFI事業として全国的な広がりを見せていますが、公園内での投資回収を目指すPark-PFIに対し、隣接する施設も含めたエリア全体での整備がグラングリーン大阪の特徴です。こうした体制は空間のデザインにも表れており、どこからが公園でどこからが民間敷地なのか、一見するとわからない、シームレスなゾーニングが実現されています。
デッキから通路部分を見下ろしたところ。左側に商業施設群、南館が見える。民間敷地と公共敷地とがシームレスにつながっている(写真/ロンロ・ボナペティ)
「都心とはいえ、広い空間を用意すれば人が集まり、使っていただけるというわけではありません。アップグレードによって空間の魅力を高める仕組みは、既存の公園を流用するのではなく、新規に開発を行ったからこそ機能した国内でも珍しい事例だと思います」
またグラングリーンが掲げる「『みどり』と『イノベーション』の融合」という理念に共感する企業との共創を目的とした、「MIDORIパートナー制度」も設けています。北館や園内の公園内建築に設けられたイノベーション施設「JAM BASE」での活動をはじめ、多様なバックグラウンドをもった人びとが関わり合い、新たな出会いが生まれる機会の創出を推進しています。
「『みどり』と『イノベーション』の融合」のコンセプト図。公園を活動の基盤とする新しいイノベーション創出の機会が模索されている(画像提供/うめきたMMO)
目指すは街のアイコン。市民に愛され、シビックプライドを育む場所へ
「また計画に際しては、海外の事例調査も行い、特にニューヨークにあるブライアントパークでは、市民に愛される公園運営を行っていくためにどのような工夫がなされているのか、現地でヒアリングも実施しました。リサーチの成果はうめきた公園の事業計画や運営計画の検討に反映されています」
街区全体としての価値向上を図る取り組みは事業としても功を奏しており、2026年3月にオープンした北側の分譲マンションは完売の状況だそう。最上階の1部屋は、関西で史上最高値となる25億円での売約となり、長期間にわたる再開発事業の努力が実った成果といえるでしょう。
有本さんが、今後力を入れていきたいと語るのが一般市民による公園利用の促進です。
「現在、レジャーシートやチェア、ボウリングセットなど無料で貸し出しをしているアイテムのほか、モルックやバドミントンのセットなど有料でレンタルできるものも用意しています。特にモルック(※)は人気で、子どもからお年寄りまでさまざまな方に楽しんでいただいています」
※モルック:フィンランド発祥のスポーツ。木の棒を投げて複数のピンを倒し、その点数を競う
無料で貸し出しているレジャーシート(画像提供/うめきたMMO)
有料で貸し出しているモルックセット。1日レンタルで税込500円(画像提供/うめきたMMO)
日々の利用に加え、新たに「みどりクラブ」という枠組みを設け、さらなる利用促進にも力を入れていくそう。
「フラッと立ち寄って気軽に楽しめる利用だけでなく、うめきたMMOが認定した地域の市民団体などによるイベント利用なども今後行っていきたいと考えています。市民の方から公園利用のお問い合わせもいただいており、試験的に小規模でのイベント開催を進めています。過去には数十人規模でのモルックイベントなどを主催していただきました。みんなの公園である場をどのように活用していけるか、探り探りではありますが工夫していきたいところですね」(有本さん)
またエリア全体での価値創出という観点では、第1期として開業したグランフロントとの連携にも取り組んでいるそう。2025年クリスマスにはスタンプラリーなどのコラボイベントといった取り組みも実施しました。
「海外の事例を見て印象に残っているのは、公園がその街のアイコン的な存在として愛されている姿でした。シカゴのミレニアムパークなど、だれもがひと目見てその公園だとわかるモニュメントを前に人びとが写真を撮っている。グラングリーンにもアイコンとなるものをつくろうと、世界的な建築家ユニットであるSANAAさんが設計を手掛けた大屋根が設置され、シンボルとなっています」(有本さん)
大型複合施設、グランフロント大阪方向を見る。前面に公園がオープンしたことで、集客力の向上が期待される(写真/ロンロ・ボナペティ)
グラングリーン大阪からJR大阪駅方面への連絡通路。エリア全体としての回遊性を高める設計が行われた(写真/ロンロ・ボナペティ)
シルバーに輝く3つの大屋根が連なる、SANAA設計の大屋根。手前がイベントスペース、奥の2つには情報発信施設と商業店舗が入っている(写真/ロンロ・ボナペティ)
「日々公園の運営に携わっていると、子どもからお年寄りまで、本当にさまざまな方が思い思いに使っていただいていて、その笑顔を見るのがなにより嬉しいです。ただ、まだまだ大阪市民に十分知れ渡っているとはいえない状況と考えています。もっと多くの方に利用してもらうために、長期的な視点で認知を広げる工夫をしていきたいです。いつか大阪市民であれば誰もが知る公園になり、誇りに思ってもらえる、シビックプライドを醸成するような場所に育てていきたいと思っています」
前例のない官民連携のあり方によって、複合施設と公園との新しい関係を示したグラングリーン大阪。2027年度の全面開業への期待も高まります。
周辺街区の魅力を高める都市公園の姿を、ぜひその目で確かめてみてください。
●取材協力
グラングリーン大阪
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