M&Aは「数字」だけで語れない──企業文化まで解析するAIが、マッチングの在り方を変える

後継者不足や事業承継の問題を背景に、国内M&A市場は拡大を続けている。しかし、そのマッチングは本当に「成功」しているのだろうか。条件や数字が整っていても、企業文化や経営者の価値観の違いによって統合がうまくいかないケースは少なくない。
事業内容や財務指標といった条件が合致していても、交渉や統合の段階で違和感が生じ、結果として破談や失敗に至る──。
こうした“見えにくい相性”は、M&Aの現場において長年指摘されてきた課題だ。
各種調査によると、M&Aが成立した企業のうち、「成功した」と実感している企業は約36%にとどまるという。成果に届かなかった理由として多く挙げられるのが、企業文化や組織風土の違いだ。一方で、マッチングの現場はいまなお、アドバイザー個人の経験や勘に大きく依存しており、こうした相性を事前に捉える手法は限られていた。
この構造的な課題に対し、M&A仲介を手がけるfundbookが、新たなアプローチを打ち出している。
企業文化や経営者の価値観までを解析するAIマッチング
fundbookは、企業文化や経営者の価値観といった非財務情報までを解析するAIマッチングシステム「KEPL(ケプル)」を、2026年1月下旬より提供開始する。
KEPLの特徴は、全国約10万社規模の企業データを横断的に分析し、買手候補を網羅的に抽出するだけでなく、事業や財務といった表層的な条件にとどまらず、企業の歴史や経営方針、経営者の価値観といったナラティブな情報までをマッチング要素として扱う点にある。
従来のM&Aでは、「条件は合っているはずなのに、なぜか噛み合わない」というケースが少なくなかった。KEPLは、そうした違和感の正体を、データとして可視化しようとする試みだ。
「人間の勘」に頼るマッチングの限界
KEPLの中核を担うのが、fundbookが独自に開発したAIフレームワーク「NIF(Narrative Insight Framework)」である。NIFは、企業に関する情報を洞察の深度に応じて構造化し、数値データと同様に解析可能な形で扱う。
事業内容や財務指標といった定量情報に加え、組織文化や経営方針、さらには経営者の人生観や創業動機といった深層情報までを共通の枠組みで比較することで、従来はアドバイザーの経験や感覚に委ねられてきた「相性」を、より客観的に捉えることを可能にする。
M&Aの現場ではいま、マッチングの“広さ”と“深さ”の両立が求められている。KEPLは、こうした要請に対する一つの解答と言えそうだ。
なぜ今、M&Aに「地域」という視点が求められるのか
後継者不足や人口減少といった課題は、特定の企業だけの問題ではない。地域経済全体の持続性に直結するテーマとして、M&Aの位置づけも変わりつつある。
とりわけ地方では、黒字でありながら後継者不在を理由に事業継続を断念する企業も少なくない。こうした状況の中で、M&Aは単なる企業間取引ではなく、事業や雇用、地域に根づいた価値を次世代につなぐ手段として注目されている。
fundbookは2024年末、地方創生や公共DXを通じて自治体や金融機関、地域企業と向き合ってきたチェンジホールディングスのグループに加わった。この接続は、M&Aを「条件が合う企業同士を結びつける行為」から、地域経済の文脈の中で最適な承継先を探る取り組みへと捉え直す視点をもたらしている。
こうした文脈において、企業文化や経営者の価値観までを含めて分析するKEPLのアプローチは、単なる効率化ツールにとどまらない。地域に根ざした企業が、どのような相手であればその価値を引き継げるのか──。AIによるマッチングは、その判断を支える一つの補助線として機能し始めている。
M&Aを「条件」ではなく「相性」で考える時代へ
M&Aは、単なる企業の売買ではない。企業の歴史や人の意思、地域との関係性までも引き継ぐ、極めて重い意思決定である。
数字だけでは語れない要素に、ようやく光が当たり始めた今、M&Aのマッチングは新たな段階に入りつつある。KEPLのような取り組みは、M&Aの成功確率を高めるだけでなく、市場全体の透明性と納得感を底上げする存在になるかもしれない。
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