【7時間の作業がたった5分に!?】プログラミング未経験の銀行員が、生成AIなどのテクノロジーで「大量のコピペ業務」を自動化するまでのリアルな舞台裏
「銀行の裏側」と聞いて、どんな光景を想像しますか? お札を数える姿でしょうか。それとも、パソコンに向かって難しい計算をしている姿でしょうか。
デジタルバンク「みんなの銀行」は、スマートフォンひとつで口座開設から振り込みまで完結する新しい銀行です。
2021年5月にサービス提供開始して以来、多くのお客さまに口座を開設していただいていますが、口座数が増えるにつれて、実は「裏側のオペレーション(バックオフィス)」も比例して増加していました。
今回は、そんな裏側業務の一つである「疑わしい取引の届出業務」において起きた、劇的な業務改善のストーリーをお届けします。
なんと、手作業で「約7時間」かかっていた作業が、生成AIなどのテクノロジーを活用することで「たったの5分」に短縮されました。しかもそれを主導したのは、プログラミング未経験のメンバーだったのです。
「AIは本当に仕事を楽にしてくれるの?」
そんな疑問に対するリアルな答えが、ここにあります。
聞き手:みんなの銀行 CXOオフィス 市原
第1章:口座数増加の裏で疲弊する現場。立ちはだかる「17工程」の壁
写真:今回インタビューに参加した、サービス業務企画部 ビジネスサポートグループの3名。写真左から、富田さん、金澤さん、園田さん。
今回話を聞いたのは、サービス業務企画部 ビジネスサポートグループ(以下、BSG)の皆さんです。
BSGは、簡単に言えば「銀行のオペレーション(裏側の事務手続き)」を実行する部隊。人間の目視確認が必要な業務や、例外的な処理を担う、銀行にとってなくてはならない見えないエンジンです。
富田:私が所属する預金チームでは、例えば相続の手続きや、お客さまからのご要望に応じた残高証明書の発行などを行っています。その中で特に手作業のボリュームが多かったのが「疑わしい取引の届出業務」でした。
園田:コンプライアンス部が指定したものについて、届出書を提出する業務です。社内関係者は10人以上にのぼり、専用のリストからひな形へ転記したり、集計表を作ったりと、とにかく手作業が多かったんです。
みんなの銀行の口座数が増加する中、この届出件数も増加。
届出の作成から提出までは全体で17もの工程があり、部署をまたぐ複雑なやり取りに加え、大量のデータを、一つずつ手作業で、コンプライアンス部から連携されるファイルから届出書を作成するためのファイルにコピー&ペースト(以下、コピペ)する作業は、担当者の時間を大きく奪っていました。
富田:専用リストが送られてくるのですが、そのコピペ作業だけでも7時間……。他の工程も合わせると、トータルで結構な時間になっていました。毎日定時で帰るのは難しく、なんとかしなければという焦りがありましたね。
業務フローが多岐にわたるため、「自分の手元の作業が、全体のプロセスのどこに繋がっているのかが見えづらい」と感じていた。全体のプロセスを細分化したところ17の工程まで整理し、各工程の業務フローを俯瞰した整理の必要性を感じた。
「全体像のブラックボックス化」は、日々責任感を持って質の高いオペレーションを追求する現場メンバーにとって、モチベーションを維持する上で大きな課題となっていました。
写真:富田さん
第2章:「なんとかして!」プログラミング未経験の救世主と、生成AI「Gemini」
みんなの銀行では現在、生成AI(Gemini)の活用を全社挙げて推進しています。社内では、PoC(概念実証)の段階から、AIへの効果的な指示の出し方を全社員から募集する「プロンプトアイデアコンテスト」が開催されました。
優れた活用事例は役員自らが審査・表彰し、特定のIT部門だけでなく、社員一人ひとりが日常的にテクノロジーに触れてスキルを磨く、チャレンジするカルチャーが定着しています。
そんな環境の中、2025年8月にBSGの企画チームへ新たに配属されたのが園田さんでした。前職は金融業界で営業をしており、バックオフィス業務は未経験。もちろん、プログラミングの知識もゼロです。
園田:入社してすぐ、上長から「疑わしい取引の届出業務の負担が非常に高くなっている。全社で進めているAI活用の波に乗って、テクノロジーの力でこの業務を抜本的に改革してほしい」という重要なミッションを任されました。
とはいえ、最初は「疑わしい取引の届出って何?」というレベルからのスタートだったんです(笑)。まずは現場の富田さんにヒアリングを重ねて、業務の全容を把握することから始めました。
園田さんが目をつけたのは、業務フローの多くを占めていた「Excelでの手作業」です。これを自動化する「マクロ」という機能を使えば楽になるはず。しかし、園田さんはマクロのコード(プログラム)を書けません。
そこで彼が頼ったのが、Googleの生成AI「Gemini(ジェミニ)」でした。
園田:Geminiに「こういうExcelのデータがあって、こういう風に処理したいから、マクロのコードを書いて」と、自分がやりたいことを言葉(プロンプト)で指示したんです。すると、AIが自動でコードを書いてくれます。それをExcelに貼り付けるだけで、ボタン一つで作業が終わる仕組みができました。
写真:園田さん
みんなの銀行は、お客さまが使うスマホアプリの「UI/UX(直感的で心地よい操作体験)」に強くこだわっているデジタルバンクです。園田さんが目指したのは、まさに「裏側で働く行員の業務も、ワンクリックで終わるUX(行員体験)にする」ことでした。
プログラミングの知識がなくても、AIに「やりたいことを正確に言語化して伝える力」があれば、システムは作れる。園田さんはこのアプローチで、17ある工程のうち、時間のかかっていた重たい作業を次々と「ワンクリック」で終わるように変えていきました。
富田:社内でAI活用が推進される中、そのポテンシャルは理解していましたが、まさかプログラミング未経験の園田さんが、私たちが抱える17工程もの複雑な専用業務を、これほどのスピードで自動化してしまうとは想像以上でした(笑)。
1時間かかっていた総括表の作成が2分になり、30分かかっていた関数入力が3分になり……。一番苦痛だった3人合計で7時間のコピペ作業が、たった30秒で終わるようになったんです。
システム開発といえばエンジニアにお願いするものだと思っていたので、現場の力で次々と作業が一瞬で終わるようになっていくのを見て、感動しましたし、これからも一緒に効率化にチャレンジしていきたいと感じた瞬間でした。
第3章:RPAとPythonの二刀流。痒い所に手が届く完全自動化への道
Excel内の作業が劇的に改善される一方で、もう一つの大きな壁が立ちはだかっていました。それが、他部署の帳票を見ながら届出に添付する書類をダウンロードする作業です。ここで立ち上がったのが、同じく企画チームの金澤さんでした。
金澤:私の担当領域では、「顧客番号のリストを見て、社内の別システムからPDFを2種類ダウンロードし、指定のフォルダに格納する」という手作業が毎日ありました。
これを3人の担当者が毎日1時間ずつ手作業でやっていたんです。今後口座数と比例して業務量も増える中「人間の手」がやり続けるのはしんどいと思いました。
金澤さんが活用したのは「RPA(Robotic Process Automation)」と呼ばれる、パソコン上の操作を自動化するソフトウェアロボットです。金澤さんは自らRPAの使い方を猛勉強し、人間がオペレーションするのと同様に帳票を参照し、ダウンロードする作業をロボットに覚えさせました。
しかし、RPAだけでは解決できない「細かな壁」がありました。ダウンロードしたPDFファイルに正しいルールで名前を付け直し、それぞれの専用フォルダに自動で振り分けるという作業です。
金澤:RPAだけだと漏れてしまう作業領域がありました。そこで、プログラミング言語の「Python(パイソン)」と、Windowsの操作を自動化する「PowerShell(パワーシェル)」を組み合わせて使いました。
これにより、帳票のダウンロード、PDFの名付けからフォルダへの格納まで、人間の手が一切触れることなく全自動で完了する仕組みができたんです。
Geminiを使ったExcelマクロ、RPAによる自動ダウンロード、そしてPythonによるファイル整理。それぞれの得意分野を掛け合わせることで、かつては手作業のリレーだった業務が、流れるような自動化プロセスへと生まれ変わりました。
写真:金澤さん
第4章:失敗と夜の居残り。過渡期を乗り越えて手に入れた「定時退社」
「7時間かかっていた作業が5分になった」。 数字だけ聞くと魔法のようですが、もちろんボタン1つで全てが順風満帆に進んだわけではありません。
富田:導入直後は、すべてが上手くいっていたわけではないんです。マクロを走らせてみたら文字化けしてしまったり、工程を進めていく中で「実は何個か前の工程でミスがあった」と発覚したり……。そのエラーの修正に追われて、夜の10時まで残業した日々もありました。
生成AIなどの新しいテクノロジーを、これまで人間の手で行われてきた複雑な業務プロセスを、生成AIなどの新しいテクノロジーにより効率化するには、一時的に負荷がかかる「過渡期」が必ず存在します。
金澤:新しいテクノロジーを現場の業務にアジャストさせていく過程では、当然ながら予期せぬエラーも発生します。その原因特定や修正作業に追われ、企画チームも試行錯誤を繰り返していました。
でも、現場の皆さんと密にコミュニケーションを取りながら、一つずつ確実に壁を乗り越えていったんです。
そうした地道な修正作業を重ね、システムはどんどん安定していきました。約半年間の試行錯誤の末、ついにシステムは完成形を迎えます。
富田:立ちはだかっていた壁をみんなで乗り越えた結果、今では定時の17時45分に帰れる日が増えただけでなく、働き方の「質」が大きく変わりました。これまでは目の前の入力作業をこなすだけで精一杯でしたが、今は自動化のおかげで時間が生まれました。
捻出した時間を、周りのメンバーのサポートやチームビルディング、さらには今後のためのマニュアル作成・共有など、「人間にしかできない、人間味のある仕事」に振り分けられるようになったんです。精神的な負担軽減・余裕が生まれたことが、チームにとっても大きなプラスになっていますね。
この劇的な効率化は、BSGチーム単独で成し得たものではありません。
各部が行っている煩雑事務をBSGが巻き取り、一元的に対応する態勢があったからこそなしえた効率化です。そこには、部署の垣根を越えた強固なリレーションが持てているみんなの銀行の体制と、業務フロー全体を見直す視点があったからこそ、この圧倒的な時間短縮が実現しました。
第5章:裏側の「UX」も磨き続ける。次世代バンキングシステムの可能性
富田さんが業務時間中の質があがったことの喜びを語る一方で、今回のプロジェクトによって、新しいテクノロジーの適用領域の拡大がさらに求められるようになったという、AI活用のリアルな側面もあります。
金澤:本件取組み以外にもまだまだ効率化が図れる分野はあります。ですので、私達の仕事に終わりはないのです(笑)。
現場の皆さんと一緒になって、数ある「あえて人がやらなくていい単純作業」が自動化されたことで、人的なエラーが圧倒的に減り(エラー率の減少、)業務完了のスピード感を一緒に認め合うことができた瞬間が私たちにとって一番の成果なんです。
AIを導入すればすぐに魔法のように仕事が消えてなくなるわけではありません。しかし、今回のプロジェクトが示した最も大きな価値は、外部のシステム開発会社に丸投げするのではなく、「現場の行員が自らの手を動かして内製化したこと」です。
驚くべきスピードでこれを実現できた背景には、みんなの銀行が構築した行員システム(バックオフィス業務用のシステム)が、RPAやPythonといった外部の自動化ツールと親和性があり、容易に連携できる「柔軟な設計」であったという強みもありました。
みんなの銀行は、日本初のデジタルバンクとして、既存の銀行に比べて圧倒的な少人数で運営する「ローコストオペレーション」を実現しています。口座数や取引件数が増加しても、それに比例して現場が休む間もなく手を動かし続けるような「労働集約型」の働き方は目指しておらず、データにもとづく、オペレーションの自動化に日々チャレンジしています。
捻出した時間は、新しいサービスの運用準備、AIの適用分野検討・チームビルディングや業務改善(マニュアル化)など「人間にしかできない仕事」へと振り向けられています。
園田:私はプログラミングの知識はゼロでしたが、「何をどうしたいか」をAIに言語化して伝えることで、この効率化を実現できました。
これからの時代、ツールの使い方を知っていること以上に、「課題を見つけ、どう解決したいかを描く力」が大切になるのだと思います。
スマートフォンの中で完結する、シンプルで洗練されたみんなの銀行のアプリ。しかしその裏側には、AIに言葉(プロンプト)を投げかけ、エラーと格闘し、泥臭く伴走する行員たちの熱量が存在しています。
AIという最新のテクノロジーを動かすのは、結局のところ「目の前の課題をなんとかしたい」という人間の意志なのかもしれません。
銀行の未来は、裏側で働く行員たちの「ワンクリックへの執念」から生まれる。BSGはこれからも、人とテクノロジーの掛け算で「銀行の未来」の裏側をアップデートし続けていきます。
※この記事は、みんなの銀行公式ブログ「note」からの転載です。
最新情報やサービス詳細は、みんなの銀行公式サイトをご確認ください。
公式サイト:https://www.minna-no-ginko.com/
(執筆者: みんなの銀行)
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