50代夫妻、築50年超の自宅をカラフルにDIY! 仲間達と一緒に「老後も人が集まる場所」づくり楽しむ 千葉・市川市

築50年超の「セキスイハイムM1」が家族の歴史ごとよみがえった。50代からのリノベーションという選択

千葉県市川市に、ひと目でそれとわかるユニークな外観の家がある。1971年に登場した工業化住宅の先駆け「セキスイハイムM1」を、50代の夫婦がリノベーションし、自分たちの色に染め上げた。地域の仲間100人(!)を巻き込んだDIYを通じて今後50年の未来を見据えた、豊かな選択の物語だ。

この家が、この地域が好きだから、住み続けると決めた

グレーの外壁に、黄色の半円のアクセント。手づくりの鯉のぼりが飾られた愛らしい玄関ポーチから家の中に入ると、パッとワンルーム空間が開け、たくさんの色が目に飛び込んでくる。まるでにぎやかな音楽のシャワーを浴びているような、楽しい気分になる。

外壁や玄関まわりにテーマカラーである黄色の半円形モチーフが。三角形のサインは住所ではなく、名字の「ミナト」を表す(写真撮影/相馬ミナ)

外壁や玄関まわりにテーマカラーである黄色の半円形モチーフが。三角形のサインは住所ではなく、名字の「ミナト」を表す(写真撮影/相馬ミナ)

玄関ポーチにはいつも季節の飾り付けをしているそう(取材日は4月半ばだったため「こどもの日」イメージの飾りつけ)。行事がない時期には庭の花を生けられるようなしかけも用意されている(写真撮影/相馬ミナ)

玄関ポーチにはいつも季節の飾り付けをしているそう(取材日は4月半ばだったため「こどもの日」イメージの飾りつけ)。行事がない時期には庭の花を生けられるようなしかけも用意されている(写真撮影/相馬ミナ)

「リノベーション・オブ・ザ・イヤー2025」で総合グランプリを受賞したこの家に暮らすのは、湊セイヤさん・マミさん夫妻とご家族。部屋を埋め尽くすペイントや作品の数々は、マミさん本人や、マミさんが主催するアート教室の子どもたちなどによるものだ。「天井のペイントは、リノベーションした当初、アート教室の子どもたちと一緒に、床に置いた板に絵の具を散らして遊んだものなんです」

現在50代の湊夫妻とこのM1住宅との出合いは、2005年にさかのぼる。当時マンションに暮らしていた一家は、幼い子どもたちが立てる音について下の階から苦情を受けていた。そこへ重なるように、長女と次女のひと言が背中を押した。「外(庭)でごはんが食べられる家に住みたい」。エリアを変えずに庭のある家を探したところ、偶然見つかったのが、このM1住宅だった。

実は、マミさん自身も高校生までM1住宅で育っている。縁というほかない巡り合わせが、夫妻を当時築34年だったその家の購入へと導いた。

購入時はすでに傷みが激しかったため、大工の友人に声をかけ、引越し前日まで仲間たちと一緒に、天井・床・屋根・水まわり設備を修繕した。セイヤさんは笑いながらこう振り返る。「当時の持ち主の方に、『え、建て替えずに、これに住むんですか?』って驚かれたぐらい、ボロかったんです」。それでも2人は、この家の「四角い外見」を含めた雰囲気が好きだった。

Beforeの外観。淡白な色合いの外壁で、部分的に塗装の激しい傷みが見られた(画像提供/つみき設計施工社)

Beforeの外観。淡白な色合いの外壁で、部分的に塗装の激しい傷みが見られた(画像提供/つみき設計施工社)

現在の湊家。箱型のユニットを組み合わせた外観は、開発当時は未来的な工業化住宅として注目された(写真撮影/相馬ミナ)

現在の湊家。箱型のユニットを組み合わせた外観は、開発当時は未来的な工業化住宅として注目された(写真撮影/相馬ミナ)

20年間育て続けた、この家と地域コミュニティ

引越した当初は白ベースだった内装が、20年の暮らしの中で、マミさんの感性でじわじわとカラフルに育っていった。柱には子どもたちの身長がたくさん刻まれ、壁にはマミさんがセイヤさんへの誕生日プレゼントとして絵を描いた。

Beforeのリビング・ダイニング。ダイニング上にも普通に天井が張られていたため、今より開放感が少なく、カラフル度合いも控えめ(画像提供/つみき設計施工社)

Beforeのリビング・ダイニング。ダイニング上にも普通に天井が張られていたため、今より開放感が少なく、カラフル度合いも控えめ(画像提供/つみき設計施工社)

現在のリビング・ダイニング(写真撮影/相馬ミナ)

現在のリビング・ダイニング(写真撮影/相馬ミナ)

マミさんはそのセンスを生かして、2019年ごろからアート教室を開いている。一方のセイヤさんは、自転車まわりのプロダクトを扱う店を長年営み、市川を拠点にコミュニティづくりを続けてきた。海外から面白い自転車乗りたちが集まるようになり、この家にも多くの人が泊まった。

ほかにも地域の活動として、「ニューボロイチ」という地域のお祭りを仲間たちと始めたり、50人規模の市民農園を営んだり。地元愛から勝手につくった「ICHIKAWA CITY」のロゴ入りTシャツは、いまや市役所で販売されるまでになっている。

この家は、2人の活動の拠点でもあり、地域とつながる玄関口でもあった。

結婚してすぐに、地元で自転車まわりのグッズを販売する店を始めたセイヤさん(写真撮影/相馬ミナ)

結婚してすぐに、地元で自転車まわりのグッズを販売する店を始めたセイヤさん(写真撮影/相馬ミナ)

リノベーション後、念願かなってアート教室の場を自宅に移し、いっそう自由さをパワーアップさせたマミさん(写真撮影/相馬ミナ)

リノベーション後、念願かなってアート教室の場を自宅に移し、いっそう自由さをパワーアップさせたマミさん(写真撮影/相馬ミナ)

「建て替え」か「リノベ」か。背中を押したのは建築家の友人

リノベーションを決意したのは、購入から20年たった2025年。浴室の機器が不調になり、各所で進む傷みを持て余し始めてもいた。マミさんはかねがね、アート教室を自宅で開くことでもっと自由な活動をしたいと思っていたが、それを可能にするには広いスペースも必要だった。

長女と次女が社会人となり、家族構成が変わり始めるタイミングも重なった。建て替えも頭をよぎったが、セイヤさんはこう語る。「僕らはこの家が建物として好きだし、この先また数十年住めるように、なんとかうまくやれないかと考えました」。相談を持ちかけたのが、地元の友人として付き合いのあった建築士の河野直(こうの・なお)さん・桃子(ももこ)さん夫妻が率いる、設計事務所「つみき設計施工社」だった。

河野さんたちもまた、このM1住宅の魅力を熟知しており、さらに開発者である建築家・大野勝彦氏とのつながりもあったことから「絶対に残すべき」という強い後押しを得た。「つみきさんが、これかっこいい、面白いよって背中を押してくれたので迷いが吹っ切れました」とセイヤさん。

M1はユニット住宅の金字塔。ユニット化されているがゆえの難しさもあるが、鉄骨造なので間取りの自由度が高い点では、リノベーションに向いているといえる。

マミさんは、アート教室で子どもたちに、児童小説の名作『長くつ下のピッピ』(岩波書店)のような自由さを伝えたいという想いで「アートギャングピッピ」と名付けた(写真撮影/相馬ミナ)

マミさんは、アート教室で子どもたちに、児童小説の名作『長くつ下のピッピ』(岩波書店)のような自由さを伝えたいという想いで「アートギャングピッピ」と名付けた(写真撮影/相馬ミナ)

スチール製の階段はM1住宅のオリジナル。正面は刷新された水まわり。右に見えるカラフルな板絵は、セイヤさんの誕生日に贈られたマミさんの作品。リノベ工事の際は丁寧に外し、完了後、大切に戻された(写真撮影/相馬ミナ)

スチール製の階段はM1住宅のオリジナル。正面は刷新された水まわり。右に見えるカラフルな板絵は、セイヤさんの誕生日に贈られたマミさんの作品。リノベ工事の際は丁寧に外し、完了後、大切に戻された(写真撮影/相馬ミナ)

「遊べるキャンバス」として開放された、新しい1階

今回のリノベーションのコンセプトを、河野さんはひと言でこう表現した。「キャンバスのような、遊べる家」。
「湊さん夫妻はこの家で季節のイベントを楽しんだり、自分たちの制作したものを飾ったり、来るたびに様子が変わっているくらい楽しんでいたんです。そういう暮らし方を知っていたので、よりたくさん遊べる家になるように心がけました」

1階は千客万来の湊家らしく、玄関を開けたときにぱっとLDKスペースが広がるように、不要な壁を取り払い、ひとつながりの大きなフロアへと刷新した。閉鎖的だったキッチンは、お料理好きのセイヤさんがますます楽しめるように、来客と向き合えるアイランドカウンターを造作。カウンターの幕板は、あえてまっさらな状態で引き渡されたが、今ではカラフルなペイントが施されている。

色のベースになったのは、ダイニングの天井を抜いたときに現れた、鉄骨の梁(はり)。現れた辛子色のペイントに「めっちゃいいじゃない」という声が上がり、それがテーマカラーとなった。外壁の黄色いアクセントや、黄色いキッチンはその流れで決めたものだ。

玄関まわりの収納は、元々あった造作家具を流用してリメイク。DIYと工夫を重ねて予算およそ1000万円に収め、この家だけにある色と記憶を丁寧に受け継いだ。

黄色のテーマカラーの元になったカラシ色の鉄骨梁と、アート教室の子どもたちが絵の具を散らして描いた、ダイニング・キッチンの天井。吊り棚は後から友人が造作した(写真撮影/相馬ミナ)

黄色のテーマカラーの元になったカラシ色の鉄骨梁と、アート教室の子どもたちが絵の具を散らして描いた、ダイニング・キッチンの天井。吊り棚は後から友人が造作した(写真撮影/相馬ミナ)

キッチンカウンターの幕板にほどこされたマミさんのペイント。「すでに3回ぐらい塗り替えられている気がします」と河野さん(写真撮影/相馬ミナ)

キッチンカウンターの幕板にほどこされたマミさんのペイント。「すでに3回ぐらい塗り替えられている気がします」と河野さん(写真撮影/相馬ミナ)

キッチンの背面に造作した作業カウンターが、来客と会話しながらの料理を可能にしてくれる。セイヤさんが主催する塾の生徒たちを招き、料理対決をしたことも(写真撮影/相馬ミナ)

キッチンの背面に造作した作業カウンターが、来客と会話しながらの料理を可能にしてくれる。セイヤさんが主催する塾の生徒たちを招き、料理対決をしたことも(写真撮影/相馬ミナ)

手づくりのアイスクリームを慣れた手つきでサーブするセイヤさん。「材料を混ぜるだけだから簡単ですよ」(写真撮影/相馬ミナ)

手づくりのアイスクリームを慣れた手つきでサーブするセイヤさん。「材料を混ぜるだけだから簡単ですよ」(写真撮影/相馬ミナ)

ソファの後ろが玄関。壁を取り払ってLDKとつなげたことで、広々した空間に変わった(写真撮影/相馬ミナ)

ソファの後ろが玄関。壁を取り払ってLDKとつなげたことで、広々した空間に変わった(写真撮影/相馬ミナ)

Beforeのリビングは玄関と壁・ドアで区切られていた。壁の装飾はリノベーション後も一部移植・再現されている(画像提供/つみき設計施工社)

Beforeのリビングは玄関と壁・ドアで区切られていた。壁の装飾はリノベーション後も一部移植・再現されている(画像提供/つみき設計施工社)

延べ100人が参加した、DIYリノベの現場

設計・施工を河野さんたちに委ねながらも、この家のリノベーションには近所の友人たち、アート教室の子どもたち、そして地域のコミュニティのメンバーたちが次々と集まった。家具の運び出しや解体の日、仕上げ塗装の日、コンクリートブロックを壊す日……。延べ100人もの人がDIYに関わったという。

天井板の塗装ワークショップには、アート教室の子どもたちが30人近く参加。外壁の黄色い半円は、マミさんの描いたスケッチを河野さんたちが図面化し、湊ファミリーがペイントした。

近所に仮住まいを始めたのは2023年の11月。暮らしへの負担をできる限り抑えるため、なるべく早く住める状態に持っていく必要があった。「DIYは過酷な部分もありましたね。寒い時期だったし、重い作業もあったし」とマミさん。しかし、セイヤさんはこう続けた。「参加してくれたみんなには感謝しかないけど、お礼を言ったら、『いや、こっちこそありがとうだよ』って言ってもらえたんです」

快く手を貸した人たちは、この場所と夫妻の魅力に引き寄せられ、自らも楽しんでいたのだろう。

リビングの壁の黄色い模様など、ここにもアート教室の子どもたちの手が加わっている(写真撮影/相馬ミナ)

リビングの壁の黄色い模様など、ここにもアート教室の子どもたちの手が加わっている(写真撮影/相馬ミナ)

マミさん「セイヤは自転車を一から組み立てたり料理をしたり、私は絵を描いたり。2人とも手でつくり出すことが好きだから、DIYも楽しめるんでしょう」(写真撮影/相馬ミナ)

マミさん「セイヤは自転車を一から組み立てたり料理をしたり、私は絵を描いたり。2人とも手でつくり出すことが好きだから、DIYも楽しめるんでしょう」(写真撮影/相馬ミナ)

リノベーションで想定外の変化も受け入れるゆとりが生まれた

リノベーションを終えて暮らし始めると、変化は予想を超えて広がっていった。マミさんは言う。
「建物の古さからくる小さなストレスが消え、自分の好きな住みやすい空間になったら、想像力が広がって新しいアイデアがたくさん浮かぶようになったんです。自分でもびっくりして」

思春期の長男は、ラグビーの部活に追われる毎日の中でも、家で手早く料理をするようになったという。幼いころから好きだった料理へのモチベーションが、リノベーションを機にまた呼び起こされたようだ。もともと仲良しの家族だが、居心地よさがバージョンアップされたリビングで一緒に過ごす時間はさらに長くなり、友達もより一層頻繁にやってくるようになった。

そして取材の日の午後から、マミさんのお母さんとの同居が決まっていた。リノベーション前には想定もしていなかった出来事だが、「リノベーションが完了していたことで、自然に受け入れられた部分があると思います」とセイヤさんは言う。家が整っていることは、家族の変化を柔軟に受け止めるゆとりになっている。

湊家の3人の子どもたちと、アート教室の子どもたちの身長の推移まで刻まれた柱。その上、自由な書き込みも増殖中(写真撮影/相馬ミナ)

湊家の3人の子どもたちと、アート教室の子どもたちの身長の推移まで刻まれた柱。その上、自由な書き込みも増殖中(写真撮影/相馬ミナ)

ダイニングに面したこの部屋は、子ども部屋として使っていたが、間仕切りを取り払ってマミさんのアトリエに用途を変更した(写真撮影/相馬ミナ)

ダイニングに面したこの部屋は、子ども部屋として使っていたが、間仕切りを取り払ってマミさんのアトリエに用途を変更した(写真撮影/相馬ミナ)

壁という壁すべてが作品で埋め尽くされギャラリーに(写真撮影/相馬ミナ)

壁という壁すべてが作品で埋め尽くされギャラリーに(写真撮影/相馬ミナ)

60歳になる前に、次の50年をどこで生きるか考えて動く

湊夫妻の選択は、まだ体力も気力も旺盛な50代に、夫婦がこれからの人生をどこでどう暮らすかーーそのことを多くの人に問いかけるモデルケースになり得る。

コスト面でも興味深い。20年前、建物の価値ゼロ、1650万円で購入した物件に、今回の約1000万円のリノベーション、その他これまでの修繕費を加えても3000万円弱。現状この地域の新築が4000万円以上することを考えれば、割安なうえに、自分たちだけの物語が詰まった家が残る。

マミさんは、確かな実感を込めて言う。「広さはリノベ前と全く同じなのに、気持ちが全然違います。すごく伸び伸びしました」

セイヤさんはこう重ねる。「将来僕たちが住まなくなっても、子どもたちか誰かが住むかもしれないし、気に入ってくれる人がいるんじゃないか。価値を感じてもらえるような家にできたと思います」

小窓のカーテンや、棚に置かれているものまで含め、すべてがマミさんの“表現”になっている(写真撮影/相馬ミナ)

小窓のカーテンや、棚に置かれているものまで含め、すべてがマミさんの“表現”になっている(写真撮影/相馬ミナ)

「ここに居場所があるから、ここに住む」建物や立地より大切なこと

この家に集まってくる人たちのことを話すとき、セイヤさんの言葉に熱がこもった。

「老後の暮らしを考えたときに、“居場所”の問題があると思っていて。僕たちはたまたま生まれも育ちも市川で、たまたま長く住むことになった。その過程で、仲の良い友達ができ、いろんなコミュニティが生まれました。家や場所ありきじゃなくて、自分たちの生きてきた中で、知り合った人たちとの関係性を深く結べる、それが豊かな老後のためにより大切になってくると思っていて。無限に選択肢がある中で、それがあるから、僕たちはここに住み続けると決めたんです」

「ちょっと前までの夫婦の会話は、子どもたちの話題が多かったと思いますが、今は畑に何の種をまくかを相談したり。会話をますます楽しんでいます」とマミさん(写真撮影/相馬ミナ)

「ちょっと前までの夫婦の会話は、子どもたちの話題が多かったと思いますが、今は畑に何の種をまくかを相談したり。会話をますます楽しんでいます」とマミさん(写真撮影/相馬ミナ)

この日は、長女が仕事のかたわらで活動しているバンドの練習後、メンバーが庭に集まりくつろいでいた。庭のフェンスは別途工事で仲間たちとつくったもの(写真撮影/相馬ミナ)

この日は、長女が仕事のかたわらで活動しているバンドの練習後、メンバーが庭に集まりくつろいでいた。庭のフェンスは別途工事で仲間たちとつくったもの(写真撮影/相馬ミナ)

家は、暮らしの器だ。しかし、湊夫妻の家は、器以上のものになっている。アートの場であり、コミュニティのハブであり、子どもたちが帰ってくる場所であり、友人が集まる台所であり、夫婦2人、庭でコーヒーを飲みながら静かに次の楽しみを考える場所だ。リノベーションが、豊かな人間関係の未来を約束してくれた。

築50年超のM1住宅は、20年越しの家族や仲間たちとの記憶をまるごと抱えたまま、次の50年へと歩み始めた。

●取材協力
設計・施工|つみき設計施工社(共同代表:河野直・河野桃子)

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