「屋外卓球台」で下町商店街の空き地が激変! 多世代入り混じる遊び場へ。チーム対抗戦を見ながら話を聞いてきた 墨田区京島
商店街の活性化と言えば、お祭り、グルメフェス、謎解きイベントなど、全国各地で取り組みは多々あるが、まさか「卓球台を置こう」という発想にはなかなかならない。これを実践して盛り上がっている例が、京島(東京都墨田区)にある。
商店街の活性化という文脈で語られることも多いが、この取り組みは必ずしもそれだけを目的としたものではない。ここで展開されているプロジェクトは、公共空間に新しい使い方や関係性を生み出す試みでもある。
実際、どういうものなのか。現地で主催者に話を聞くとともにガチンコで卓球対決をしてきた。
地域密着型の商店街として近隣の住民から愛されてきた「キラキラ橘商店街」
墨田区京島の「キラキラ橘商店街」。正式名称は「向島橘銀座商店街」だが、このインパクト大でかわいらしいネーミングは1985年に公募で名付けられたという。
最寄駅は東武鉄道スカイツリーライン(伊勢崎線)・亀戸線「曳舟」駅、京成電鉄押上線「京成曳舟」駅(写真撮影/石原たきび)
「キラキラ橘商店街」はいわゆる駅前商店街ではなく、徒歩で最寄駅から10分以上かかる立地。そのため、地域密着型の商店街として近隣の住民から愛されてきた。
東京スカイツリーも目と鼻の先(写真撮影/石原たきび)
同商店街は全長約470m。京島エリアは関東大震災、東京大空襲で奇跡的に火災の被害から逃れため、昭和初期のたたずまいも色濃く残っている。
地域貢献・地域経済の活性化などの取り組みが評価されて、経済産業省中小企業庁が2013年に発表した「がんばる商店街30選」では、東京都で唯一選ばれた(写真撮影/石原たきび)
ぶらぶら歩いてみると確かにあちこちに懐かしい昭和の風情を感じる。
創業100年超でコッペパンと揚げパンが人気の「ハト屋パン店」(写真撮影/石原たきび)
今年で28回を数える「つまみぐいウォーク」という人気イベントでは、チケットを購入すれば約30店舗の惣菜やスイーツを少量ずつ食べ歩ける。
「あじ南蛮」や「ポテトウインナーチーズ焼」などが人気の惣菜店「デリカショップくるみ」(写真撮影/石原たきび)
商店街散歩も中盤に差し掛かったあたりに、何やら人だかりが。
のぞいてみると――(写真撮影/石原たきび)
卓球台だ。
これは屋外に常設の卓球台を置いて誰でも無料で楽しめるプロジェクトであると同時に、公共空間の使い方をひらくことを目的としたアートプロジェクト「Ping Pong Platz(ピンポンプラッツ)」(以下PPP)(写真撮影/石原たきび)
当日は商店街チーム対抗戦が開催されていた。PPP発起人の一人である灰谷あゆむ(はいたに・あゆむ)さんにご挨拶。
写真の一番左が灰谷さん。右のお二人は同じくPPP発起人であるイタリア人アーティストのジャコモ・ザガネッリさんとデザイナーのシルビア・ピアンティーニさん。フィレンツ出身で、現在はドイツのベルリン在住。コンテンポラリーアートの作家である男性は友人の紹介で京島との縁が生まれた。今回の日本滞在は3カ月だという(写真撮影/石原たきび)
さて、灰谷さん。「Ping Pong Platz」を始めた経緯を教えてください。
「まちづくりや活性化という文脈で理解されることもありますが、もともとは『墨田の街中に卓球台があったら楽しそう』という純粋な感覚からスタートしたものです。ただ、そのワクワク感が出発点だったからこそ、結果として街や商店街の皆さんとも自然に連携しやすかった、という側面はありますね」
隅田川をテーマにしたアートプロジェクト「隅田川 森羅万象 墨に夢 2024」で作成したポスターも張ってあった。
同イベントでは木の端材などでつくるラケットワークショップなども行った(写真撮影/石原たきび)
なお、灰谷さんは京島でコーヒーとけん玉の店「muumuu coffee(ムームーコーヒー)」を経営している。
けん玉は友人が店に置いていったもので遊んでいたらハマったという(写真撮影/石原たきび)
DIYでリノベーションをした内装は居心地のよい空間(写真撮影/石原たきび)
卓球はというと――。
「店を営むなかで多くの出会いがありますが、なかでも大きかったのが、ここ京島で出会ったジャコモとシルビアとのつながりです。彼らは何度も京島へ足を運んで少しずつ地域に溶け込んでいき、その姿を見るうちに、僕自身も彼らの拠点であるベルリンを訪ねてみたいと思うようになりました。
その際、彼らから『ベルリンに来たら一緒にピンポン(卓球)をしよう』と誘われたんです。最初は『卓球は好きだけど、なぜわざわざベルリンで?』と不思議に思っていました。
しかし、2022年に実際に現地を訪れてみて、その言葉の意味がすとんと腑に落ちました。公園には当たり前のように卓球台が置かれていて、人々が本当に自由気ままに楽しんでいるんです。ビールを片手にラケットを握る人もいれば、その傍らでピクニックをする人、寝転がっている人やランニングをする人もいる。卓球台をハブにして、一つの空間のなかに多様な暮らしや過ごし方が自然に溶け合っている。その景色を見て、『なんていい空間なんだろう』と心から感動したのを覚えています。
ベルリンでの体験が頭から離れず、彼らと『墨田で何か一緒にできないか』と話し合いました。すると帰国後しばらくして、彼らから『PPP(ピンポン・プロジェクト)』の提案書が送られてきたんです。
そこからは『とにかく、とりあえずやってみよう』と、地域で興味を持ってくれそうな人や、一緒に動いてくれそうな仲間に声をかけまくりました。ジャコモたちもわざわざ墨田に来てくれて、一緒に区役所へ相談に行ったり、いろんな人に想いを話したりしながら、少しずつ実験(トライ)を重ねていったんです。
転機となったのは2023年です。墨田区のアートプロジェクト『隅田川 森羅万象 墨に夢』に採択していただき、予算を使ってたくさんのポップアップ(期間限定イベント)を実施できるようになりました。具体的には、墨田区内で使われなくなった卓球台を譲り受けて自分たちで保管し、車で運び出しては、公園や空き地、高架下などに1日単位や1週間単位で設置していく。そんな地道な形で、街の中に卓球台のある風景を広げていきました」
話を聞いている間も白熱の試合が展開されている(写真撮影/石原たきび)
「ただ、毎回卓球台を運搬して、その都度場所の許可を取る……というのは、正直なところかなり大変でした(笑)。そのため、2024年を迎えるころには、もう少し長い期間、連続して設置できる場所はないかと模索するようになったんです。
そんなときに候補に挙がったのが、商店街の中にあった空き地でした。ここはもともと、車庫付きの住居が建つ予定だったのですが、商店街や近隣の方々から様々な意見が出て計画がストップし、しばらく未活用のまま残されていた場所だったんです。
その後、この土地をUR都市機構さんが所有することになり、運よくタイミングが合致しました。URさんとは1年目から実験的な試みでご一緒していたこともあって、お話は自然な流れで進み、数カ月間土地をお借りして卓球台を置くPPPのイベントを開催させていただけることになりました。
さらに嬉しかったのは、そのポップアップが終わった後の展開です。イベントが終わったからといって、再びフェンスで閉ざされた空き地に戻してしまうのではなく、『地域に開かれた場として継続していこう』という機運が生まれ、URさんが『AKICHI+(アキチプラス)』としてこの場所を正式にオープンすることになりました。現在も引き続きコラボレーションさせていただいており、PPPの屋外卓球台もリニューアルされ、今の日常の風景へとつながっています」
商店街チーム対抗戦は参加メンバーの年齢層が幅広い。しかも、全員が地元住民ということでふだん接点のない人々の交流の場にもなっていた。
1プレイごとに大きな歓声が沸く(写真撮影/石原たきび)
即席ミックスダブルスは多世代混合戦(写真撮影/石原たきび)
参加者の中にはフランス北部・ノルマンディー出身の女性もいた。聞けば彼女はアート関連の仕事をしており、3年前から京島に住んでいるそうだ。
「京島は美術系の展示などを行うスペースがたくさんあります。あとは、ほかの東京のまちと違って人がみんな親切ですね。フランスは卓球もバドミントンも盛んですよ」
プレイを見たが、やたらうまかった(写真撮影/石原たきび)
続いて目を引いたのが高校生らしき4人組。
この歳で「ザ・タイマーズ」(1988年から活動、“忌野清志郎似”のZERRY率いる覆面バンド)のコスプレは素晴らしい(写真撮影/石原たきび)
「すぐ横の『こんこん』っていうたこ焼き屋さんの客なんです。店の人から『うちの代表として出なよ』と言われたので、気合を入れて参戦しました」
「こんこん」は2025年放送の『出没!アド街ック天国』(テレビ東京系)の墨田区曳舟回でも紹介されたという。
たこ焼きのタコはかなり大きめにもかかわらず6個で350円(税込)(写真撮影/石原たきび)
ああ、これですね(写真撮影/石原たきび)
タイマーズの少年は「こんこん愛」が過ぎるあまり、特製のTシャツまでつくって臨んでいた。
なんだか楽しそうなバイト先だ(写真撮影/石原たきび)
昨年7月に目黒から京島に引越してきたという男性(27歳・IT系)にも話を聞いた。
「僕も含めて卓球歴はここ何カ月という人が多いんですが、みんなレベルが高いです。京島はめちゃめちゃ過ごしやすい。道を歩いていて『あー、こんにちはー』みたいな感じは初めてです。休日はここに来て卓球して、muumuuであゆむさんとおしゃべりしながらけん玉して、みたいな日々ですね」
卓球とけん玉と京島に魅せられた青年(写真・右)(写真撮影/石原たきび)
実は、現在の形へとリニューアルされる前、2024年10月に開催されたポップアップでは、この場所の記憶を象徴するようなある試みがあった。京島を拠点に活動するアーティスト・ヒロセガイさんたちが、コンクリートと単管を組み合わせて手づくりした卓球台を、2カ月以上にわたって設置したのだ。当時の地面はまだアスファルトではなく、卓球台の下のむき出しの土には、野花も植えられていたという。
「そのとき設置した卓球台は本当に多くの人に使われ、地域のみんなの間に強い愛着が生まれていました。だからこそ、ガイさんたちが紡いでくれたストーリーをこれからの場所にもつなげられたらと思ったんです。現在の形に整備するにあたってURさんと相談し、当時のコンクリートの天板は、新しい卓球台の土台として今もそのまま残されているんですよ」と灰谷さん。
現在置いてある鉄製の屋外卓球台は、発起人の一人であるイタリア人アーティスト・ジャコモ・ザガネッリ氏より無償で貸与された(写真撮影/石原たきび)
最後に、キラキラ橘商店街の事務局長・大和和道さんに話を聞いた。この商店街の魅力とは?屋外卓球台は活性化につながったのか?
「1970、80年代のピーク時は137店舗あったんです。それがバブル崩壊や大店法の撤回などで60店舗ぐらいに減りましたが、今はまた81店舗まで持ち直した。これはなかなか珍しい例だと思います」
コロナ禍も商店街の方向性を変えるいいきっかけになったという。それまでは「買ってくれ」が最優先。しかし、コロナを機に「面白いよ」「楽しいよ」という方向に転換した。中小企業庁によれば、現在、商店街は全国に約1万2000以上存在しており、それらは超広域型、広域型、地域型、近隣型に分けられる。キラキラ橘商店街は典型的な近隣型。地域密着で半径500~700mに住む人たちに愛される商店街を目指しているという。
屋外卓球台ができたときは「若い人たちが遊べる場所ができた」と喜んでいた(写真撮影/石原たきび)
あらためて商店街を歩いてみると、老舗に混じって若者が手掛ける店舗もいくつかできていた。以下の2店はともに2025年オープン。
魚屋の建物をリノベーションした古書店「kamos(かもす)」(写真撮影/石原たきび)
「大衆カレーの店」をうたう「パラダイス食堂」(写真撮影/石原たきび)
ひと通り取材を終えて、最後のミッションがある。そう、灰谷さんと卓球のガチンコ対決をするのだ。じつは中学時代は卓球部で市大会で準優勝している、そう告げると「ボコボコにしてやってください」と笑っていた。
しかし、フタを開けてみると惨敗。ブランクがあるといえど、これほどまでに体が動かないのか。
ここに通って精進します……(写真撮影/石原たきび)
「昔から住んでいる人は、自転車が通れないぐらいにぎわっていたころの話をしてくれます。12年前に僕が来たときは新しいお店はほとんどなかった。でも、だんだん増えてきているし、今後も卓球との相乗効果で商店街を盛り上げていければ」
何よりもいいなと思ったのは屋外に卓球台があるということ。これが体育館だったら特定の卓球ファンしか集まらないはず。しかし、ここでは卓球なんてやったことない人もたくさんいた。そして、みんな本当に楽しそうだった。
(写真撮影/石原たきび)
●取材協力
キラキラ橘商店街
muumuu coffee
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