旧石器時代で青色顔料を使っていた証拠を発見!(彩恵りり)

旧石器時代の芸術と言えば赤色・茶色・黒色しか使われていないというイメージじゃないかな? 実際のところ、鮮やかな青色や緑色の顔料が使われていた証拠はほとんど見つかっていないことから、旧石器時代の人々はそういった色を使わなかったか、もしくは顔料が入手できなかったんじゃないかと考えられてきたのよ。

しかしオーフス大学のIzzy Wisher氏などの研究チームは今回、約1万3000年前のドイツで青色顔料が使われていた証拠を見つけたのよ! この主張に沿うなら、ヨーロッパ最古の青色顔料の痕跡になるのよね。

研究チームは、青色顔料が使われていた証拠があるにもかかわらず、洞窟壁画などに青色顔料が見当たらないのは、身体や衣類など、現代に証拠が残りにくいものに青色顔料を使っていたからではないか?と推定しているよ。

旧石器時代の芸術に青色はない?

【▲図1: フランス、アルタミラ洞窟の壁画の複製。洞窟壁画と言えば、こういう赤色・茶色・黒色が使われているイメージがあるんじゃないかな? (Credit: MatthiasKabel) 】

まずは、旧石器時代の壁画をパッと頭に思い浮かべてみて。思い浮かんだら、その色に注目してみて。おそらく思い浮かぶ色は赤色・茶色・黒色だと思うのよ。

このイメージは、あながち間違いとは言えないのよ。ヨーロッパの後期旧石器時代 (約4万年前から1万2000年前) の洞窟壁画や遺跡を調べてみると、顔料として使われているのは、黄土 (酸化鉄) 、二酸化マンガン、木炭であることが分かっているのよね。一方でそれ以外の色、特に青色や緑色が使われている形跡はほとんどないのよね。

実際のところ、旧石器時代に青色や緑色の顔料が使われていた痕跡は、シベリアのマルタ遺跡 (1万9000年前から2万3000年前) で見つかった小さな人型の像の付着物という、たった1例だけしか報告がないのよ。旧石器時代では洞窟壁画を始めとして、十分に複雑な芸術表現をしていることを考えると、カラフルな顔料が使われてないのはちょっと不思議なんだよね。

この疑問に対して、考古学者はいくつかの考えを示していたよ。最もよく言われているのは、赤系統と黒系統以外の顔料は入手しづらかったというもの。黄土や二酸化マンガンは地面から簡単に入手できるし、木炭も火おこしの副産物として簡単に入手できるよね。一方で青色や緑色となると、銅が豊富な土地で入手できる鉱物を使う必要があるから、入手が不可能とまでは言わなくても、それなりの労力をかけなきゃいけないということになるよ。

あるいは、赤色は目立つし興奮させる色だから意図的に選んだとか、暗い洞窟の中で火で照らした時に見やすい色だからとか、そういう考えをする人もいるよ。

ただ、青色と言えば水などを連想させる色。水は生きるための大事な資源なのに、それを芸術表現に取り入れないというのは、ちょっと不思議なところがあるよね。

旧石器時代でも青色顔料を使っていた証拠を発見!

オーフス大学のIzzy Wisher氏などの研究チームは、ドイツのミュールハイム=ディーテスハイム (Mühlheim-Dietesheim) にある遺跡の発掘物の再調査を行ったのよね。この地域は最終旧石器時代 (約1万4000年前から1万1700年前) の遺跡がいくつかあり、1976年から1980年にかけて発掘調査が行われ、遺物が収集されているのよね。

【▲図2: 今回分析された石器。凹んだ形から石油ランプと思われていたんだけど、よく見ると青いものが付着しているのよね。 (Credit: Izzy Wisher, et al.) 】

今回の研究では、約1万3000年前の石器を調べてみたよ。この砂岩でできた石器は、中央部が少し凹んでいることから、発掘当時は石油ランプであると解釈され、ミュールハイム市博物館 (Stadtmuseum Mühlheim) で展示されていたのよね。

しかしこの石器をよく見てみると、青色の付着物があるのよね。また同じ発掘現場からは、顔料として使われていたと思わる黄土の破片も見つかっているのよ。このことから、もしかしてこれはヨーロッパでは最古となる青色顔料の痕跡じゃないかとなったわけ!

ただ、それこそヨーロッパ最古という大それた主張をするわけだから、研究チームも慎重に分析を行ったよ。まずは非破壊的な方法で簡易的な判定を行い、これが現代での汚染、たとえば出土品を整理する際に誤ってペンをつけちゃったとか、そういう可能性を排除したよ。インクである可能性がなくなると、次に最低限のサンプル採集を行い、より詳しい分析をしたよ。

【▲図3: 青い部分の拡大写真。分析の結果、これは藍銅鉱という鉱物だと判明したよ。他の分析結果から、これは青色顔料として使われていたことが示されたんだよね。 (Credit: Izzy Wisher, et al.) 】

分析の結果、この青色は藍銅鉱 (アズライト) という、銅の炭酸塩鉱物であることが分かったんだよね。藍銅鉱は近現代でも青色顔料として使われることから、俄然青色顔料の痕跡である可能性が出てくるわけ。また、藍銅鉱は砂岩の最も表面にだけ存在し、ちょっと内部に入り込むと存在しないことから、地面に埋まっている間に自然発生した可能性は低いと考えられるよ。

そして、見た目には青色とは分からないけど、藍銅鉱が付着している石器の凹んだ側のあちこちに、藍銅鉱に由来すると思われる銅の痕跡が見つかったのよね。裏返した反対側に銅の痕跡がないことを考えると、凹んだ側では薄く藍銅鉱が広がっていたのが、地面に埋もれた後の風化作用によって藍銅鉱が分解し、見えにくくなっていると解釈することができるのよね。

これらの証拠から、この石器は石油ランプではなく、顔料を練るための器、あるいはパレットであったと考えられるのよね。同時にこれは、旧石器時代のヨーロッパで、藍銅鉱が青色顔料として使われていたことを示す証拠である、と研究チームは主張しているのよ!この主張に沿うなら、ヨーロッパで最古の青色顔料の証拠ということになるよ。

青色顔料を何に使ってた?

【▲図4: 黄色い四角が遺跡の場所。青い丸が藍銅鉱の産地。藍銅鉱の産地よりはるかに遠くの産地から出る黄土や火打石が遺跡から見つかっている以上、藍銅鉱の入手のしにくさが使われなかった理由だとは考えにくいよ。 (Credit: Izzy Wisher, et al.) 】

藍銅鉱に含まれる微量元素の分析から、藍銅鉱は遺跡のすぐ近く、ライン川やマイン川の流域から採集されたと考えられるのよね。実際、これらの地域には藍銅鉱が取れる場所がいくつかあるよ。しかもこの遺跡では、藍銅鉱よりはるかに遠い場所で産出した黄土や火打石が見つかっているのよね。はるかに近い地元産の青色顔料が入手可能な状況で、今回は実際に使っていた痕跡が見つかったとなれば、単に入手難易度の高さが青色顔料の使用を避けていた理由にはならないということになるね。

しかし、洞窟壁画や像のような芸術品に、青色顔料の痕跡が見つかってないのもまた事実。この矛盾をどう説明するんじゃいってことになるよね。研究チームは、旧石器時代の人々の青色顔料の使い方が、遺物として残りにくいものだったんじゃないかと考えているよ。例えば顔や身体にペイントしたり、布地を染めるのに使っていれば、現代ではその痕跡が残らないからね。

いずれにしてもこの発見は、「旧石器時代の芸術に青色は使われていない」という長年のイメージを覆す発見だと思うのよね。今後の研究で更なる証拠が見つかれば、旧石器時代の芸術に関するイメージが一新されるかもしれないから、とても注目される発見だと思うのよ!

(文/彩恵りり・サムネイル絵/島宮七月)

参考文献

● Izzy Wisher, et al. “The earliest evidence of blue pigment use in Europe”. Antiquity, 2025; 99 (408) 1464-1479. DOI: 10.15184/aqy.2025.10184
● Felix Riede & Izzy Wisher. (Sep 29, 2025) “Forskere fra Aarhus finder Europas ældste blå pigment i Tyskland”. Aarhus Universitet.

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