映画『おしり前マン〜復活のおしり前帝国〜』谷口崇監督インタビュー「作品へのこだわり」「長年見てくださっている方への感謝」

アニメ「森の安藤」などYouTubeを起点に、監督・脚本・作画・編集・声・歌までをすべて一人で手がける自主制作アニメで注目を集めてきたアニメ・イラスト作家、谷口崇さん。YouTubeの総再生回数は1億回を超え、テレビ番組やCM、音楽アーティストへのイラスト提供など、ジャンルを越えて唯一無二の活動を続けてきました。そんな谷口さんの代表作であり、一枚の落書きから誕生したオリジナルヒーロー作品「おしり前マン」が、まさかの長編映画化され、2026年3月20日(金・祝)に全国公開となります。

谷口監督に本作の企画から制作へのこだわりまで、お話を伺いました。

【あらすじ】おしりが前にある、ごく普通のサラリーマン・前尻(まえじり)。しかし彼の正体は――街の平和を守るヒーロー・おしり前マンだった!おしりが前にあるため街の平和を脅かす者を許さないおしり前マンは、日々巻き起こる様々な問題を、新たな仲間との出会いや過酷な試練を乗り越えて解決していく。そんな中、不穏な動きが…。かつて存在したと言い伝えられている”おしり前帝国”を復活させ、人々を支配しようとする邪悪な影が、世界を覆いつくそうとしていた。

——作品をとても楽しく拝見いたしました!まずは長編映画を作ろうと思った経緯から教えていただけますでしょうか。

谷口:2年ほど前から制作を始めたのですが、その時がアニメを作り始めて20周年目だったんです。1番付き合いの長い、17、8年付き合いがある、紙谷(零)プロデューサーから電話があって、節目に大きいことやりましょうと。それまではずっと4、5分の短いアニメーションを作ってきましたが、次のステップというか長編にもチャレンジしたいなと思いクラウドファンディングをスタートしました。

——クラウドファンディングは達成率248%という支持を得ましたね。短編から中編、と段階を踏まずに長編にすることは大変だったかと思います。

谷口:立ち上げの時は、フル3DCGにして、3DCGは専門のクリエイターさんにおまかせして、僕が監督をすることで進んでいたのですが、実際に3DCGにした時に、僕が表現したい微妙な感じの表現がそもそも3DCGでは難しくて。匙加減というか。それで結局80分弱の作品をほとんど全部手書きすることになりました。めちゃくちゃ大変でした。
そういう物理的な大変さもありましたけれど、これまで結構淡々とした1人喋りのアニメが今まで多かったので、これをそのまま80分見せられるのはキツイかな?という懸念もあり、80分間観られるしっかりした作品を作らないとなと、色々考えました。

——ストーリーはどういうところから組み立てていったのですか?

谷口:おしり前マンはおしりが前についているヒーローなので、ヒーローものであるということだけ決めていて、後は特に考えずにやりたいことをザーッとまず書いていった感じです。長編の脚本の経験が無かったので、「劇団ホチキス」を主宰されている米山さんに脚本に入っていただいて、相談しながら一つのストーリーに仕上げていきました。

——米山さんとご一緒して新鮮だったこと、学びがあったことはどんなことですか?

谷口:米山さんが劇団の方なので、いつもは役者さん全員に見せ場がある脚本の作り方をされていると思うんですよね。ただ僕のアニメの世界観が、おしり前マンという特別な存在がいて、あとは周りのキャラクターという逆の作りになっていて。そこのすり合わせに最初に少しだけ時間がかかりました。
僕の作品だとストーリーの本筋的には重要でないキャラクターを、劇団だったらシーン毎にツッコミ役にしたりするのだと思いますが、そうすると「おしり前マン」の世界観と違うなと思ったので、最初にすり合わせをして。今までの僕の作品が好きで観てくれている方はもちろん、米山さんのおかげで別のタイプの笑いが好きな人でも楽しめる、良いところがうまく合わさったものが出来たと思います。

——確かに、今言われて気が付きました。舞台上には“脇役”っていないものですよね。

谷口:そうなんですよね。僕も米山さんの舞台を見に行かせてもらったのですが、「今回の脚本は僕のテイストにかなり寄せてくれていたんだな」と思いました。僕の作品は少し特殊なので、いくら話しても伝わらないときは伝わらないことがあるのですが、米山さんはそこを一瞬で理解してくださってありがたかったです。

あと、脚本で気を付けたのが、今回キャラクターがたくさんいて“会話”があるという部分です。今までは一人語りだったので気にする必要は無かったのですが、今回は掛け合いがあって、でも声は全部僕なので、誰が喋っているか分からない様になってはダメだろうなと。今誰が喋っているのかがちゃんと分かる様に意識しました。

——「おしり前レジェンド」というキャラクターも最高に良いキャラクターでした。ヒーロー映画“あるある”的にも面白かったです。

谷口:僕は実はアニメや映画をほとんど観ないのですが、ヒーローは普段地味な生活をしているという部分だけインプットがあって。誰が観ても「ヒーロー映画っぽい」と思えるのは、僕が何も詳しくないから王道の組み合わせになっているのかなと思います。以前映画『スパイダーマン』の試写に呼んでいただいたことがあって、そこが印象に強く残っているのかもしれません。

——アニメはあまりご覧にならないのですね!

谷口:大学生の頃からアニメを作り始めて、今22年なんですけれど、そこからずっと他の作品を観る時間があったら自分で作っていたいんです。あと、好きな一つのものだけを延々と見る癖があって、『幽☆遊☆白書』が好きなのですが、『幽☆遊☆白書』だけずっと読み続けていて、小学生の頃は戸愚呂弟をずっと一人で模写していました。あとは『HUNTER×HUNTER』も好きで。僕の絵の影の付け方は、冨樫先生の影の描き方に影響を受けています。

——そうやって模写をしていたことも、今のアニメ作りに影響を受けているのでしょうか。

谷口:そうですね、模写したり絵を描くことはそこからずっと好きなので。あと、中学・高校の時に文化祭などで友達と漫才をやっていて。僕は地元が福岡なのですが、友達だけ上京しちゃうけれど、お互いに舞台慣れはしておこうとそれぞれ演劇部に入ったんですね。そこで、喋る演技を始めたことと、ずっと描いていた絵の経験の両方を活かしてアニメを作ろうと思ったことが最初です。

「M-1グランプリ」ってプロじゃなくてもエントリー出来るのですが、その相方と3回予選に出て、1回も笑い起きていなくて。持ち時間3分×3回で9分漫才しているのですが、笑いが本当に一回も起きていないです。漫才って難しいもんだなと思って、そこから今の作風に近づいた所もあります。今回も80分の映画の中にツッコミがいなくて。ツッコミを入れちゃうと、すべった時に「すべったこと」が明確になる。誰もツッコんでいなかったら、笑いが起きなくても、ボケていないフリをしていればいいという。自分で漫才をやってみてボケとツッコミで成立させる能力は無いなと思ったので、こっちにシフトしました。

——それは面白いご経験ですね。谷口監督は長年作品を作られているので、「子供の時から見ていました」とか、そういったコメントも多いですよね。

谷口:20年やっていると長年見てくださる方が多くなってきてありがたいですね。2024年末ぐらいに、渋谷で初めて個展をやって、つい先月にも地元福岡で個展を開催したのですが、親子連れの方も多くて。お父さんが「高校生の頃見ていました」とか、「子供に布教して、『おしり前マンの歌」を歌えるんですよ」とか、「『森の安藤』のセリフを暗記しています」とか、たくさんお話ししてくれて。
以前イベントで似顔絵屋さんをやった時に来てくれたカップルが、個展に7年ぶりくらいに来てくれてお子さんを連れていたり、本当そうやってずっと楽しんでくれていることが何より嬉しいですね。

——お子さんって“おしり”大好きだと思うので、本作も一緒に楽しんで欲しいですね。

谷口:おしり前マンだけの歌はもちろん、とあるキャラクターと一緒に歌っている曲も1曲あって、ミュージカルっぽいシーンもあるので楽しんでいただきたいです。

——谷口監督がこんなに長年アニメを作り続けられたのは、どんなことが理由ですか?

谷口:単純に絵を描くことが好きなんですよね。今はおかげ様で忙しくさせてもらっていますが、仕事が無い時代も絵はずっと描いていたので。先ほどのお話と近いですが、子供の時、学生の時に見ていましたという方が、今30代とか40代とかになって、「会社で企画提案出来る様になったのでご一緒したいです!」と言ってくれたりとかして。そうやって、僕のアニメを見てくれていた方と一緒に仕事が出来て、助けられているなあって思いますね。

——今日は楽しいお話をありがとうございました!

『おしり前マン〜復活のおしり前帝国〜』
公開日:2026年3月20日(金・祝)新宿武蔵野館ほか全国公開!
配給会社:SAIGATE
©2026映画「おしり前マン」/ 谷口崇

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藤本エリ

映画・アニメ・美容が好きなライターです。

ウェブサイト: https://twitter.com/ZOKU_F

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